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取引

作者: 遺物。

「そろそろか」

遮断機が降りた踏切の中に入る。

死にたい程に苦しくはないが俺は何も感じなくなっていた。

退屈。人はなにかをしなければ死んでいるのと同じだ。

退屈は死も同然だ。だから終わらせたかった。


電車が俺にあたる瞬間、時間が止まったようだった。

意識ははっきりしているが口以外体は思うように動かなかった。

「これが走馬灯ってやつか」

怖くはなかった。

「どうします?」

すぐ後ろから声がした。

「誰だ。」

声の主に尋ねるとそいつは答えた。

「私は皆さん人間から悪魔と呼ばれている者です。今回はあなたと取引したいと考えております。」

(悪魔?幻覚か?でも死ぬまでの退屈しのぎにはなるか)

「で、その取引ってのはなんだ。」

話を聞くために振り向こうとしたが依然身体は動かない。

「取引はこうです。あなたはこれから死にます。その成仏する命を頂きたいのです。死後の世界は今以上に退屈な時間が続くでしょう。そんな世界に行くよりも幽霊として生きてみませんか?」

「生き返るとかはできないのか?」

聞くと悲しそうな声で返してきた。

「そうですね。残念なことに我々悪魔も世の理を変えることは出来ないのです。」

「そうか。で、その幽霊になると何ができる」

「なんでも出来ます。」

「どうやって?」

「それはなってみたらわかります。」

退屈が無くなるならそれに超したことは無い。

「よし。なろう幽霊に。」

そして俺は幽霊になった。


幽霊は素晴らしいものだった。なんでも知れた。深海に行くことだって宇宙に行くことだってなんでも出来た。

しかし、それだけだった。すぐに戻ってきた。やはり退屈だ。

「退屈は死も同然だ。あ、死んだんだっけ。」

無念、後悔。そんなものではなくただなにも感じ無くなっていた。

すぐに自分の体が透き通ってきた。

そういえば悪魔が言っていた。

「自我を保てないと消滅します。そして霧散し永遠にさまよい続けます。」と。


霧散した身体は宙に浮いてただ風に靡かれるままに運ばれていった。

永遠にさまよい続けるのだろう。しかしなにも感じない。肌で感じるくすぐったい風も今はなにも感じない。


「契約してきましたよ」

「相変わらずお早いことで。」

「まあ、人間は単純ですから。」

「それでこれはどこに運べばいいですか?」

「えーと。Tの180番かな」

「わかりました。運んでおきます。」

「よろしく」

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