00戒 祭前
はじめまして、始めました。
・月1〜2程度の更新を予定としています。
・まだまだ慣れないところがありますが、こんなのでもよろしければ見てやってください。
突然だが俺の友人には『ヘンタイ』がいる。
…いや、こう言ってしまうと少々問題があるだろうか…。
訂正しよう……。 俺の友人には『変人』がいる!
* * *
いつものフツー通りの授業が始まった。
俺はやはりフツー通り、フツーに教科書参考書類一式を並べ、これまたフツーに昼寝をしていた。
五時限目というのは学生にとって魔の時間である。腹は減ってないし、授業中特有の張りつめた緊張感というのも、すっかり昼休み君が拭い去ってくださるのだ。
そしてそんな時間に限り、古典やら地理やらの文系教科が入っている。
するともうこれは、「どーぞどーぞお眠りあそばせ」と暗に言われているようにしか思えないわけで。
(グッバイ…オールドジャパニーズ……)
せわしない現実世界に別れを告げ、至高なる夢世界へ足を踏み入れようとした俺は、
「――のぎゃあっ、ふぐわっはぁっ!!」
変人の奇声によって引き止められることとなった。
俺を含め、クラスのまどろみかけていた面々が、ガバリと起き上がる。
「「「うっさいわ!このボケぇ!!」」」
数にしてクラスの半数が、一字一句たがえることなく合唱した。それも反射的に。
俺はその一矢乱れぬ様に悲しき日々の積み重ねを実感する。ああ、悲しきや。
クラス中から発せられる殺気。 その矛先は一転へと向かい、ゴゴゴゴーと渦巻いている。 目を凝らせば霊能力とか特殊才能とは一切無縁な俺でも、きっと黒いオーラを確認できることだろう。
睡眠妨害犯はしばらくボケっと周囲を見回していたが、やがて、初めて自分がいる場所を認識したかのように、手をポンと打つ。
「おお…」
その後、いつものように嵐が巻き起こったのは言うまでも、ない。
「……青空だなぁ」
校門を抜けると、変人がぽつりとつぶやいた。
「なんだよいきなり……」
急にしんみりとした友人に俺は苦笑する。
奇人変人なくせして、時に詩人めいたり風流になったりするところが、この友人最大の謎である。
「いや、なに。久方ぶりにこんなきれいな空を見たのだよ。少しぐらい感動を覚えてもいいのではないか?」
「久方って、ここのところずっと晴れてるだろ? 青空なんかいくらでも見られたんじゃないか?」
妙に達観した様子の友人であったが、俺の一言にうっと目に見えて動揺を浮かべた。 目をあらぬ方向へ泳がせている。
「……まあ、よ、よいではないか。はっ、さてはお主…自分に風流を感じる才能がないから我を妬んでいるのだな〜。まったく仕方のない奴め、さしあたっては我が直々に風流心を教えてやらんでもないぞ。なんせわが友人たっての―――おい、コウよ……」
「ん? なんだい自称俺の友人な変人よ」
「お前は止め際というものを知らないのか? せめて、『あー、空が青いな〜』とか、『はいはい、ところで―』的なリアクションをとるとか」
「もしかして、それを期待してたのか?」
「……………」
自ら進んで『長話のせいで空気にされるカワイソーな人』になろうとする、変人がここにいた。俺たちの間に冷たい風が吹き込む。
「――おっほん、突然だが一週間蒸発しようカナ、と考えている」
「お前の突然は前後の会話を超越しすぎているな」
「しゃーらっぷ! 止めても無駄だぞ、なんせオレは――
聞いて驚け、異世界に飛ばされてくるのだぁっ!! ぐわっ」
とりあえず、憎たらしいその跳ねっ毛へ正義の鉄槌を送ってみた。
頭を抱えて呻く変人へ俺はぬるま湯のごとき視線を投げる。
「なぁ、お前がそんなだから、無畜無害な俺がどれだけ被害を被っているか知ってるか? おかげさまですっかり『同類』扱いダヨ? リカバリー不可能ダヨ?」
さあ、もう一度言ってみよう。
「……いせかっ」
「ぐっばい、マイ・フレンド。君のことは一分以内に忘れるよ……」
* * *
―――もそもそもそもそ。
「なぁ、変人」
「ん〜、なんだい友人」
「これはいったい何の修行だ?」
所変わって、何の変哲もない公園。俺とあいつはブランコに座って焼き芋を食らうという暴挙に出た。はた目から見ると、高校生男子が仲良く並んで芋食ってる図の出来上がりだ。
いや、クラスの女子生徒となら分かるよ? なんで野郎と一緒に焼き芋食わされてるんだ?
「ふっ、説明しよう! 人々に俺と一緒にいたという事実を刻み込み、いまさら切っても切れぬ仲であることを自覚してもらっ」
「自覚はしてるんだよ、どアホッ!」
「うなーー! オレの芋がぁぁああ! おのれ、三百四十六円の恨みぃ〜」
「はあ、なんかお前のハイテンションに付き合ってるの、ばかばかしくなってきた……」
―――もそもそもそもそもそもそもそもそ。
紅葉輝く秋の公園。夕刻なだけあってか人の影はほとんどない。
急に変人が押し黙った。違和感を感じて俺はちらりと変人を一瞥する。
あいつは、夕空を見上げていた。これまでとは打って変わって無機質に。
その豹変ぶりに戸惑いを隠せなかったが、何より……、
「いいもんだよなぁ、『人』って」
あいつは夕空すら透かしてもっと遠くを、覗き込んでいるかのよう。
「見てて面白い喋れる、なにより反応がある。まったく素晴らしいよ…」
俺、紅葉の自称友人――義秋は嘲笑を自らに張り付けていた。
「と、いうわけで! 異世界に行ってくる!」
「まだ言うかっ!!」
予告?
義秋: 次! 飛びますっ!
紅葉: 飛ばされまーす…。