第十六話 わたし(俺)、悪意を見抜く
あの出来事から、
学園は静かすぎた。
事故の後は、
もっと騒がしくなるものだ。
再発防止。
注意喚起。
形式的な謝罪。
それすら、ない。
(隠してるな)
そう思った理由は、
小さな違和感だった。
演習申請の記録。
魔力使用ログ。
結界の作動履歴。
どれも、
“整いすぎている”。
(人が作った痕跡だ)
午後。
自由演習区画。
人は少ない。
監督も最低限。
わたし(俺)は、
端の壁際で様子を見ていた。
来た。
例の生徒だ。
前回、怪我をしたのとは別。
目立たない。
成績も普通。
でも――
魔力の立ち上がりが、早すぎる。
(……仕込んでる)
詠唱が始まる前から、
魔力が走っている。
普通ならありえない。
視線を巡らす。
結界担当。
補助具。
刻印位置。
(ズレてる)
ほんの数ミリ。
だが、致命的。
意図的に、
結界の反応を遅らせている。
(事故じゃない)
わたし(俺)は、
深く息を吸った。
――越える条件。
独断じゃない。
偶然じゃない。
責任を押し付けない。
(全部、そろった)
「待って」
声を出した。
周囲が振り向く。
「まだ開始許可が出ていない」
教師が眉をひそめる。
「規則通りだ」
「確認を一つ」
間を詰める。
「結界刻印、
昨日と違いませんか?」
空気が止まる。
教師が刻印を見る。
補助担当も覗き込む。
「……誰が調整した?」
生徒が、
一瞬だけ目を逸らした。
(確信)
「この状態で魔法を撃てば、
結界は遅れる」
「前回と同じ事故になります」
ざわめき。
生徒会補佐が、
前に出ようとする。
だが――
「今は、現場判断です」
わたし(俺)は、
教師を見た。
逃げ道は、
もうない。
教師は歯を食いしばり、
手を上げる。
「中断! 全員、下がれ!」
結界が再調整され、
魔力は霧散した。
事故は――起きなかった。
生徒は、
その場に座り込む。
「……違うんだ」
誰も、
信じなかった。
後で分かったこと。
刻印の改変。
ログの改ざん。
事前準備。
すべて、
意図的。
視界に表示。
《越境行為:承認》
《結果:成功》
《被害:ゼロ》
放課後。
「……踏み越えたね」
彼女の声。
「うん」
否定しない。
「怖くなかった?」
「怖かった」
「でも」
一拍。
「見逃す方が、
もっと怖かった」
彼女は、
ゆっくり頷いた。
遠くで、
銀髪が揺れる。
セレスだ。
彼女は、
何も言わず、
ただこちらを見ていた。
(見届けられた)
もう、戻れない。
でも――
守れた。
それでいい。




