STORIES 045 :また会う日まで
STORIES 045
再会の街 - bright lights, big city
…という映画があったのを、なんとなく思い出した。
僕が10代の頃に好きだったMichael J. Foxが主演。
でも、珍しくシリアスなものだった。
内容はもう忘れてしまった…
また週末の夜中にでも観てみようかな。
再会。
初めましてではなく、一度離れてから再び会うこと。
ドラマティックな状況や、別れた恋人なんかが相手じゃなくたって…
特別な何か…運命とかご縁とか、そんなものを感じてしまうよね。
田舎を遠く離れて、賑やかな街で暮らしていた頃。
とても印象的な「再会」にまつわる出来事がいくつかあった。
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ひとつめ。
大学生は平日休みも取りやすかったので、試験休暇か何かを利用して、ガラガラに空いている夢の国でデートすることになった。
どこかの駅で合流して、京葉線の舞浜駅に向かう。
電車も空いている。
いいよね、平日デート。
並んでシートに座ると、同世代のグループが反対側の席にやってきた。
彼らも大学生みたいだね。目的地も同じかな。
しばらくして…
その中の女のコがひとり、僕のほうをじっと見つめているのに気付いた。
なんだろうな…
ん?
見覚えがある。
というか、よく知ってる顔だ。
数ヶ月前まで、同じ教室で毎日会っていた同級生。
出席番号順に並ぶと、僕の後ろの席…
なんだ、Sさんじゃないか。
彼女も確か、都内の大学に進学していた。
驚きで声が出なかったけど、思わず手を振った。
みーちゃった、と言わんばかりに笑い返していた彼女。
こんなところで偶然会うなんてね。
その後…
チケット売場、アトラクション前の列、レストラン、ショップ、あらゆるところで何度も顔を合わせた。
夢の国でそんな魔法をかけられるなんてね。
なんとなく照れくさかった日の出来事。
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ふたつめ。
たまに買い物デートで出掛けた、渋谷の雑踏。
あの街に行くと、百貨店だけじゃなく路面店もあちこち見たくて、グルグル歩き回ることが多かった。
詳しくないのにね。
けっこう疲れるし、同じ店に戻るのに苦労したり。
そうしているうちに通りかかった、井の頭通りだったか、スペイン坂の辺りだったか…
2人で話をしながら歩いていると、同じように向こうから歩いてきたカップルと目が合った。
あ!
お互いに立ち止まり、指を差し合った。
やはり、同じ高校出身の同窓生だった。
しかも、少し前から話題になっていた2人。
高校を出た後…
彼らはどういうわけか駆け落ちしてしまい、行方不明になっている、という噂だった。
そんな2人に、なぜか渋谷の人混みでバッタリ再会した。
その後も、ショップ巡りをしている間に何度か顔を合わせたけれど…
色々と質問してみたい気持ちを抑え、その時はなんとなく軽く流しておいた。
まぁ、状況的に、ね。
数十年後、彼氏のほう、S君とは…
田舎に戻ってから、たまに顔を合わせるようになる。
自分たちの家族や子供たちも伴って。
それはそれで、不思議なご縁かな。
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みっつめ。
僕は、3年ほどアパレルの社員として働いたことがある。
新宿や渋谷、池袋、南青山などに配属されて…
販売員や店長として売り場に立っていた。
僕がいることを知らずに、たまたま買い物客として訪れた友人知人と、ふいに顔を合わせることもあった。
そういうのも楽しかったな。
知っている顔に、意外なところで再会すると、ね。
でもそこは…
何でも揃っていて、
けれど、何にも欲しいものが残っていない街。
個人的な見解だけれど。
色んなことがあり、街の暮らしからは20代半ばで離れることになった。
憧れだった「東京暮らし」は、もう卒業。
僕にとっては、さよならを象徴するところ。
別れの街。
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たまにしか訪れないようになって、30年近く経つ。
とても華やかで、かなり騒々しくて、いつも輝いていて、とても疲れる。
そんな場所も、たまには悪くない。
懐かしい記憶を辿りながら…
かつての職場とか、毎日通ったショップとか、退屈そうにランチタイムを過ごした洋食屋とか。
そんな場所を再訪してみる。
でもね。
ほとんどの場合、建物どころか、辺りの面影すら残されていない、なんてことに気付かされる。
見覚えのない街に、見知らぬ人々。
これでは再会ではなく、初めて訪れるのと大差ない。
僕は、ただのよそもの、だ。
時が過ぎたら失われて戻らないもの、世の中には星の数ほどある。
まぁ、それらが本当にまた必要なものなのかどうかは、人によって様々なのだけれど…
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もしかすると、気付かないだけでもっと沢山の再会を繰り返してきたのかもね。
再会の街、東京で。