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スン稼ぎにて 1

陽も上がり、そろそろ水も生暖かくなって来た頃。

ロイヤリーはそそくさとバッグからタオルを取り出して身体を拭き、着替える。


「……今日のスン、稼がなきゃなぁ……ヤコにバッチリ言われたけどほんっと手元に無いし」


スン、というのはお金の事である。無論このスンが無ければ如何に彼とてお酒も飲めないしご飯も食べられない。最悪宿から追い出される。

働かざる者食うべからず、とボヤきながらロイヤリーは宿へと疾走していった。


彼とヤコが懇意にしており、それにアルトが創りダグザが勤めているのは宿屋『アオドリ』という場所である。


アオドリという名前はアルトが現役時代に見つけ、その時の魔物退治に一時の癒しを貰ったから……という命名であるらしい。


街からそう遠くもなく、かと言って治安が悪い訳でもない。何より店主二人の『アウトナンバー』という肩書きに寄せられて多くの騎士、冒険者が訪ねてくる事から『ナンバーズ』が如何に慕われているかが分かる。


ヤコはダグザと共に、客の対応をしていた。


「アルトの姐さァん!三番テーブル、追加でお酒の要請よぉ~!」


テキパキと仕事をこなしながら、ダグザは傍のふよふよと漂っているヤコと話をしていた。


「ロイヤリー、まだ戻らないのぉ?もうお昼よぉ?あの子、一スンも無いからそろそろ戻ってくると思うのだけれどぉ」


「アタシもそう思うわダグザさん……。ロイヤリー、毎回そうなんだから!」


そう話していればなんとやら。扉がそっと空いてロイヤリーが入ってくる。


「ロイヤリー!遅いわよ!今日の分のスン!あ、る、の!?ていうか塩くさっ!アンタ、どこ行ってたの!?」


ヤコは怒り心頭である。さてどうしたものかとロイヤリーは頭をポリポリと掻きつつ一つずつ答える。


「いや、無い。というわけでヤコ。行くぞ。後塩くさいのは海水浴してたからだ」


「……は?海水浴?」



ティタスタ王国の首都、ティタスタ。そこに向かう途中でロイヤリーはヤコからガミガミと言われていた。


「アンタねぇ!?アタシから逃げたと思ったら海水浴!?ビックリ通り越して呆れたわよ!そもそもアンタ、海から魔物来るとか思わなかったの!?」


それを半分聞き流しながら歩き続ける。いや、八割聞いていない。ロイヤリーはヤコの説教は聞かないのだ。慣れた、とも言う。


「いや、魔物来てもほら。透明になってるし?バレないかなって」


「……なんで透明化して海水浴してるのよアンタ。まぁいいわ。今日は冒険者ギルドに行くの?」


王都ティタスタでは様々なスンの稼ぎ方がある。

その最たる例が冒険者ギルドからの依頼だ。傷薬になる薬草取りから魔物の討伐以来まで、基本日払いの依頼が多い。


逆にティタスタから辺境まで向かう護衛任務など、長期的なものもある。その辺は千差万別だ。


他にも野良で狩った魔物の部位を売ったり、突発的に露店を開いてスンになる物を売ったりも出来る。割と自由な都市である。


「あー、うん。とりあえず冒険者ギルドかな。美味しい依頼があるといいんだけど」


「そうねぇ。昨日稼いだスンをぜーんぶ酒に変えたのだものね?」


グサッ。心に矢が刺さる音がしながらもロイヤリーはそのまま進んで行った。


街に着くと、慣れた道程で冒険者ギルドへと歩いていく。その途中の店で、ふとロイヤリーが足を止める。


「どうしたの?」


ヤコが不思議そうに訊ねてくる。それを聞けないほど、ロイヤリーは店の店主と客の内容を聞いていた。


「お客さん、もう一回回しますかァ?それとも……諦めます?」


「うぐ、しかし手持ちは……」


その店は『マジックバッグ』を売る場所であった。


マジックバッグというのは冒険者、騎士、その他の職業でも重宝される一品である。


バッグに魔法がかけられており、食材は腐らず、魔物の素材は勿論、容量によってはキャンプセット一式まで丸々入る。

それでいて大きさは子供でも背負えるレベル。非常に浸透している魔法道具のひとつだ。

だが容量も軽さもまちまち。その他にも様々な特徴や個性があるが、一貫しているのは完全に背負った状態であれば『バッグが消える』事だろう。


バッグが消えれば誰も触れず、すりぬける。その為、治安の悪い所では絶対にバッグは背負ったまま、というのが暗黙の了解になっている。


「あら、マジックバッグのお店じゃない。……けどアンタ、ソレがあるからいいじゃない?」


ロイヤリーのバッグは他のバッグとは明らかに一線を画している。その一つの証明が『触れただけで消える』事だ。


つまり、他のマジックバッグと違ってロイヤリーのマジックバッグは背負う必要が無い。身体のどこかにさえ触れれば同じように消えるのだ。


但しこれはアルト特製のプレゼントであり、勿論ロイヤリーにしか使えないように様々なロックが掛けられている。


例えば他人が持った瞬間、腕がもげるような重さを感じる錯覚が仕掛けられていたり、それでも持ち去ろうとすれば方角が分からなくなり、やがては持っている間目が見えなくなったり、五感を失っていったりと……ロックというより呪いをかけられているのではないか?とロイヤリー自身も思っている節がある。


そして肝心のマジックバッグの売り方だが、主に二種類ある。


一つは堅実。つまり容量も軽さもそこそこのやつを相応の値段で買う事。ただし、店としても個性を出したい訳で店ごとに軽いを売りにしたり、容量を売りにしたいところがある。


そして考えられたのが二つ目のクジ引き方式。堅実な買い方と違い、値段は高く、堅実なのよりも低性能なのも出てくるものの当たれば店の高性能なマジックバッグが手に入る……という一発逆転の勝負だ。


話を戻し、ロイヤリーが悔しがる女の子と店主を見ながらボソッと呟く。


「……あの店。不正しているかもしれない」


「は?いやいや、ココ王都よ?王のお膝元、こんな明るい場所で不正?それに運が悪いなんて事、沢山あるでしょ」


ヤコがごもっともな正論をぶつけてくる。しかしロイヤリーはそれに対して言葉を返す。


「……いや、あのクジ。何かがおかしい」


そう言って一スン無しのロイヤリーは、ズカズカとその店へと歩き出していった。


「は?いや、待ちなさいよアンタ!アンタ今スン無いのよ!?……あぁもう!」


ヤコも文句を言いながら、その後を追いかけていった。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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