第一話 わたし(俺)、美少女として目覚める
目を覚ました瞬間、わたし(俺)は理解した。
――詰んだ。
天井は白い。
やけに高い。
カーテンは薄桃色で、光が柔らかく差し込んでいる。
そして何より――
視界に入ったのは、細く白い指だった。
「……誰だよ、これ」
声を出した瞬間、違和感が確信に変わる。
高い。
澄んでいる。
完全に女の声。
わたし(俺)は、ゆっくりと上半身を起こした。
胸に感じる、明らかに余計な重量。
(ああ、終わったな)
鏡を探し、壁際に置かれた姿見を見る。
そこにいたのは、
銀髪、碧眼、整いすぎた顔立ちの少女だった。
美少女。
テンプレみたいな美少女。
わたし(俺)は、鏡の中の少女と目を合わせる。
「……誰だよ」
少女も同じ口を動かした。
確定。
転生。
(よりによって、美少女かよ)
前世の記憶が、嫌というほど鮮明に蘇る。
会社員。
中間管理職。
部下に強く当たりすぎたこともある。
軽口のつもりで言った言葉が、誰かを傷つけたこともある。
飲み会でのノリ。
場の空気。
「冗談だろ?」という言い訳。
――全部、覚えている。
(そりゃ、転生もするわな)
そのとき、頭の奥に何かが流れ込んできた。
【スキル発動条件を確認】
意味の分からない声。
直後、視界に文字が浮かんだ。
《悪行適性:SS》
(は?)
《前世評価:極めて高い》
(褒めてんのか、それ)
《悪行経験値を魔力に変換します》
理解した瞬間、わたし(俺)の背筋が冷えた。
――つまり。
前世でやらかした分だけ、強くなる。
(ふざけんなよ)
だが同時に、確信する。
これは、ただの転生じゃない。
「……なるほど」
わたし(俺)は、小さく笑った。
前世では、
空気を読めず、
正論を振りかざし、
余計な一言を言い続けた。
なら――
この世界では、その経験を“武器”にすればいい。
「悪行で、無双ってわけか」
美少女の口から出るには、あまりにも場違いな言葉。
だが、わたし(俺)の中では、妙に腑に落ちていた。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
上品な女性の声。
わたし(俺)は、一瞬だけ表情を整える。
(まずは、美少女として生き残る方法を覚えないとな)
そして、静かに答えた。
「……はい、起きています」
声は完璧な少女だった。




