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下り

 俺たちはスマートフォンの懐中電灯を起動させ、現在の駅の反対側にある旧熊谷村駅に向かっていた。

 熊谷村くまがやむらは合併され、現在は別の地名になっている。


 1990年に廃線になっており、今から30年前だ。

 俺が子供の頃、祖母の家に遊びに来た時に、雑草が生えた廃線路で遊んだ記憶がある。

 現在ある駅の南口側にある、お寺の近くで、小川沿いだったと思う。

 記憶を頼りに歩いていくと、田んぼの風景の中にぽつんと、コンクリートのブロックと、その上にトタン屋根の古屋が見えた。

 妹が指を差す。


「あれじゃない?」

「そうだな」


 田んぼの間を走って進むと、少し広い畦道あぜみちに出た。畦道はずっと一本道で横に続いている。野菜とかを乗せたトラックが道の端に止まっている。


 トタン屋根の古屋のある場所だけ、コンクリートの段があり、高くなっている。

 駅の名残だろう。

 プラレールの線路を一個だけ残したみたいなっている。取り壊すのが面倒だったのだろうか。

 俺はよじ登り、その後、妹を両手で引き上げた。

 ドアの無いぼろぼろの古屋を覗くと、赤い革が張ってある長椅子と、木の台があり、分厚い電話帳、今は廃止された、虫食いだらけのタウンページと、公衆電話が置かれていた。


 ここが旧熊谷村駅で間違いなさそうだ。


 俺と妹は誰も居ない朽ちたホームで、電車を待った。


 雲の無い西の空が、鮮やかなオレンジ色に染まっている。

 藍色の夜空と境界線が溶けて、瞬きをする間にも、世界は夜へと近づいていく。

 星が綺麗だ。

 電車よりも猫バスが来そうだ。


 俺と妹は待ち続けた。

 人は目に見えないと信じない。

 だから考えた事が無かったのだ、本当に幽霊がいる事も、お盆にご先祖様が帰ってくることも。

 火のない所に煙は立たない。

 きっとキサラギ駅はある。

 俺は切符を持ち、きさらぎ行きの電車を待ち続けた。


 山の稜線に夕陽が落ちて、妹の顔が逆光で見えなくなった頃、眩い光が遠くからやって来た。

 妹が腕にしがみ付いてくる。

 

 意識が取られ、前を向いた瞬間、周囲の風景が変わっていた。


 左右に長くホームが続いていて、天井に屋根がついている。斜め後ろには水色のベンチ、柱には、【熊谷村】と書いてある。

 振り向くと、熊谷村の看板がホームにあった。


 電車はゆっくりと速度を落として、俺たちの目の前に停止した。

 現代の電車じゃない。

 短く木の階段があって、慎重に上り、乗車する。

 乗車するとドアの近くに駅員さんがいて、白い手袋の手を差し出され、チケットを促された。

 切符を渡すと、カチッとホッチキスみたいな物で切符を挟んで俺に返した。

 切れ込みが入っている。

 妹が瞳孔を見開いて固まっている。

 どうしたのかと見ると、駅員の顔がのっぺらぼうだった。


 叫びそうになって、俺は咄嗟に左手で口を覆った。

 俺がしっかりしなくては。

 妹の手にあるチケットを引き抜いて駅員に出す。駅員は妹の分を俺に返した。

 

 シュー、という音を立てながら、ゆっくりとドアが閉まる。


 赤い革の長椅子が向かい合うようにある。

 俺と妹はドア側にあった、空いている席に座った。


 ふつうに乗客がいる。

 妹が震えている。

 俺は頭の中でモノローグを続け、平静を装った。


 左にいるのは、のっぺらぼうの白いワンピースを着た女性だ。


 向かいの席には、化け物が乗っている。茶色い獣の毛皮を頭から被っていて、鹿みたいなツノが生えている。足はなく、腕は骨のように細くて短いものが付いている。


 その隣にはのっぺらぼうがいて、その隣には黒い影が座っていた。更にその隣には、二頭身の小さな白い毛皮みたいなのが、積み重なるみたいに乗っている。


 頭がおかしくなりそうだ。

 本当にこんな事があるなんて。

 

 俺と妹は、とにかく六個目の駅まで辛抱した。


 アナウンスなどは一切ない。当然だが、モニターも無いので、窓から見える駅の名前と個数を数えた。

 揺れは本当の電車にとても似ている。

 一駅の間隔も、そこまで長くない。体感で10分あるか無いか、位。


 駅に停止すると、乗車してくるお客さんが数人いた。のっぺらぼうの人間の時もあれば、奇々怪々な化け物の時もある。


 四番目の駅で、のっぺらぼうが乗車してきた。少し白髪の混じった黒髪のショートカットで、ワイシャツを着ているから、たぶん男性だ。

 座る場所が無かったのか、俺たちの前に来て、吊り革に掴まった。

 妹がビクリと身体を震えさせる。

 見ると、男性は片足が無かった。

 厳密に言えば、太もも辺りから透けるように消えている。

 ドアが閉まり、電車が発進する。

 男性は吊り革に掴まっているが、ゆらゆらと不安定に揺れていて、どこか大変そうな気がした。


 俺は迷った末、立ち上がり、手で席を示した。

 怖くて声は出なかった。


(どうぞ)

