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誤解を生まぬよう

遠くで見守っていたヤコが戻ってくる。無事に契約を見届けてくれていたようだ。


「それで?これからどうするの?その子のその姿じゃ街に入ったらあらぬ誤解を受けると思うのだけど」


「ふぇ?この格好……ダメでしたか?」


人間の文化に興味はあっても闇の部分は知らないらしい。白のグリフォンに相応しい純潔な良い子だ。そのままでいてほしい。


「いや、格好がね。人間には奴隷っていう制度があってね……。簡単に言えばそのままの服だと俺がその奴隷の格好で堂々と連れて入ったら犯罪者にされかねないって事」


「主様は決して犯罪者なんかじゃないです!私には分かります!」


犯罪者なんかじゃない。その言葉に一瞬……本当に一瞬だけ目を伏せたのをヤコは見た。けれど、深く探ることでは無い。それよりもシュネーの服が最優先である。


「アンタ、一スン無しなのよ?どうするつもり?」


「とりあえず『青い鳥』に帰ってアルトとダグザの姐さんに相談してみる。というかそれ以外取れる手がない」


そう言ってロイヤリーは現在位置と宿屋、青い鳥までの距離を頭の中で計算する。


「……いや、真反対じゃん。これ着くの夜になるぞ」


元々青い鳥は王都から少し離れた場所にある。王都はその名の通り大きい。つまり王都周辺と言ってもその距離は計り知れない。


「あ、あのぅ……良ければ私に乗りませんか?人間の足よりは飛んだ方が速いかと思います……!」


その言葉にヤコとロイヤリーはバッと振り向く。人化が出来るなら解除もできる。そしてグリフォンといえば飛行能力に長けた魔物の一種だ。


「マジか!ありがてぇ~……!道案内はするからその通りに飛んでくれる?」


「はい!主様の言うことなら喜んで!」


「グリフォンに乗れるなんて、妖精の生でも数少ない体験だわ。私も良いかしら?」


「はいっ!どうぞ!」


そうして人化を解除したシュネーは、確かに討伐対象として描かれていたはぐれグリフォンと一致していた。


「それじゃ行きますか!」


トンっ、と地を蹴って背中に乗ると、ヤコもシュネーのフワフワの毛の中に埋もれていた。


「あぁ〜幸せね……」


「自慢の毛並みなんです!それじゃあ飛びますから落ちないように気をつけてくださいね!」


そう言ってシュネーは高く飛び上がる。ヤコが歓声の声を上げていると同時に、ロイヤリーはシュネーに頼む。


「……多分グリフォンの姿でこれ以上街に近づくと危ないから、遠回りで行くけど……落とさないでね?ホントにね!?」


「大丈夫ですよ!私、これでも速い方なんです!」


「スピード落としてくれるカナ!?」


ロイヤリーの懇願により、いつもの六割程度、というスピードでシュネーは飛んで行った。


結果、青い鳥に着いたのはギリギリ夕方になっていない時間であった。かなり速い方だろう。


「ありがとうシュネー!いや速いね……」


「ホント!私はいざとなったら飛べるから良いけど、ロイヤリーは落っこちそうだったものね」


「あ、あわわわ!主様を落とすなんて……!」


慌てるシュネーに視線を合わせ、優しく微笑みかけてロイヤリーは言う。


「大丈夫。俺は落ちないよ。……っと、その前にこれでも羽織ってくれ」


そう言ってマジックバッグから予備の羽織を取り出すとシュネーに渡す。


「何故です?」


「ここの人に誤解されたらいよいよ打つ手が無くなるから」



ガラリ、扉が開くと同時にダグザがかけつけてくる。


「いらっしゃぁ〜い!お好きな席へ……ってあれぇ?ロイヤリーじゃないの!……あらやだ!隣の子可愛いわね!ナンパかしら!?」


ナンパ、という声に反応したのか厨房からアルトが出てくる。


「なんだ?遂にロイヤリーも身を固める準備……を……」


シュネーの幼い顔と体つき、それにロイヤリー自身の羽織を渡しているところで固まったアルトに対してロイヤリーは弁解し始める。


「違う!ダグザさんもアルトの姐さんも違うから!とりあえず話を聞いてくれ!」



数分後、差し出された林檎のジュースを美味しそうに飲むシュネーを横にロイヤリーとアルトは話していた。ヤコはダグザと共に接客中である。


「なるほど?つまりこのグリフォン……シュネーちゃんと契約したは良いけど、ロクな女モンの服が無いから奴隷と間違われたくなくてウチまで来たと。うん。正解だね。警備局とか行きたくないだろう?」


