スン稼ぎにて 2
「よっす!ここはマジックバッグを売ってるところかい?」
悔しがる女の子を横目にロイヤリーは男の店主に話しかける。
見た目は至って普通で、悪徳業者に見られる肥った体型などもしていない。
「オォ!そうですとも。ウチの商品、ご覧になりますか?」
両手を広げて歓迎する彼に対して、横にいる女の子にチラッと目を向ける。
「……彼女は?」
「あぁ、彼女はクジ引きをしたのですが……何回やっても当たりが出ず、落胆していたのですよ」
心底残念そうにいう店主。それに対し、ロイヤリーは取引を持ちかける。
「なぁなぁ、店主さん。ハッキリ言っていいかい?」
「おや?何でしょうか」
首を傾げる店主に対してロイヤリーはニヤニヤとした顔から一転、スっと無表情になって冷たく告げる。
「……クジ引きに細工してるだろ。アンタ。簡単に言えば不正だ」
その言葉に泣きそうになっていた女の子がばっとこちらを振り向く。
クジ引きのシステムは至ってシンプルだ。
マジックバッグと同じ要領で作られたマジックボックスと呼ばれる箱の中に任意のランクとその数を設定した玉を放り込むだけ。そしてそれに手を突っ込んで引くのだ。
「……その言葉は見逃せませんねェ?何か根拠でもあるんですか?」
「いいや?根拠は今のところ、ない」
「ならば……」
「だからここで、運試しといかないか?」
その言葉、つまりクジ引きをするという事だ。その事態を静かに後ろで見ているヤコはソワソワしている。
(アンタ、一スンも無いのにどうやって運試しするつもりよ……!)
「ほう?ではスンを……」
「いいや、悪いけどスンは持ってなくてね。ただ……代わりにもし、不正してないと誤解していたら……」
「……誤解していたら?」
店主がオウム返しのように聞く。その言葉に興味を持ったようで、ロイヤリーは内心ほくそ笑む。
「……俺を売ろう。これでもそこそこ名の知れた冒険者なものでね。儲けをアンタの所に届けるよ。勿論、最低限の衣食住は確保させてもらうけどね」
「……ほう!そこまで言うのなら引かせてあげましょう……。ただし、一度。一度きりですよ?」
交渉は成立した。店主がマジックボックスを持ってくる間に横の女の子が心配そうに聞いてくる。
「あ、あの……なんでそんな、証拠もないのに……?私の運がただ悪かっただけの可能性の方が……」
それに対してロイヤリーは柔和な笑みを浮かべながら返す。
「これでも目はいい方なんだ。……まぁ、見てなって」
会話をしていると店主がマジックボックスを持ってくる。
ロイヤリーは無造作に手を突っ込んで、一個の玉を取り出す。
中から出てきたのは、金色に光る玉だった。それは特賞……つまり最高ランクを表しており、店主は喜びの声を上げる。
「オォ!特賞ではないですか!やはり彼女は運が悪いだけのようでしたね!それでは約束通り、貴方を……」
「……ディスペル」
店主の言葉を遮って、ロイヤリーは魔法を唱える。すると、金色の玉はみるみる色を失って灰色……つまり、ハズレの色に変わった。
「な……!何をしたッ!?」
ロイヤリーは無造作に灰色の玉を投げると、怒りを含んだ声で冷静に言う。
「アンタはマジックボックスの中身を全て灰色にしている。今金色に光った玉は、さっき準備している間に全て魔法で金色に光らせたからだ。その証拠に……」
唐突にマジックボックスを店主から奪い去ると、中身をぶちまける。
その中身は、全てが金色であった。
「な、な……!?」
女の子は絶句し、ロイヤリーは無慈悲にもう一度魔法を唱える。
「ディスペル」
するとぶちまけられた金色の玉は全てが色を失い、灰色となっていく。つまり、全てがハズレだという証拠だ。
「う、ウソだッ!ウチの店ではそんな不正はしていない!第一、お前が怪しげな魔法で細工をしたのでは無いのか!?」
その言葉に対し、反論したのは傍観していたヤコであった。
「ディスペルは簡単な魔法を解除して元に戻す魔法よ。つまり細工をしていたのはアナタ。そしてコイツがディスペルの魔法で元に戻した。……これでもまだ反論する?」
「よ、妖精……だと……」
妖精とは、人よりも力が弱い、身体が小さいなどの欠点を抱えている代わりに魔法に対する知識、及びその辺の冒険者など吹き飛ばせる程の魔法を持つ。
その妖精に冷静に説明されたら逃げ場は無い。ロイヤリーは店の床を蹴って店主に近づくと、遠慮なく手刀を首筋に入れて気絶させる。
「済まないヤコ。警備の人を呼んできて貰えるか?俺はコイツを監視する」
「わかったわ。それじゃ、ちょっと行ってくるわね」
そう言って飛んでいく彼女を見届けると、泣きかけていた女の子が話しかけてくる。
「な、なんで不正って分かったんですか……?クジ引きの運が悪いことなんて、沢山あるのに……」
「……この店を見た時、確かに普通のマジックバッグは置いてあった。けれど、マジックボックスの当たりになるような……それこそ、容量の多いマジックバッグは店の奥まで目を凝らしても見つからなかったんだ。それに、マジックボックス自体に何か魔法をかけられているのが見えたんだ。だから言ったでしょ?
『目はいい方なんだ』……って」
ポカンとする女の子を横目にしながら店主を拘束し続ける事十分程。
ヤコが警備の人達を連れてきて事情を説明し、足元に散らばった灰色の玉を見て納得する。
「なるほど。当たりのないマジックボックスで稼いでいた、と……。これは王国法に大いに違反するものだ。摘発、感謝する。」
ビシッと敬礼されると気絶したままの悪徳業者を引き渡す。
さて、気を取り直して冒険者ギルドに行こうか……と思った矢先、女の子からまた再度声をかけられた。
「あ、あの……!私、冒険者のミュルって言います!もし宜しければお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか……?」
冒険者ギルドの方向にヤコと共に向かおうとしていた俺は、振り向いて自己紹介する。
「しがない一スンも無い冒険者やってる、ロイヤリーってもんだ。後で警備局に行くといい。恐らく失ったスンは全額返ってくるはずだ。それじゃ」
ヒラヒラと手を振って歩き出す。それを見ながら女の子は小声で名前を復唱する。
「ロイヤリー……さん」
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