作戦立案
シュネーに乗せてもらい、三人は飛ぶ。
天気は晴天。猛暑のような熱気に当てられながら無言で各々準備の確認をしていた。
「……魔力補給用ポーション良し、煙玉良し、魔法効果解除の薬よし……」
「キッチリ訓練を続けていた甲斐があったわぁ……。引退してからミディアと闘うことになるなんてね」
アウトナンバー二人のバキバキの力の入れよう。やはり因縁があるのだろうか。
そんな事を思ってふとミュルは聞いてみる。
「前に戦った時は……?」
「……逃したのさ。別国の領域に逃れられたもんだから《数者》として追うことが出来ない。当時の一位もね」
「……え?当時一位の人なら別国にも顔が効くんじゃ……」
「そうだね。顔は効く。けど一位にはそれが出来なかったのさ。ごめんね、アウトナンバーとはいえ、機密事項はこれ以上は語れない」
アルトから言われて、ミュルはそれが機密事項だった事に背筋がヒュっとなる。
暑かった体温はいつの間にか寒いほどに下がっていた。
「とーちゃく!」
また数十分かけてロイヤリーの元に戻ると、ヤコとラーナともう一人の方がロイヤリーに何か言っていた。
「だから!私たちは『偶然』通りかかったんだって。《数者》たるもの、何より冒険者としてこのグリフォンの大量発生の警戒をしない訳にはいかないからね」
「……然り。騎士としても魔物のスキに敵国が攻めてくる可能性も無きにしも非ず。こうして二人で巡回をしていた」
「……ってこと!ロイヤリー!」
ロイヤリーは頭を抱えた。こんな嘘バレバレである。本当は国、もっと言うなら国王や第二位に言い訳できるようにだろう。
「やぁ、ミュルにアルトさん、ダグザさん。シュネー、お疲れ様」
「……潰しに行くんだね?」
アルトの言葉にロイヤリーは立ち上がる。その背中が語る。絶対潰す、と。
「なれば我らが翼をお貸ししましょう。そのミディア、とやらも呪いにより戻ってきたと思わせられる事でしょう」
シュネーの父親……人化しているおじ様が言う。同じく人化している女性……シュネーの母親も頷き、後ろのグリフォン達も鳴く。
我々も戦う、とばかりに。
「ならばその翼、全て俺に預けよ。シュネーの主として。何より俺自身の為にミディアを潰してみせよう」
その言葉と姿勢には、威圧感があった。
ただ立っているだけ。ただ淡々と告げるだけ。それがラーナやアギルといった現役の数者の背筋をぴんと伸ばす程の圧力がかかっていた。
それだけ宣言に従わせるような、上に立つものの気質を感じさせたのだ。
(……冒険者ギルド長、それに騎士団長の数者すらその意見に何も挟まない……?やっぱり、ロイヤリーさんって……)
ミュルは周りを見て妙に固まる二人を見て、ふと思った。
やはり、ロイヤリーさんはタダの冒険者ではない。数者様、それも引退したアウトナンバーだけでなく現役の方にも影響を与える『何か』の存在なのだと。
そう思っていると、シュネーの父親が片膝を着いて服従の姿勢になる。そしてこう言った。
「全て仰せのままに。我らが主殿」
そして、母親。背後のグリフォン達も同じように座った。
「良し。ではまず、作戦の確認と共有を行う」
(……いつものロイヤリーさんらしくない。それに、元とはいえ第三位のアルトさんの意見も聞かないで作戦の立案……?)
それが気になってアルトさんに耳打ちした。
「あの、アルトさん作戦をロイヤリーさんに一任していいんですか?いくら良い目を持っているとはいえそれとこれとは、現場を踏んでいるアルトさんの方が……」
その言葉に首は横に振られた。
「いいや、私が言う事は本当に細かい訂正ぐらいだろうさ。ロイヤリーはそういう……まぁ、天才なのさ」
「は、はぁ……」
何やら歯切れの悪いアルトさんに違和感を覚えつつも作戦を聞く。
「まず、攻めどきは今ではない。敵とて、そんな直ぐに逃した獲物が帰ってくるとは思わん。そこで、敢えて相手の得意である夜……そうだな。朝方に近いが四時が良いだろう。
我々人族は姿を消してソナタ達の背に乗る。確認深いミディアの事だ。もう一度呪いをかけてくるだろうがその呪いは我の魔法により無効化される。そのまま演技を続けて貰いたい。
また、この時点でラーナはダグザの協力の元、ミディアの拠点としている村とその周辺を調べて隠れているであろう奴らを見つけ次第捕縛。ダグザの植物探知にかからなくなったら用済みだ。『殺せ』。
殺した時点で同時に我々が透明化を解除、総攻撃を仕掛ける。呪いの解呪はアルト、任せる。
アギルはミュルとグリフォン三羽と協力し、逃げようとする敵を……あー、捕縛。こちらに連れてこい。何か意見はあるか?」
そう言うとアギルが声を上げる。
「……その場で殺した方が早いのでは」
「ああ、そうだろうな。だがソイツら残党やミディアの一部の可能性もある。殺すのは情報を全て聞き出してからだ。……それにアギル。騎士団長ともあるお前が中級とはいえ、冒険者に『殺戮』をさせたとなれば騎士の評判が落ちよう」
「……ご配慮感謝する。確かにミディアの種をこの世から全て消し去るには捕虜も必要となろう」
その言葉にまたミュルはふと違和感を覚えた。
(なんだろう、何か引っかかる……)
「……ミュル。血は初めてか?」
「……え、いや!魔物を殺しているので……」
突然声をかけられてビックリしながらも答える。すると、ふっと笑っていつものロイヤリーさんが言う。
「まぁそうか。でも人の血なんて好んで見たくないだろ?捕縛、頼んだよ。大丈夫だって!あの騎士団長だってグリフォンだってついてるんだから!」
「は、はい」
雰囲気が変わる人だなぁ、と思いながら空を見る。
晴天の空は間もなく太陽が沈もうとしていた。
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