第十五話 わたし(俺)、線を引き直す
あの出来事は、
学園の中では「事故」として処理された。
規則は守られた。
対応も迅速だった。
被害も、最小限。
だから――
議題にはならない。
(それが、答えか)
怪我をした生徒は、
数日で復帰できるらしい。
皆、それで安心する。
「よかったね」
「大事にならなくて」
正しい反応だ。
間違ってはいない。
でも――
胸の奥が、冷えたままだ。
放課後。
人気のない階段。
わたし(俺)は、
ノートを広げていた。
規則。
運用。
判断権限。
今まで引いていた線を、
一本ずつ消していく。
(守る線じゃない)
(縛る線だ)
「……それ、何してるの?」
声。
顔を上げると、
彼女がいた。
最近は、
声をかけられても驚かなくなった。
「整理」
「うそ」
即答。
「壊してる顔」
図星だった。
「壊さないと、
守れないものがある」
言葉にしてみると、
自分でも驚くほど、
自然だった。
彼女は、
一段下の階段に座る。
「どこまで、行くつもり?」
「まだ、決めてない」
「越えるって言ってた」
あのときの言葉を、
ちゃんと覚えている。
「越える条件を、
探してる」
「条件?」
「独断じゃないこと」
「偶然じゃないこと」
「責任を、押し付けないこと」
一つずつ、口に出す。
彼女は、
しばらく黙ってから言った。
「……それ、全部そろったら」
「うん」
「戻れないね」
「戻らない」
即答だった。
前世では、
一度も言えなかった言葉。
沈黙。
彼女は、
膝の上で手を組み、
少しだけ俯いた。
「じゃあ」
顔を上げる。
「見届ける」
「止めないの?」
「止めたら、
あなたじゃなくなる」
(……参ったな)
それは、
一番欲しかった理解だった。
視界に表示。
《方針再定義:進行中》
《リスク評価:上昇》
《協力関係:維持》
(線は、引き直した)
守るための線だ。
壊すためじゃない。
でも――
次に何かが起きたら。
その時は、
もう迷わない。




