転移初日
異世界転移まとめました。
「なにこの定番の展開」
見上げれば晴天。
時折、爽やかな風が通りすぎ、小鳥のさえずりがそこかしこ。
服は記憶している通り部屋着にしていた黒いチュニックワンピース。
ノースリーブであるにも関わらず寒さを感じない程度には気候は暖かい。
丈長めの短パンに裸足。
手の届く位置にルームシューズが転がっているので、とりあえず履いておく。
右手にペン。左手にメモ帳。
メモ帳には書きかけのレシピ。ちなみにカボチャの煮物のソレである。途中までなので、これを見ても煮物は完成しない。
食べたいなぁカボチャの煮物。できれば総菜屋さんのやつ希望。
あのお店の美味しかったなぁ。次点でコンビニのかなぁ。
あ、現実逃避し始めた。いかんいかん。
水音がかすかに聞こえるので、水場がそう遠くない場所にありそうだ。
見渡す限り木しかないので、恐らくここは森?なのだろう。
手入れされていないらしく雑草がそこかしこに茂っていることだし。
ふと、頭、というか髪の毛に触れる。
見慣れたくたびれた茶髪ではなく、深く濃い緑色。
肩までの長さだったはずが、なぜか腰まである。
「認めたくないものだな。だが受け入れざるを得まい」
そう、今はもう使い古されたアレである。
口にすれば陳腐なアレ。
太陽3つ(全てなぜか半分欠けてるけど)、木の色おかしい(茶色とか白とか見たことあるやつの他に七色とかナニソレ)、近くの枝に小鳥がいるけれど、鳥?ねぇ鳥なの?(背中に貝殻付いてる)。
ね。
受け入れざるを、得ない、でしょ?
絶対夢よって言えたら良かったのだけど、足がザックリ切れてる上絶賛激痛が発生しておりまして。
現実逃避させてくれない。
「ないわー。動けないとかないわー」
こんな場合のありがちテッパンシチュエーションといったら。獣とかモンスターとか盗賊とか、命取られる系の何かが出・・
「ちゅうちゅうちゅうちゅう」
助けを乞おうにも言葉が通じない系の・・
「ちゅうちゅうちゅうちゅう」
もしくは颯爽と助けに現れる現地人が・・
「ちゅうちゅうちゅうちゅう」
「人がアレコレ考えてるというのに、何を地味に生き血を啜ってるのかなー!!!」
「ちゅ・・」
スパコーン!
思わずルームシューズで私の足に吸い付いてた蛭っぽい何かを、張り倒・・
「ちゅうちゅうちゅうちゅう」
「・・・・・・・・・・・・」
張り倒せなかった。異界の生き物強し。