「ぜっったい嫌だ。俺が何をしたっていうんだ」


カウンターに肘をつき、顔を乗せて不貞腐れるロイヤリーに対してアルトは苦笑する。


「しっかしまぁ、よくも人化出来るグリフォンを契約したもんだ。……いや、アンタなら朝飯前かい?」


「相手の合意を得てるからな」


「そういう事を言ってるんじゃないよ全く。……少し待ってておくれ。子供用の服が何処かにしまってあったから少し探してくるよ。ダグザー!厨房も任せたよ!」


そう叫ぶとダグザがえぇ!?と言った感じで振り向く。


「アルトの姐さぁん!それは私でもきついものが……そうだ!ロイヤリー!少し手伝いなさい!ほら、早く!」


自分でまいた種だ。仕方ない、と思いつつロイヤリーは立ち上がって手伝いに向かった。


数十分後。サイズが合う服がようやく見つかったのか、シュネーは目を輝かせながら服を着ていた。


「凄いです!綺麗な水色の柄で全身を覆っているのに、植物で編んだものよりずっと涼しいです!」


植物で編んだ、と聞いてアルトがロイヤリーに無言の視線を向ける。


「いや待って!俺が編んだわけじゃない!この子が人化した時に着てた服なんだ!だからそんな、変態としか言い様がないね、みたいな視線で見ないでっ!」


「……それなら良いけどね。まぁこれでとにかく王都に入れるだろう?さっさと行っておいで」


早く行かないと今夜は泊めてやらないよ、という無言の圧力を感じながらロイヤリーはコクコクと頷いてヤコとシュネーに声をかける。


「とりあえず冒険者ギルドまで戻るぞー。はぐれグリフォン討伐依頼の達成確認をしなきゃいけないからな」


ホールを手伝っていたヤコと、今度は葡萄のジュースを飲んでいたシュネーがこちらを見て、頷いた。



冒険者ギルド内。ロイヤリーが立ち入った瞬間にざわめきが起こった。


「なんだ?あの白い女の子……すっごい可愛いぞ……」


「てか男のあいつ、はぐれグリフォンの討伐に行ったんじゃ無かったのか?」


「ほっとらかしてナンパか?」


様々な声を無視して、受付まで向かう。


「すみませーん。ラーナさん呼んで貰えますか?」


すると受付嬢の人は驚いた顔でこちらを見る。


「ギルドマスターを……ですか?マスターは忙しい故、私が要件を承りますが……」


ふむ、出来ればラーナさんの方がスムーズに進んだのだが大丈夫だろうか。


「じゃあはぐれグリフォンの討伐依頼について。結論から言うと、この子だ」


横にいるシュネーを指さして言う。横にいるシュネーは不思議そうな目でこちらを見ている。


「……はい?」


「この人化したグリフォンが、依頼書にあったはぐれグリフォン。契約を結んでいるから危害を加えることは無いよ」


数秒間固まった後、受付嬢の人が直ぐに正気を取り戻して問いかける。


「……ええと、証拠などは」


「うーん。ここでグリフォンになったら冒険者ギルドが大変な事になるでしょ?という事でラーナさんを呼んで欲しいんだ。ロイヤリーって伝えれば来てくれるはずだ」


頭に手を当ててはぁ……と溜息をついた受付嬢は諦めたように言う。


「……わかりました。けれどマスターは忙しいので来れなかったらまた後日、という事で」


「あいわかった」


そう言って受付嬢が階段を上って数分後……。


「やぁやぁ!何か面白いことしたって?ロイヤリー、アンタを見ているとほんと飽きないね!」


忙しい身であるはずのギルドマスターは笑いながら来てしまった。受付嬢も困惑している。


「紹介するよ。この白い子がはぐれグリフォンのシュネー。シュネー、このお姉さんはね、ここで一番偉い人なんだよ。ラーナお姉ちゃんって呼んであげてね」


そう言うとシュネーがクリクリした目でラーナを見つめて自己紹介する。


「あの、その……ラーナお姉ちゃん!グリフォンのシュネーと言います!人間の街が見たくて人化して、主様に契約を結んでもらいました!その証も……ほら!」


そう言って右手を差し出し、紋章を見せるシュネー。しかしラーナはそれどころではなかった。


「シュネー、ちゃん。もう一度呼んでもらっていいかい?」


「え?ら、ラーナお姉ちゃん……?」


その言葉を聞いた瞬間にカウンターを越えてロイヤリーに詰め寄る。


「ロイヤリー!良くやった!討伐せずにこんな良い子を契約してくるなんて!あぁ……私にもこんな可愛い妹が欲しい……」


「あのー、ラーナさん。依頼の方は……」


「無論達成!いや、私個人から色を付けさせてもらおう!」


よっし!とガッツポーズをするロイヤリーとヤコ。なんの事だか分からないシュネーはキョトンとしている。


「シュネー、何かいい事した?お姉ちゃん、喜んでる!」


にぱっ!と笑顔を見せた瞬間にラーナがもう抑えきれん!とばかりに言う。


「ロイヤリー!今夜は私の奢りで酒を飲むぞ!いや、シュネーちゃんはジュースか?まぁいい!今夜の九時にまた来てくれ!」


熱いシュネー推しに若干引きながらも、頷きながらシュネーに伝える。


「良かったなシュネー。今夜はこのお姉ちゃんがいっぱい食べ物と飲み物をくれるってさ」


そう言うとシュネーはカウンターを乗り出してラーナにお礼を言う。


「本当ですか!?ラーナお姉ちゃん、ありがとうございます!」


その瞬間、ラーナに激震が走った。


「全員今日は早く終わらせろ!仕事を早く、正確に終わらせた者にはボーナス手当を出す!いいなッ!」


(それでいいのか……?)


ラーナを見ながら首を傾げるロイヤリーとヤコであった。

シュネーは横で受付嬢の人からもらった飴を舐めていた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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