 

 片足の無い男性は、俺を見た後、小さく頭を下げて席に座った。

 たぶん、この電車に乗ってくるのは、亡くなった人だろう。

 直感的に分かった。

 電車くらい楽に座って欲しい。

 

 五番目の駅に着く。

 妹と視線を交わす。


 次の駅だ。


 六個目の駅に停止し、ドアが開いた瞬間、甲羅を背負った二足歩行の化け物が、大量に乗り込んできた。


 人間の髪みたいな黒い毛が頭にザーっと生えている。不可解な見た目すぎて、思わずチラ見すると、毛の隙間から、逆さになった人間の顔が見え、俺は恐怖で意識を失いそうになった。

 

 黒い液体が電車を汚し、俺の所にも流れて来た。

 怨念や、哀しみ。

 それらが身体に纏わりついてきて、俺は動けなくなった。


 化け物が大量に乗車してきた勢いで、ドアから離されてしまった。

 ぎゅうぎゅう詰めで進めない。


 やばい。


 ドアが閉まってしまう。


 せめて妹だけでも。


 俺は妹の身体を抱いて、無理やり前方へ押し込める。

 片手で化け物を掻き分け、力付くで押すと、何とか妹だけは間に合いそうだった。


 妹が俺に手を伸ばす。


「お兄ちゃん!!」


 扉が閉まる寸前、席を譲ったあの片足の男性が、駅員の肩を叩いた。


 駅員は片足の男性と短く何か言葉を交わすと、首を動かし、ゆっくりと俺を見た。


 閉まりかけたドアがプシュー、という音と共に開く。


 俺は急いで電車を降りた。

 背後でドアが閉まる。

 振り返り、俺が電車を見ると、助けてくれた片足の男性がこちらを見ていた。

 俺が頭を下げると、男性はゆっくりと手を挙げて、応えてくれた。

 

「お兄ちゃーん!!」


 妹が俺に抱きついて大粒の涙を流し始める。


「大丈夫だから。帰ってから泣け。まだ油断するな」

「‥‥うん」


 電車が行き、俺たちは一息ついて、駅を確認した。

 

 大きく看板がある。



 『きさらぎ駅』



「本当にあるんだ‥‥」

 

 周囲は霧が濃くて、視界が悪いが、遠くに山が見えた。

 その時、身体が急に冷たくなった。

 黒い影がスッと身体から離れて目の前に現れた。

 黒い影は俺たちから離れると、青いベンチに向かって移動し、腰を下ろした。

 

 もしかして、電車を待っているのだろうか。

 妹と顔を見合わせて、時刻表を確認してみたが、10分刻みで時間が書かれていた。

 影は、もう俺たちに付いてこようとはしなかった。


 俺と妹はそのあと、線路を歩いて帰った。

 足の感覚が無くなるくらい歩き続けて、ようやく俺たちは、元の廃線されたホームに辿り着いた。


 黄昏時と同じ、暗闇に沈みかけるオレンジ色が幻想的だった。


 ポケットに入れていたスマートフォンは、同じ日付、同じ時刻を指しており、時間が経過していない事が分かる。

 電車に乗って、明らかに何時間も向こうにいたのに、おかしい。

 だが、それをおかしいと言うには、他のものが不可解過ぎて、俺たちは疑問を追求する気も起きなかった。

 

 あれから現実で幽霊が出てくることはなくなり、無事、俺達は幽霊を送り返すことが出来たのだった。




 991:たばた:22/09/01 03:29

 お盆には本当に先祖が帰ってくるし、幽霊も見えないだけでいる。

 親切心は必ずしも良い事になるとは限らないけど、いつか自分にも返ってくる。


 それから、きさらぎ駅は実在した。

 

 993 :名無しさん:22/09/01 03:30

 もし席を譲ってなかったら、死んでた?


 994 :名無しさん:22/09/01 03:30

 993>>たぶん


 995 :名無しさん:22/09/01 03:31

 良い教訓だな


 996 :たばた:22/09/01 03:31

 995>>憑かれる原因となったから微妙だけど、この体験があって、行事の大切さとか、家族の有難みとかが分かった。


 997 :名無しさん:22/09/01 03:31

 生きてて何より


 998 :名無しさん:22/09/01 03:31

 一番のホラーは曾祖母


 999 :たばた:22/09/01 03:32

 998>>帰ってきて、曾祖母に話したけど、幽霊騒動は完全に忘れてて、今日の夕飯は何が良い?って聞かれた。

 ちなみにまだ生きてる。


 1000 :名無しさん:22/09/01 03:33

 きさらぎ駅は、あなたの電車にも…



1001 :1001 :Over 1000 Thread

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