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終末世界の新生活  作者: 夏のさくら
三年目の夏
7/13

第七話

 

 それから二日、俺たちは背負い籠を持って、寝床を発った。

 ムスタファは、東側(最初に明るくなるからたぶんそうだ)に見える小山によく生えている。

 あそこまでは、平坦だけど、少し距離がある。

 半年ぶりに向かうので、そこまでの道は草に沈んでいた。

 なので、鎌を持っているピレを先頭にして、草を打ち払いながら進んでいく。

 この鎌は、ケルハさんが「もういらないから」と言ってくれたものだ。

 まだまだ使えるからと、俺たちにくれたのだが、さてどうだか。

 途中途中で、ピレが見つけた野草を摘みながら、小山へと向かっていく。

 足が疲れてきた頃、やっと目的地まで着いた。

「よかった、ムスタファはたくさん生えてる」

 小山の麓には、肉厚の葉を繁らせたムスタファの白が、一面に広がっている。。

「それじゃ、俺からあまり離れないようにして、ムスタファを摘んでくれ。あ、全部は摘むなよ」

「はいはい」

 子供扱いにはうんざりするが、これは仕方がない。

 一昨年、俺がここに来たばかりの頃のこと。ムスタファ摘みに来たときに、物珍しさから迷子になりかけたことがあった。

 ピレが気付いてくれたから良かったが、そのときは方向を失ってしまったから、かなりヤバかった。

 それから、こいつはこんな風に俺を扱うようになったのだ。


 それから、結構な時間ムスタファを摘んで、籠がいっぱいになる頃に切り上げた。

 たぶん、あれをやってから帰ればちょうどいいくらいだろう。

 そう思っていると、ピレが籠を置いてその準備を始める。


 ピレが周囲から小枝と石を持ってくる間、俺はのんびりとしていた。

 生温かい風が、俺の頬を撫でる。

 今いる場所は木陰だから、温くていい気持ちだった。

 こっくりと、夢の世界へと漕ぎ出そうとすると、

「終わったぞ、おい」

 とピレから声がかかった。

 見ると、いつものように小さな祭壇が造られている。

 四方には丸石が、中央には平たい石が置かれていて、平たい石を囲むように、小枝が四本並べられている。

 そして、この祭壇は小山を見るような位置にあった。

 俺は籠を持ってピレのそばへ行くと、ピレはムスタファをいくつか取って、平たい石の上に置き、そこで跪いて両手を組み合わせた。

 俺も、その真似をする。

 ピレは、俺のわからない言葉で何やら呟いている。

 いわく、神への感謝を捧げているとか。

 本当に神様がいるのかはわからないが、ピレの祈りのお陰か、毎年ムスタファはよく実っている。


 ふと、一陣の清涼な風が吹きわたった。

 いつもの生温い風とは違う、爽やかな風だ。

 毎年、この風に当たって、俺は思う。


 本当に、神様はいるのかもな、と。



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