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千文字短編シリーズ

毛糸の帽子の鬼の子の

作者: 夜霧ランプ

 薄暗い空の下。風が渦を巻き、雪はバチバチと跳ねた。

 コートと手袋を身に着けていても、服の隙間から冷たさが刺す。

 白い息を吐き、ツグミは向かい風を歩く。空っぽのボトルの取っ手がキィと鳴く。

 スープ屋さんに辿り着いた。

「ミルクのスープを下さい。一番安いのを」

 店主は幼子のお使いを笑顔で受け入れ、ベーコンの切れ端の他、半分のジャガイモを一つと、ブロッコリーを二房入れてくれた。


 スープ屋さんを眺めている男の子が居た。

 毛糸の帽子を被ってセーターを着ている。セーターの丈は、男の子の膝まであった。靴は履いてない。

「風邪引くよ」と、ツグミは声をかけた。

 男の子は瞳を瞬いて、「風邪?」と聞いてきた。

「うん」と、答えた。

 それだけのやり取りをした後、ツグミは家に向かって歩いた。


 小屋のような家の前で、鍵を取り出し、扉を開けた。

 振り返ると、何故かさっきの男の子が居る。

 ツグミは呼びかけた。

「おいで。その恰好じゃ寒いから」

 男の子はまた瞬きをしてから、ツグミに続いて扉を潜った。


 ベッドに横たわっていた母親が、薄く瞼を開けた。

「ああ……。ご飯は、買えた?」と、掠れ声を出す。

 ツグミは「うん」と答え、消え欠けのストーブに薪を入れた。

 棚から皿を三つ。それからパンを一塊取り出し、三切れ切る。

 ジャガイモも三つに分ける。ブロッコリーは母親の分だ。

 ボトルを傾け、湯気の残るスープを、皿の上に注いだ。

「食べよう」と声をかけ、ツグミはベッドに目をやった。

 男の子が、母親に吐息をかけている。

 冬の霧を凍らせたような光が、ちらちらと輝いていた。

 母親は微笑みを浮かべて、深く眠り込んだ。

「ママ?」と、ツグミは声をかけた。

 それから、男の子に聞く。

「何をしたの?」

 男の子は首を傾げ、「魔法」と答えた。

 その銀の欠片を浮かべた紺の瞳は、冬の夜空の様だ。

「貴方、神様なの?」と、ツグミは聞いた。

 男の子は「ずっと昔はね……」と言って、帽子を取った。

 其処に小さな二つの角がある。

 ツグミは何も言えずに居た。

 男の子はまた頭に帽子を被せ、「スープをありがとう」と言うと、風の吹く扉の向こうへ帰って行った。

 

 扉が閉まり、風が止む。

 見れば、皿のうちの一つが、空っぽになっていた。


 数日の後、母親は働きに出られるようになった。

 娘は今日も夕飯のスープを買いに行く。

 あの男の子は、再び姿を現す事は無かった。

 それでもツグミはしっかりと覚えている。

 星屑の瞳と、小さな角を持つ、忘れられた神様を。

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