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氷のままで  作者: 伊藤@
5/9

貴方のままで ハロルド


 殴られると痛いです。

 髪を掴まれると痛いです。

 爪を剥がされると死ぬ程痛いです。

 血が流れるとふらふらします。

 喉が渇くと泥水でも啜ります。

 お腹が空くと虫でも食べます。


 最初は知らない人達が期待に満ちた目を向けてきました。

 理由のわからない事を言われて困っていても誰も説明してくれませんでした。

 そのうち勝手に失望した顔をして話し掛けてこなくなりました。

 部屋は日当たりの良い広い部屋から狭い部屋へそこから石牢になりました。


 早く終わりが来て欲しいと願いました。



 パタンと稀人の記憶を綴った記録を閉じて読むのをやめた。


 何処の国より早く彼女を救い出したのは小さな我が国だった。


 東に位置し、海に囲まれた小さな我が国は情報を何よりも大切にし、魔術と魔導具に精通し特異な進化を遂げた国。金髪に青い目、地域によるが国の北は赤みがかった肌色が多く、南は青みがかった肌色が多い、中央に住んでいると大体が白色。マッチョになりやすい体質で小さく愛らしい人や物を愛する国民性を持つ。

 我らアゼラの民の別名は鬼人。

 強い鬼人になればなるほど、肩から二の腕に掛けて鬼の紋様が浮かび上がる。

 

 西の国が不穏な動きをしていると情報が入り、特殊潜入部隊から稀人救出の報告がされた時、これはもう戦争になるかと構えたが西の国は稀人の怒りによって滅亡した。

 救い出した稀人は人の形を何とか留めてる有様で、体も心も壊され見るも無惨な姿だった。

 聞けば稀人が召喚され早い段階で暴力が始まり三ヶ月間壊され続けたと。


 腐りかけた四肢、抉り取られた目や鼻と乳房、舌は切られ喉は潰され歯は全て抜かれ、右足の骨は砕かれ、尊厳の欠片すら残されて無かった。

 特殊潜入部隊の隊長のクラーが魂魄を留め時間停止の術式を用いなんとかギリギリの本当に数時間の差で稀人を救った。


 陛下はクラー部隊に莫大な褒美と賛辞を与えた。


 我が国の最高峰の魔導具で一週間、欠損ひとつ無く体は元通りになったが、傷ついた魂魄が定着するのに五日間が一番の難所だった。

 特殊な液体に満たされた硝子ケースの中で再生してゆくのを見ていた。

 小さな指、漆黒の髪、陥没箇所は盛り上がり、胎児のように丸まって眠る稀人に心奪われた。


 西の国が滅んでいて良かった。

 滅んでなければきっと滅ぼしに行っただろう。

 体が完全に再生したと聞くと医療班が彼女をケースから慎重に運びだしベッドに横たえた。魂魄を定着させる術式を展開してる時に、記憶を読み取り何があったのかが分かった。


 滅んで然るべき。


 記憶を読み取り、彼女に配置する人員を全て女性にした。

 彼女は目覚めると驚異的な回復をした。

 助け出されて感謝はしているが、あと少しで死者の国に渡るのを阻止された怨みもある。だから王宮にいると気が狂ってしまうと告げられた。

 陛下と誓約を交わして自立したのは目覚めてから半年後の事。


 それから二年ずっと側に居た。これからも離れる事はない。

 ずっと護衛と護衛対象という関係でもいい。彼女が生きて居てくれたら、それ以外何も望まない。


 彼女は彼女の体験した事を彼女だけしか知らないと思っている。確かに彼女のいた文明は発達していたがある分野では彼女が居た文明よりも遥かに進化している。

 逆に此方が全然発達していない分野もある。

 記憶を読み取り、良き分野は真似ると陛下は仰る。


「タイミングが悪く予想外の事とはいえ、竜人に存在を知られた時点で一度煙に巻く必要がある。

 そこでハロルド、稀人であるキョウコ殿を護り旅をしてキョウコ殿と我がアゼラ国に帰ってくるのだ。

 まあ、私が生きてる内に帰ってくれば良いから色々と世界を見て回れ」

「承知致しました」

「船で出国するつもりだったらしいぞ、引き留めているそうだから早くいってあげなさい」

「それでは行ってまいります」


 部屋に残った宰相と苦笑いをする。


「これで少し時間は稼げたな」

「はい、陛下。竜人は暫くすれば興味を失う事でしょう」

「まあその間にハロルドが上手くやってくれるのを期待しようか」

「そうで御座いますね」



□□□□□


 客船が沢山停泊している一角の出国所の待合室にキョウコは座って待っていた。

 直ぐに船に乗って出ていけると思っていたのが色々と足止めを食っている。



「キョウコ殿お待たせした」

「ヒース様、本当に来たんだ」

「はい、勿論何処までもお供します」


 南でも行こうかと彼女は言う。

 彼女が怖がるといけないから、明るく悩みなどない脳筋を装い、何処までも共にいる、この命尽きるまで。

 彼女の心の傷が無くなる日なんて、この世界にいる限りあり得ない。毎日違う世界に居ると思い知らさせ忘れる事すら出来ないのだ。忘却すら許されない彼女の傷ついた心は元には戻らない。

 それこそ溶けない氷をずっと抱いて生きる様なもの。

 そんな痛みを抱えていても彼女は強く美しく逞しく、何処までも私を魅了する。

 だから思う、溶けない氷のままでも構わない、貴方が貴方でいられるのなら。




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