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氷のままで  作者: 伊藤@
6/9

空からトカゲ


 アゼラ国を出国して五日。


 船から見る景色は最高。

 そうハロルド様の王様がいる、助けて貰ったあの国はアゼラ国なんだって国名すら気にもしなかった。

 今、私はアゼラ国民として旅してます。はい。


 偶に港に行くこともあったけど、船から見る海の色はまた綺麗で、偶に天候が荒れて時化る時は海が七色に光り輝いて幻想的。

 空は抜ける様なエメラルドグリーン。雲は黄緑色。

 甲板から景色を眺めてると、この暑い最中にきっちりアゼラ国の騎士服(長袖)を着込むマッチョ。

 

 あ、暑苦しい…物凄く暑苦しいよ。

 こんなにも心が洗われる景色だっていうのにさ。ビッタリムキムキマッチョがへばりついてる。


「ねぇヒース様」

「ハロルドでお願いしたい」

「ヒー」

「ハロルドと」

「あ、はい」


 どうした脳筋、この暑さで頭が溶けたか?


 この客船の部屋は一人一部屋、最初は部屋から見る海の景色も流石に三日目、四日目ともなると飽きてくる。

 人間慣れると飽きるってあれだね、なんとも贅沢に作られてる脳みそ。


 今日は波が穏やかで、船客は甲板にでて鳥に餌を上げていた。


 鳥?


「キョウコ殿も餌をあげてみますか?」

「ヒー」

「ハロルドです」

「えっと、ハロルド様」

「はい、何でしょう」

「あれは鳥?」


 人の頭程ある丸々とした白いフワフワの体に蝙蝠の飛膜の羽根、取ってつけたような目と口。


「あれは魔鳥です」

「魔鳥…」

「食べても美味しいですよ」

「た?!食べません!」


 羽根を閉じるところりとした丸いフワフワだ。餌にしている甘い菓子をつついている。

 可愛い、何これ。

 ふらふらと一匹の魔鳥が私に近寄ると手のひらに何か落として飛び去った。

 小さい乳白色のトカゲ。突かれたのかあちこち傷ついてる。


「ハロルド様!魔鳥がトカゲをくれました!」

「…え? …はい。そのようですね」


 流石のハロルド様も目を点にしてる。

 我に返ったハロルド様は、ひょいとトカゲを掴むと海に捨てようとして吃驚した。


「ちょっ!!何やって!!やめて下さいよ!可哀想じゃないですか」

「いやでも…」

「でもって!生きてるし!ほら!」


 グググッと腕を掴んでやめさせる。

 あぶねぇ!いきなりエキセントリックな脳筋にビビリまくる。


「キョウコ殿がいいなら、まぁ…」

「いいですよ!何言ってるんですか!可哀想にこっちに寄越して下さい!!」


 渋々私の手に小さなトカゲを置いてくれた。グッタリしてる、爬虫類嫌いじゃないし、小さいからちょっと可愛いとも思う。


「回復薬持ってます?」

「回復させるんですか?それ」

「え?!当たり前じゃないですか」

「うーん、まぁキョウコ殿がそう言うなら良いんですけど、それキョウコ殿が思っている生き物と多分違いますよ」

「は?!え?どう見てもトカゲですよね」

「……違いますね」

「え?!」

「それ、竜人ですよ」

「は?!」


 掌のトカゲとハロルド様を交互に往復しながら三度見した。

 え?竜人って前来たあいつら?どう見てもトカゲじゃん?これ。


□□□□□


 取り敢えず私の客室に戻り、乳白色のトカゲをクッションの上に乗せた。


「キョウコ殿は竜人をあまりご存知無いと思うので、それを助ける前に一応説明を」

「え、はい」


 それ。トカゲちゃんにそれ呼ばわり。いつも気の良い脳筋騎士様だと思ってたけどあれ?なんか雰囲気が怖いんだけど。

 正座しなきゃいけない雰囲気すらあるし。怖い。ふるっと震えると、ハッとハロルド様が我に返った様な顔をする。


「失礼しました。キョウコ殿を怖がらせるつもりは全くなかったので」


 そう言うと、ふわっと部屋の空気が軽くなった。え、脳筋なんかやったの。


「竜人はキョウコ殿に迷惑をかけたあ奴らですが、人型と竜体の形状をとれます


 人型、男は筋肉質で大柄、女性は小柄。鱗と竜尾、竜角はどちらも共通。

 竜体、竜気によって大きさが異なり小さな館くらいの大きさから二メートル程度の大きさまで。

 但し、何らかの理由で体内の竜気を使い果たすとトカゲの大きさになってしまいます」


 な、なるほど?


「そして一番厄介なのが」

「はい」

「竜気が戻り人型や竜体に戻れば」

「戻れば?」

「トカゲの姿を見た者を殺します」

「な!!!え!!殺す?!」

「はい、空よりも高いプライド故にトカゲの姿を見た者を抹殺しないと気が済まないそうです」

「はぁ!?」


 はあ?!ナニソレ竜人ヤバい。


「ですので。トカゲの竜人は見つけ次第…」

『妾はそんな事はせぬ』

「はい?え?誰」

『元々トカゲの姿を矮小と恥じている者が揶揄われて暴れたのじゃ。妾はこの姿を恥じておらぬ』

「喋った!!」

「そりゃ竜人ですからね」

『娘、妾を助けずとも良い。もう消えて無くなりたいのじゃ』

「………駄目。それは駄目」


 私だって消えて無くなりたかったのにそれが出来なかったんだから。八つ当たりだけどね。暗い目をした私を見つめるハロルド様に。


「ハロルド様回復して下さい」

「心得た」


 ぐったりしてるトカゲに回復薬を掛ける。クッションは、びっちょびちょ。キラキラと傷が癒えてゆく。


「あれでもトカゲのままですね」

「まあ、回復薬では竜気は戻りませんからね」

「へぇ〜!そうゆうものなんだ」

『………助けて貰った礼はする』

「私がしたくてやったから特に?」

『………』


 トカゲちゃん目をつぶっちゃった。


「えっと、お腹空いてる?なんか貰ってくるね、ほらハロルド様も一緒に行こう」

「食事であれは持って参りますが」

「良いんだってば!ほら一緒に行くよ」


 グイグイと部屋の外にハロルド様を引っ張って扉を閉める。


「なんか、訳ありそうだし一人になりたそうだからさ、ほらご飯になるの貰いに行こう」

「…はい。そうですね」




 そうして旅の仲間にトカゲが増えた。

 人生何があるか分かんないね。





 

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