逃げるが勝ち
カランとドアベルが鳴る。昨日新しく付けてみた、中々良い音だ。入ってきた人物を見たらうんざりしたけど。
「店主!若君が占いを所望している、占いに来い」
あの時の赤い竜人だ。ザヌ、、覚えてないや。面倒事はあれっきりって話だった気がするけど。
「前金50万バルド占い終わったら50万バルド、出張料は100万バルド払ってもらえるならお伺い致しますよ、竜人様」
「な?!たかが占い如きに200万バルドだと?」
「前も言いましたが、たかが占いですし、お嫌でしたらお帰り下さい」
「ぐっ…」
営業スマイルで沈黙する。
「わかった!払うから早く来い!」
うっざ。
本当に無理。
手を捕まれそうになる瞬間、バーンと扉が叩きつけられた。遅いわ脳筋。
「すまない!遅くなった」
そう言うなり右腕を赤い竜人に向け振っただけで赤い竜人を吹き飛ばした。ギャッと短い悲鳴と壁に激突する音がして竜人が気絶している。パラパラと壁から土壁が剥がれ落ちてきた。
あーなんかもう無理かも。
「弁償は…」
「する!済まないキョウコ殿」
平謝りするけどもう無理だなって思った。
「これ、どうしたんですか?お国に帰った筈ですよね?」
「帰国はしたのだが、自国で問題が起きキョウコ殿を頼りに飛んできたと…連絡が入り急いできた」
壁にめり込み失神してる赤い竜人を見てると、スリッパで潰された虫を思い出した。
「それと、陛下からキョウコ殿の側付きを許された」
真剣に私を見つめてくる。
「第二王子は宜しいので?」
「宮廷魔導師がやっと魔法具を完成させたので、妖精の悪戯には対処可能となり」
「そう、良かった」
「取り敢えず竜人を帰国させる、それまでは此方に留まって頂きたく」
「…うーん、まぁ、はい」
伸びている竜人を抱え上げ脳筋は王宮へと帰って行った。
テーブルの引き出しから、国王陛下と結んだ誓約書を引っ張り出す。
ひとつ、生命を脅かさない
ひとつ、緊急時以外接近しない
ひとつ、尊厳を踏み躙らない
ひとつ、対価は必ず支払う
生命を脅かさないはざっくりしてるけど全てから守るって事だと思ってる。私に魔導具を渡して危険が分かるようにしてくれてるし、監視されてるのも知ってた。
きちんと尊厳を守ってくれたし。
たが、竜人は駄目だ。
欲しい物は全て手に入ると思っている、傲慢な種族だ。何があったか知らないけど、自国の問題を人に頼って何とかしようなんて甘いわ。
何か起きてもすぐ逃げ出せる様に纏めてる鞄に商売道具の水晶を突っ込み店を出た。移動したって魔導具持ってるしハロルド様なら問題なく私の所に来るだろう。
扉にクローズの札をして鍵を掛け港に向かう。船を待つ間に大家さんに手紙で鍵を送ればいい。
実質二年住んだの私のお城とサヨナラした。
□□□□□
目が覚めると拘束されていた。竜人である俺を。力任せに拘束を解こうとしても逆に食い込む始末。
「何だこれは…」
「やぁ、お目覚めですかな」
「お前は!」
吹き飛ばされ顔の半分が腫れていて相手の顔が見づらいが声の主はこの国の将軍だったか。将軍の隣りには冷酷と評判の宰相がいた。
その宰相がゆっくり話し出す。
「困りましたねぇ、ザヌア大使。貴方の国のせいで我が国から優秀な騎士と稀人様が居なくなるんですよ、どうしてくれます?」
「稀人…あの占い師が?!」
「居るだけで富や栄華を約束する稀人様です」
「なんだと!それが本当なら我が竜国にくるべきだ!竜国に住める栄誉を与えてやる」
ザヌアは興奮して喚く。
その姿を鼻で嗤うと宰相は話を続けた。
「まぁまぁ、大使少し落ち着いて。
その代わり稀人様が怒りに染まると天罰が落ちる、祝福であって厄災の存在ですけどね。ご存知でしょう?
