第二話
俺のじいちゃんが子供だったころ、この世界は魔王によって苦しめられていたという。
村は焼かれ、大地は枯れた。
飢饉と疫病と、そして絶望が世界を包んだとか。
けれど、あるとき勇者が立ち上がり、世界に平和をもたらしたとか。
『光の勇者』ミヤチ・ミヤ─聖剣に選ばれた勇者であり、闇を切り裂き光を取り戻した。
『結界の魔導師』ユアン・クロエル─若冠にして古今の魔導を知りつくし、魔物から人々を救う結界魔法を編み出した英才。
『英雄騎士』リッツーサー・ハレルヤ─貴族でありながら騎士として勇者に仕え、たった一人で万もの魔物を食い止め、王都を守護した英雄。
『清貧の司祭』ハルニア・ハルニア─聖職者として清貧を護り通し、惜しみ無く最上位の聖魔法を貧者富者の区別なく与えた。
彼女らは絶望にうちひしがれていた人類の希望として、魔王討伐へと旅立ち、そして世界を救った。
世界は歓喜し、勇者と神へ感謝を捧げた。
だが、しかし。
人類諸国は、共通の敵を失ったことから箍が緩み、互いに争い、苦しみは続いた。
勇者たちはこれを悲しみ、悩み、苦しみ、そして、ハルゴンという神の教えに堕ちた。
勇者は世界の諸国を全て征服し、四つに分けて、それぞれが治めた。
そして、秘術を用いて、世界をこの俺にとっては見慣れた曇天の下とした。
人類の希望であった彼女たちは、今では絶望をもたらす存在として世界に君臨している。
これを、俺はじいちゃんから聞いた。
その頃は、まだ、俺はちゃんとした村の、ちゃんとした家で暮らしていた。
『何が、間違ったのかのぅ。王か、人類か、それとも神か』
記憶の中のじいちゃんは、いつも俺の頭を撫でながらそう言っていた。
そして、真顔でこう呟くのだ。
『あのお方たちは、救世主になるべきではなかったのじゃ』