第三十話 わたし(俺)、選ばれる側に立つ
前回から、
空気は落ち着いている。
嵐が去った、
というより――
溜めている。
それが分かる。
朝の連絡。
「本日の午後、
臨時演習を行う」
参加者は、
希望制。
(……なるほど)
抑止力としての
立ち会いではない。
今回は、
“代表”を決めるための場。
誰を前に出すか。
誰の判断を信じるか。
選ぶのは――
学園じゃない。
生徒だ。
演習前。
人が集まる。
多くはない。
だが、少なくもない。
教師は、
こちらを見ない。
(委ねたな)
開始。
進行は、
あえて荒い。
判断が割れる場面。
止めてもいい。
進めてもいい。
何度も、
選択が迫られる。
わたし(俺)は、
前に出ない。
指示もしない。
声も張らない。
ただ――
見ている。
止めるべき瞬間。
見送るべき瞬間。
それを、
“自分ならどうするか”
考え続ける。
終盤。
小さなトラブル。
誰かが、
こちらを見る。
一人。
また一人。
視線が、
集まる。
(……来た)
「どうする?」
誰かが、
聞いた。
答えない。
代わりに、
問い返す。
「君は?」
一瞬の沈黙。
「……止める」
「理由は?」
「危険度が、
上がりすぎてる」
周囲が、
頷く。
教師が、
介入する。
「では、
その判断で」
演習は、
中断された。
怪我はない。
混乱もない。
終了。
拍手は――
起きない。
でも、
誰も離れない。
誰かが言う。
「……次も」
「この人が、
見てくれたらいい」
同意が、
静かに広がる。
彼女が、
隣に来た。
「選ばれたね」
「まだ」
「でも」
彼女は、
少し笑う。
「もう、
拒めない」
視界に表示。
《立場:選出候補》
《支持:集約開始》
《次段階:正式化》
(立たされた)
自分で前に出た
わけじゃない。
でも――
逃げなかった結果だ。