まだ記憶にも新しい二年半前に西の国が滅んだの、稀人様のお力ですよ」
「あ…」
興奮していたザヌアは、稀人の伝承と滅亡した西の国を思い出し顔色を変えた。赤い鱗で良くわからないが。
「我が国は小さいですからね、情報を何処よりも早く手に入れ情勢をみて国益をあげておりまして、この二年稀人様のお力で繁栄していたんですよ、これから先もそうだった筈だったんですけど、たった二年でそれもおしまいです」
まぁ、稀人様には優秀なハロルドを付け、ほとぼりが冷めた頃にまた戻って来てもらう予定ですがね。そんな事はこの竜人に教える必要も無い事。
拘束された竜人を冷ややかに見れば、つうっと汗を流している。
「お国でどんなトラブルが発生しているかは知りませんが、どう落とし前を?」
ザヌアは竜人であって初めて恐怖と言うものが何か理解した。あの占い師が稀人だとこの国の宰相から教えられた時点でもう無事に竜国へは帰れないと。
「だ、誰にも言わぬ!」
話は終わったとばかりに宰相は部屋から出て将軍が拘束具に手を掛ける、ザヌアは何処かへ連れられては敵わないと身を捩り抵抗するも子供の抵抗かと言わんばかりに将軍がザヌアを軽く押さえ愚痴る。
「黙れ、お前達のせいで稀人が迷惑を被り、ハロルドが嬉々としてついて行く!
全く本当に竜人はいつも碌でもない」
「やめろ!離せ!そうだあの騎士は何なのだ?!竜人を片手で吹き飛ばしたのだぞ」
「ハロルドに限らず我が国の騎士も兵士もあんなもんだそ。というか我が国の別名知らんのか?まあ竜人は他者に興味がないしな。
ん?それでも吹き飛ぶとは。お前が弱いだけだろう?」
俺が弱い?弱いだと?!
ただでえプライドの塊の竜人を将軍は嘲笑った。目の前が真っ赤になり激高し身を捩り足を振り上げ太い尻尾を叩きつけて暴れても将軍は顔色も変えず、びくともしない。とうとう暴れ疲れて静かになる。
「はっ、この程度か口程もない。」
「くそがあああああああ!!」
「さ、行くぞお前にはまだ聞く事があるからな」
本能で悟った、死んでしまうと。
「嫌だぁ!!やめろ!離せ!アアア!若君助けて!!!」
軽く俵担ぎにすると将軍は部屋から出て行く。竜人はずっと喚いていた。
パタンと部屋のドアは閉まり喚き声は遠くなって最後は静かになった。
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「陛下、竜人国からの要求は」
「あぁ、あの大使の返還と占い師を寄越せって言われたけどさぁ」
手に持つワインを少し口に含み朗らかに笑う。
「キョウコ殿は出て行くことになって、子供達も世話になってたのに。百害あって一利なしだよねぇ」
「全くその通りで御座います」
「あの竜人から情報は取れた?」
「はい、全て抜き取り複製致しました」
「本当、そのくらいじゃ全然足りないけど、まぁ仕方ないか。竜人の抜け殻は返還しておいて」
「承知致しました」
情報を抜き出す時に、態と廃人にしろって指示したけど、いいよね?この位の嫌がらせ。結構腹が立っていたし。
あ、それと良い事思いついちゃった。
「抜き出した情報の一部は竜人と敵対する朱雀人にでも売っておいて、そしたらまた小競り合いでも始めるでしょう」
「承知致しました」
折角、保護した稀人だったのに。
ため息と共にワインを飲み干す。
でもまた会える気はするから良しとしますか。ここで稀人の意志を尊重し信頼を得られれば我が国は安泰だ。
国の為と言う打算を差し引いても、僕はキョウコを気に入っている。
余談ではあるが、竜人と朱雀人の小競り合いは収まること無く、その後百年は続く紛争となり、紛争で疲弊する両国に四方八方から敵が入り込み滅亡寸前まで追い込まれるのはもっと先の話。