第四話
「おぉ、坊主か」
ふと、後ろで声がした。
馴染みの声だ。
振り返って見ると、緑の肌の小男─ゴブリンが居た。
「あぁ、ケルハさん。久しぶり」
この人はケルハ。この近くにあるゴブリンの野営地で暮らしているらしい。
ケルハさんが「水飲みてぇからちょっと出な」と言ってきたので、慌てて水から上がった。
前に、ここで出会ってから、彼には色々と助けてもらっている。
冬には食べ物を幾つか貰ったし、火の付け方も教えてくれた。
彼がゴブリンだけど、話が通じるいい人だ。
すぐに怒鳴るピレとは違って。
最初、ケルハさんと会ったとき、俺が話しかけると驚いていた。
ゴブリンは、人類と見なされることもあれば、魔物とされることもあったらしい。
特に、魔王の頃には軍門に降っていたから、魔物とされて討伐対象だったようだ。
魔王討伐後には、ゴブリンの王が討たれたことから、散り散りになって、今に至るという。
だから、人間からは魔物として、追われることが多かったから、驚いたんだと。
まぁ、俺にとっては気のいいおじさんだけど。
「やっぱ、ここの水はうめぇな。生き返るわ」
泉から直飲みしていたケルハさんは、口許を拭って言った。
俺は同意して、彼に最近のことを聞いた。
「あぁ、最近はなぁ、ダメだ」
「どうして?」
「毎年、夏が寒くなってってる。村の麦も、稲がすかすかになってるのが多い。こういう年は、森の恵みも少ないからな」
貯め込んでおいたほうがいいぞ、と。
「わかった、後でピレにも言っとく」
ケルハさんはピレとも一応知り合いだ。
水汲みは交代制でやっているから、時々会うらしい。
日向に座りながら、しばらくケルハさんと話していた。
俺の濡れた身体が乾く頃、ケルハさんは立ち上がって去っていった。
「じゃ、坊主。またな」
「気を付けて」
草を掻き分けて、ケルハさんは帰っていった。