第三話 わたし(俺)、悪行を成敗する
結論から言う。
こいつは、分かりやすい。
前世で何度も見てきたし、
正直、わたし(俺)自身が一番近かったタイプだ。
場所は屋敷の中庭。
魔力訓練の見学という名目で、わたし(俺)は外に出ていた。
そこにいたのは、若い男性使用人。
年は二十代前半。
顔立ちは悪くない。
問題は、態度だった。
「だからさぁ、言ったよね?」
声は低く、柔らかい。
でも語尾が、妙に上から。
相手は年下の女性使用人。
肩をすくめ、視線を落としている。
「これ、前にも教えたでしょ。
覚える気、ある?」
(出た)
距離は近い。
声は抑えている。
周囲に聞こえない“指導風”。
完全に、前世で見覚えのある構図だった。
「すみません……」
女性使用人が小さく答える。
その瞬間、視界に文字が浮かぶ。
《悪行検知:軽度》
《分類:立場利用・精神圧迫》
(軽度、ね)
でも、積み重なる。
わたし(俺)は、一歩前に出た。
「何をしているの?」
声をかけると、男性使用人は一瞬だけ驚いた顔をした。
すぐに、取り繕うように笑う。
「ああ、お嬢様。
いえ、指導ですよ。仕事がまだ――」
「そう」
わたし(俺)は、静かに遮る。
「では、あなたは完璧なの?」
一拍。
「……え?」
予想外の質問だったらしい。
「一度も間違えたことがない人だけが、
そういう言い方をしていいと思う」
声は柔らかい。
でも、逃げ道を潰す言葉。
男性使用人は、口を開けたまま固まる。
「それとも」
一歩、近づく。
「“教えている自分”が気持ちよくなってる?」
空気が、凍った。
女性使用人が、びくっと肩を震わせる。
(効いたな)
前世のわたし(俺)なら、
この時点で逆ギレしていた。
「冗談だろ」
「そんなつもりじゃない」
――言い訳のテンプレ。
男性使用人も、同じだった。
「い、いや……そんな……
誤解ですよ、お嬢様」
「誤解?」
わたし(俺)は、首をかしげる。
「じゃあ、今の言い方、
あなたが上司からされたらどう思う?」
答えられない。
沈黙が、すべてだった。
その瞬間、視界に新しい表示。
《悪行指摘:成功》
《精神的優位を逆転しました》
《スキル経験値+5》
(結構、入るな)
わたし(俺)は、最後に一言だけ告げる。
「指導は、相手が成長したときに成立するの」
「怖がらせたら、それはただの自己満足」
男性使用人は、深く頭を下げた。
「……失礼しました」
女性使用人の顔が、少しだけ明るくなる。
(これでいい)
派手な断罪はいらない。
でも、線は越えさせない。
わたし(俺)は、その場を後にしながら思った。
前世では、
誰も止めてくれなかった。
だから、止まれなかった。
(今度は、違う)
美少女の姿で、
元・問題社員の経験をフル活用して。
悪行は、成敗する側に回る。




