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3回目なんだが…

「本当に2人から告白されたんだよな」


 乙木から告白されて、慌てて逃げてきてしまった俺は、家に向かい歩きながら、2人のことを考えていた。


 隣の席の卯月と、後輩でラブレター嘘告白をしてきた乙木の2人から告白をされた。

 卯月は度々からかってくるが、1回目のときだって助けてくれた優しいクラスメイト。乙木は嫌なことは嫌と言って真っすぐ突き進む、正義感のある嘘を吐いたりはしない頑張り屋な後輩。

 普通だったら俺だってすぐに返事をしている。でも――


「馬鹿じゃないの? 斎藤なんかと付き合うわけないじゃん! あれはただの遊びなんだから。騙しちゃってごめんね? あれは嘘告白だったんだよ」


 嫌な記憶が頭を過ぎる。

 嘘告白。俺に三度も訪れた悪夢のような流行り遊び。あのときはクラスメイトたちが、他の生徒がいた。全員が俺を笑っていた。


「あんなことは二度とごめんだ。でも!」


 今回は違った。


 卯月からはキスを、乙木からは思い出のバンダナを見せられた。


 海江田は嘘告白が挨拶に変わったと言っていたし、あの告白だ、間違いないだろう。

 思い返してみれば、他の生徒はあの場には誰もいなかった。笑わせる相手がいなかったってことだ。

 つまり――


「ついに、ついにやってきたんだ、嘘なんて気にしなくてもいい本当の青春が‼」


 興奮が溢れ出し、道の真ん中で大きくガッツポーズを決める。

 こんな姿だったら誰にでも撮られたっていい。snsに流されたって構わない。やっときたんだ、俺の春が! 1年目はあれによって消え去ったが、2年目にしてようやく! しかも知らない子じゃなくて、あの卯月と乙木だ。


「あとはどっちに告白をするか――」


「何をやっているんですか?」


「げっ!」


 そこに立っていたのは、俺の家の店でバイトをしている柏木沙雪だった。冷たいと言っても過言ではない視線が突き刺さる。


 もう家の前まで来ていたのか。気付かなかった。


 俺の家は少しだけ有名だった。『喫茶霞』。曾祖母の時代からやっている居酒屋兼喫茶店で、昔は駅が近く、料理がおいしいということで繁盛店だったらしい。今では両親がここで出会い結婚したということから、結婚願望のある人も来ていて、お客さんが絶えない。


 壊れそうな音のする、従業員用の入口の扉をゆっくりと開いた柏木は、俺を指さした後、お店の入口を指差した。


「げっ! って、なんですか? 遅かったですね? 佑馬さん? ガッツポーズまでしてましたが、もうお客様がいっぱいなんですけど、気付きませんでしたか?」

「…………」


 ……見られていたのかよ。しかも、柏木に。確かにお客さんいっぱいだな。こんなところでガッツポーズなんてしていたのかよ!


「いや、ちょっと、な。先生に呼び出された後、解放されていろいろあったから嬉しくてつい、な?」


 いろいろの部分が重要なのだが、こいつには言わないで置く。あとで母さんに何を言うか分かったものじゃない。


「そうですか。ならさっさと着替えて、お客様に商品出してあげてください。私一人じゃもう無理です」

「……分かったよ」

「早くですからね」


 そう言って、柏木は勢いよく扉を閉めた。

 ほんと、なんでこいつは俺にだけ冷たいんだ。母さんには優しいのに。まぁ、今はそんな事考えている場合じゃないな。さっさと着替えよう。


「そういえば、言い忘れていました」

「危なっ! 急になんだよ!」


 俺が扉を開けようとした瞬間、少しだけ開いていた扉から柏木が顔を半分のぞかせてきた。何故か頬が赤くなっている。風邪でもひいたのか? こいつも告白してきたりして。いや、そんなわけ――


「斉藤佑馬さん。私と付き合ってくれませんか?」


 柏木は顔を隠しながら、ぶっきらぼうにそう言った。


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