第二話 わたし(俺)、違和感を嗅ぎ取る
結論から言う。
この屋敷、絶対に一人はいる。
前世で散々見てきた、
「自覚のない問題人物」が。
目覚めてから数時間。
わたし(俺)は“お嬢様”として、最低限の説明を受けていた。
名門貴族の娘。
幼少期から魔力適性が高い。
体調不良で寝込んでいたが、回復。
設定は完璧。
転生テンプレとしては文句なしだ。
だが。
(説明が丁寧すぎる)
部屋にいるメイド――初老の女性。
言葉遣いは柔らかく、態度も丁寧。
それなのに、視線が微妙に近い。
「お嬢様、分からないことがあれば、何でもお聞きくださいね」
距離、一歩分近い。
声量、やや過剰。
善意100%を装った圧。
(あー……このタイプ)
前世で、何度も見た。
「心配してるだけ」
「悪気はない」
「お嬢様のためを思って」
――本人は、そう思っている。
わたし(俺)は、あえて曖昧に微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
すると、メイドは一瞬だけ眉をひそめた。
ほんの一瞬。
本人すら自覚しないレベルの、違和感。
(当たり)
この世界にもいる。
立場の差を使って、無自覚に踏み込んでくる人間。
その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。
《観察:成功》
《悪行予兆を検知しました》
(予兆、ね)
攻撃じゃない。
でも、確実に積み重なるタイプのやつだ。
前世のわたし(俺)も、
きっと誰かに、こう思われていた。
――「悪い人じゃないんだけど」。
メイドは、さらに続ける。
「では、お着替えを。わたくしが――」
「自分でやります」
被せ気味に言った。
空気が、わずかに止まる。
「……ですが、お嬢様は――」
「一人でできます」
笑顔は崩さない。
声も柔らかい。
だが、拒否は明確。
数秒の沈黙のあと、メイドは引き下がった。
「……かしこまりました」
背中が、少しだけ硬い。
(これでいい)
いきなり断罪する必要はない。
まずは線引き。
前世では、それができなかった。
その直後、スキル表示が更新される。
《悪行回避:経験値+1》
《スキル進化条件を満たしました》
(回避でも、入るのかよ)
思わず内心でツッコむ。
悪行をする側の思考を知っているからこそ、
未然に止められる。
それが、この世界での“力”らしい。
わたし(俺)は、深く息を吐いた。
(大丈夫だ)
ここでは、同じ過ちは繰り返さない。
――いや。
同じ過ちをするやつがいたら、
わたし(俺)が止める。
美少女の皮をかぶった、元・問題社員として。




