城の中
腰の低い、低い、ひっくいのと出会ったのは門を抜けた先、城の扉前だった。
リアルスライディング土下座で現れた浴衣姿の蜜蜂な悪魔さん。
「ようこそおこしやすー。わたくしハニーと申しまして、ここの雑用やっとりますんで、なにとぞ、よろしゅうおたの申しますー」
蜜蜂だからハニーなの?それでいいの?
あと、土下座態勢のまま手揉みって器用ですね。
時々複眼がキラキラして怖いです。
羽音もぶおんぶおんいうてますがな。
爆走するバイクよりは静か?
「中入る。これ用無し、・・・・・たぶん」
今、うるうるする複眼に負けて「たぶん」付けましたね?
チィさん、片言容赦無し言語使用者だから、説明とか細かな事情とか心情とか省きますものね。
時折サクサク刺さって涙ものです。
「ま、何ぞあればいつでも参りますんで~」
立ち上がっても揉み手のまま。
あれ?蜂なんだよね?ハ・・エ?あれ?
チィに連れられるまま玄関の引き戸をくぐる。
「お帰りなさいませご主人様」
更なる衝撃きたー!
よく旅番組なんかで見るスリッパ並んだ旅館の玄関に、
メイド服着た蟻がずらっと並んでるのは悪寒しかしない。
英国式メイドの方でなく、喫茶の方なのは何故?
考えちゃいけないやつですか?
でも。一応ツッコミ入れとくと。
蟻頭にヘッドドレスいらんわ!
先頭の1人?一匹?だけ色味の違うマットな感じの蟻メイドなんだけど、いや、だから、ピンクのヘッドドレスは絶対いらん!
「ブラッディアントとソルジャーアント、クイーンは今出張」
出張?女王なのに出張?えー・・
「お荷物・・はなさそうですね。お部屋は整っておりますので、すぐご案内出来ますが、いかがいたしましょう」
「とりあえず部屋。湯浴みは?」
「可能でございます。お食事もいつでもご用意出来ますので、どの蟻にでもお申し付け頂ければお持ちいたします」
こくり頷くチィさん。
ねぇ、チィさん、あなたはどんな役職についてます?
「たぬ、こっちー。まず部屋。そして湯浴み」
「へいへいほー」
考えたら負けと言い聞かせながら誘われるまま付いていく。
旅館だね。
襖襖障子襖襖扉階段、襖襖階段、襖障子暖簾。
暖簾?
「ここ大浴場。ここはまだ」
暖簾をもう1つ越えて、階段襖襖の向こうの曲がり角の先に、広々とした廊下があって、更に先、たぶんあれが私の部屋かなー。
上部は障子真ん中すりガラスの大きめの引き戸はいいとして、なんか趣味の悪い金色のガーゴイル付のプレート掛かってるのですが。
「大浴場、お湯溜めてる途中。明後日溜まる」
って言いながらスパーンッと引き戸を開けちゃダメだと思うの。壊れない?割れない?大丈夫みたいだけど。