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短編 13 父はウサミミ

作者: スモークされたサーモン


 父親にウサミミが生えていたらどんな物語が紡がれるだろうか。


 そんな疑問から生まれた物語です。


 とりあえず触りますよね。


 



 父は公務員でした。


 普通の公務員でした。


 役所に勤めてるごく普通の公務員だったんです。


 でもある日、ウサミミが生えてました。


 ウサミミです。


 父の頭からウサミミです。


 横から見てもウサミミで、後ろから見てもウサミミでした。勿論前から見ると完全なるウサミミです。


 母は喜んでいました。


「このウサミミは私のよね?」と。


 父はこう答えました。


「兎の耳は兎のものだろう」


 いや、生えてんだよ。父の頭からよ。


 げふん。


 ……父の頭から生えているウサミミは私にだけ見える幻覚ではありませんでした。


 それが一番良かったのに。


 父はウサミミが生えてからも、普通に出勤していました。


 役所です。


 市役所です。


 最近子供に人気が出てなぁ、と父は夕飯のとき和やかに会話をします。


 ウサミミです。


 ピコピコしてます。


 上機嫌ですねぇ。


 父は既にウサミミに支配されているように見えます。


 きっとウサミミ星人による侵略が始まっているのです。父はその尖兵……いえ、きっとウサミミ星人が父に成り代わっているのです。


 というわけでハサミを用意しました。お高いハサミです。一本一万を越えます。和裁用の裁ち鋏です。じょきん!


「な、何をする気だ! 正気を失ったか!」


 いえ、正気です。むしろ正気で辛いです。


 父が逃げ惑います。本気で逃げてます。


「あらあら、反抗期ねぇ」


 母さんは余裕です。流石母さんです。


「そのウサミミ……貰い受ける!」


 じょきん!


 とはいきませんでした。


 父は意外にも忍術使いです。台所にあったコショウを娘の顔にぶちまけて逃げやがったのです。


 うむ。この容赦の無さ。


 父です。


 私の自慢の父ですね。


 ウサミミ星人ならこんな忍術使えません。


 近くの公園で茂みに隠れて震えてる父に、母が私の伝言を伝えてくれました。


「パパンごめんね」と。


 仲直りです。


 次の日のウサミミはプルプルと震えていましたが仲直りです。


 気になったのでネット空間をサーフィンしてみました。すると出てきました。


 ウサミミのおっさん画像がこれでもかと。


 ウサミミの外人部隊とかシュール過ぎて笑い死ぬかと思いました。マッチョにウサミミは反則です。


 どうやら私の知らぬ間にウサミミが生えることは『普通』の事になっていたようです。


 生えるのは男性限定で女性には生えないみたいです。


 これは……やはりウサミミ星人による侵略なのでしょう。きっとウサミミ星人は男性のみの種族でウサミミが生えているのです。地球人に紛れるために地球人そのものを変えてしまった。


 そういうことなのでしょう。


 女の子にもウサミミプリーズ。ネットの掲示板にそう書き込んでおきました。母が最近すごいのです。多分来年には弟が……げふん。


 父のウサミミは今日もウサミミでした。




 父の頭からウサミミが生えて半年が経ちました。


 父のウサミミは今日もウサミミです。


「うふふふふ」


 母のウサミミも……ウサミミです。


「ふむ。今日は帰りが遅くなりそうだ。先にご飯を食べててくれ」


「はい、あなた」


 仲睦まじい夫婦です。共白髪ならぬ共ウサミミです。


 ともウサです。


 そして私の頭には生えてません。


 今は世界の人口の六割にウサミミが生えています。ウサミミが世界の主流派になりました。すごい事だと思います。


 ドラマに出てくる俳優もウサミミです。


 ニュースのキャスターもウサミミです。


 なんなら赤ちゃんだってウサミミなのです。


 こいつぁガチの侵略戦争じゃねぇか。


 と、私は戦々恐々としてしまいます。学友の大半はウサミミですし。


 正直私もどうしたら良いのか分からなくなってきました。私の懐にはいつも裁ち鋏が仕込んであります。ウサミミ星人が襲ってきたらこれでウサミミを、じょきん! してやるつもりです。


 ですが……それらしい宇宙人を見たことがありません。


 ネットのサーフィンでも異星人っぽいものは波の間にすら確認できません。大体がマッチョです。いい胸してますねぇ。


 ま、それはともかく。現在の状況。これは間違いなく侵略されているのです。ウサミミ星人による地球侵略作戦です。


 でも誰も困ってないのです。


 困った困った。


 あ、私が困ってますね。


 これは困りました。


 そんな風に困っていると月日があっという間に過ぎていきます。


 私は成人を迎えました。


 ええ、実はまだ未成年だったのです。今日から酒盛りし放題。キセルもネットで買いました。刻み煙草の葉はプランターで育ててあります。まぁたばこじゃなくて、ただのハーブなんですけどね。だって弟がおりますし。


 万事抜かりなし。


 私の頭にウサミミだけは生えてませんが。


 もう人類の九割がウサミミになりました。普通の人間がマイノリティです。酒でも飲んでないとやってられません。ハーブをキセルでプカプカですよ。


 可愛い弟もウサミミです。


 超可愛い。もう超可愛い。


 おねえたまが悪い虫から守ってあげるからね。この裁ち鋏で。じょきん!


 と、ウサミミ事案はもうどうでもいいのです。


 問題は別に生まれたのです。




 父は公務員です。


 普通の公務員だったのです。


 役所に勤めている普通の公務員だったのです。


 ある日、お尻に尻尾が生えました。


 尻尾です。


 ウサ尻尾です。


 父の尻からウサ尻尾が生えました。


 急いで弟のお尻もチェックしました。ありました。ぽわぽわです。おねえたまは幸せになりました。


 ウサミミ星人よ。よくやった。




 ある日、父にウサミミが生えました。


 そして世界にウサミミが広まりました。


 またある日、父に尻尾が生えました。


 世界に尻尾が広まりました。


 次は何が来るのでしょうか。少し楽しみです。

 



 今回の感想。


 ほのぼの系として上手くまとまったかな? 



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