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氷のままで  作者: 伊藤@
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南の国


 ビバ南国!


 トカゲちゃんを拾ってから三日目に南の国ナチュトゥーリァに着いた。

 トータル八日間の船の旅。船から降りてもまだ地面が揺れている感覚がする。

 移動手段は他にもあったけど海が見たかったのだ。


 日本の南国と言えば、白い砂浜、何処までも透き通った青い海、まさにリゾート!こんな感じ。

 こちらもリゾートなのは変わらないけど、ドピンクの砂浜に透き通ったエメラルドグリーンの海。何処までも透き通った海なのでデカい魔魚とその下に隠れるようにカラフルな小魚、小魚を狙うフワフワな魔鳥が呑気に飛んでいて。

 デカい魔魚のせいで誰も泳いでないし。


 …思ったのと違う。


「キョウコ殿、こっちです」

「はーい!今行きます」


 柱に屋根だけついてて壁は薄い布が何枚も垂れ下がってて、風が通るたびフワフワとたなびいてロマンティックなコテージに通された。

 え、これ脳筋が選んだの?。


「昼は涼しく、夜は魔導具で部屋が仕切られるのでご安心ください」

「はい、何から何までありがとうございます」


 アゼラ国を出る時に中々船に乗せてくれなかったけど、アゼラ国民として旅をする事とハロルド様が護衛する事で出国出来るようになった。ありがたや。


 トカゲちゃんは文字通り殻に籠もってしまった。ハロルドとご飯になりそうな葉っぱを貰って部屋に戻るとクッションの上には乳白色の丸い卵があった。


「ああ、成る程」

「え?トカゲちゃんは?」

「あの殻の中で竜気を貯めてるようですね」

「へー!不思議ですね、取り敢えず安心ということですか?」

「はい、そうなります」

「少しお休み下さって大丈夫ですよ」

「ならお言葉に甘えて」


 部屋にあったハンモックに横になって見た。ユラユラ揺れ涼しい風にすっと寝入った。




□□□□□



 子供の頃は普通に誰かの特別になれるんだと思ってた。

 結婚して子供を産んで孫に囲まれてとか。それはテレビのCMやドラマ、雑誌が頭に刷り込むように流れてたしそうゆうものなんだろうなって雰囲気だった。


 どうも自分は普通に誰かの特別になれないのかもしれないって漠然と思ったのは高校生の時。


 好きになって付き合うようになって少し早い初体験もしたけど、特別って感情が分からなかった。

 好きと言われれば、まあ好きかくらいで。そんな空気感を彼も感じたのかもいつの間にか連絡もこなくなって自然消滅してた。

 あんまり興味がなかったから悪いことをしたなとは思った。

 でもそれから付き合う人も、ほぼそんな感じで、少ない友達の一人から言われたのは。


「恭子って他人に興味ないよね。あ、勿論良い感じでだよ?ほら何かと詮索してくる人もいるじゃん、それより全然いいし」


 あっバレてる……って思った。

 そっか友達からしても私は他人に興味無いってバレバレなのか。


「かといって自分大好きって訳でもないよね、なんか悟ってるというか、達観してるというか、この世に未練なさそう」


 そう言ってケラケラ笑ってた、酔ってたからかもしれないけど、きっと本音で確かに私はそうだった。


 それで気が付いたというか、不毛な関係を作らない事にした。

 軽い気持ちで誰かの側に一生なんて無理だし、命を掛けてその人の子供を産みたいなんて人もいなかった。


 なんとなく世間とのズレを感じ始めて、生きづらさまではいかないけれど、きっとこのまま誰とも特別にならずに年をとってひっそり死ぬんだろうなって思ってた。


 あの日までは。


 一目惚れ。


 まさか自分にそんな事起こるなんて信じられなかった。

 だから素直になれなかったし、いきなり距離感も間違った、好きという感情に振り回されて苦しくて苦しくてそれでも諦めつかなくてなんとか告白して付き合える事になった時の喜び。


 でも付き合える時に感じた違和感を無視したのは私。小さな違和感。


 違和感の正体は簡単だった、彼は私を好きなだけで、私は彼を愛していたってこと。

 そのうち彼の中にあった私を好きだった感情は消えて、別の人を好きになって…。浮気された。


 私の中にあった感情の全てがズタズタになったあの日。


 異世界に召喚されたのだ。


 絶叫する絶望の中で縋るものも無くて何もかも憎くて、思い出さえも私を切り刻んで、憎しと怨みでパンパンにはち切れそうになって、暴力を振るわれて、どんどん体を壊されていって。

 何のために生きてるんだろうって死を望んで。あと少しで楽になれる時に救い出された時の気持ち。

 ぐちゃぐちゃで泥々でなんで私がこんな目にって思って、八つ当たりなのはわかるし悲劇のヒロイン気取りだと思うけど。





「キョウコ殿…キョウコ殿?」


 目を覚ませばハロルド様に声を掛けられていた。嫌な夢。最低。びっしり寝汗で気持ち悪い。


「うなされていたので、大丈夫か?」

「……起こしてくれてありがとう」

「もう少しで夕食のようだ、風呂に入るとよい」

「そうします」


 のそのそと起き上がり風呂場へ向かう。あれから三年。灼ける様な憎悪もマグマの様な怒りも無くなった。

 たまにごく偶に思いだすと心がキツイけどそれだけだ。だから久しぶりに昔の気持ちを思い出させる夢を見て首を傾げた。


 ふと自問自答する。

 もういい?

 ううん、まだ駄目。

 まだ許せない?

 ううん、もうどうでもいい。

 ならなんで?

 だってまた人を好きになったら怖い。

 裏切られたら嫌だ。

 そうだね。

 だから信用しない。しなくていい。

 心は明け渡さない。それでいい。

 私には私がいる。自分を裏切らない。


 部屋に戻ればハロルドの姿はなかった。自分の部屋に行ったらしい。

 旅を始めてまだ八日間だけど、旅行をすると本性が見えるが彼は嫌な部分が見えなくてホッとした。


 クッションの上のトカゲの卵を触る。

 君は何処からきたの?何となく気になって荷物から水晶を取り出して異能を使う。


 映し出されたのは。


 白い竜人、卵、緑の竜人。


 元凶どもやん。





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