第七話
それから二日、俺たちは背負い籠を持って、寝床を発った。
ムスタファは、東側(最初に明るくなるからたぶんそうだ)に見える小山によく生えている。
あそこまでは、平坦だけど、少し距離がある。
半年ぶりに向かうので、そこまでの道は草に沈んでいた。
なので、鎌を持っているピレを先頭にして、草を打ち払いながら進んでいく。
この鎌は、ケルハさんが「もういらないから」と言ってくれたものだ。
まだまだ使えるからと、俺たちにくれたのだが、さてどうだか。
途中途中で、ピレが見つけた野草を摘みながら、小山へと向かっていく。
足が疲れてきた頃、やっと目的地まで着いた。
「よかった、ムスタファはたくさん生えてる」
小山の麓には、肉厚の葉を繁らせたムスタファの白が、一面に広がっている。。
「それじゃ、俺からあまり離れないようにして、ムスタファを摘んでくれ。あ、全部は摘むなよ」
「はいはい」
子供扱いにはうんざりするが、これは仕方がない。
一昨年、俺がここに来たばかりの頃のこと。ムスタファ摘みに来たときに、物珍しさから迷子になりかけたことがあった。
ピレが気付いてくれたから良かったが、そのときは方向を失ってしまったから、かなりヤバかった。
それから、こいつはこんな風に俺を扱うようになったのだ。
それから、結構な時間ムスタファを摘んで、籠がいっぱいになる頃に切り上げた。
たぶん、あれをやってから帰ればちょうどいいくらいだろう。
そう思っていると、ピレが籠を置いてその準備を始める。
ピレが周囲から小枝と石を持ってくる間、俺はのんびりとしていた。
生温かい風が、俺の頬を撫でる。
今いる場所は木陰だから、温くていい気持ちだった。
こっくりと、夢の世界へと漕ぎ出そうとすると、
「終わったぞ、おい」
とピレから声がかかった。
見ると、いつものように小さな祭壇が造られている。
四方には丸石が、中央には平たい石が置かれていて、平たい石を囲むように、小枝が四本並べられている。
そして、この祭壇は小山を見るような位置にあった。
俺は籠を持ってピレのそばへ行くと、ピレはムスタファをいくつか取って、平たい石の上に置き、そこで跪いて両手を組み合わせた。
俺も、その真似をする。
ピレは、俺のわからない言葉で何やら呟いている。
いわく、神への感謝を捧げているとか。
本当に神様がいるのかはわからないが、ピレの祈りのお陰か、毎年ムスタファはよく実っている。
ふと、一陣の清涼な風が吹きわたった。
いつもの生温い風とは違う、爽やかな風だ。
毎年、この風に当たって、俺は思う。
本当に、神様はいるのかもな、と。