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まず、先立っての準備からだ。

傷薬、解毒剤。グリフォンが毒を使うとは思えないが周辺の虫や植物が毒を使わないとは限らない。念には念を、というやつだ。


自分のバッグの中に入れようとすると、ふとミュルが声を上げる。


「あれ?ロイヤリーさんのバッグ、特殊なんですか?形が見えないです……」


そうか、忘れていた。ぽん、と完全に手放すとそこにマジックバッグが現れる。


「俺のやつは特別すぎるやつでね。容量とか耐水、耐熱もあるけど、何より『俺が完全に手放さないと見えない』っていうのが特徴かな。……あ、触らないでね。触るとビリビリする魔法かかってるから」


そう言って触ろうとしたシュネーの手をそっと掴む。ビクッとしたシュネーはしゅん、としてしまう。だが仕方ない。そういう代物なのだ。これは。


「ロ、ロイヤリ〜さんって……凄いバッグ持ってるんですね……」


「まぁね。昔の名残かな?」


そう言ってポイポイとスンを払って薬、それに緊急時の食べ物を入れていく。

そんな中、ミュルはふとデジャブのような感覚を味わった。


(昔……昔?私、ロイヤリーさんの昔を……知ら……知らないはずなのに、心当たりが……ある?)


「……さん、ミュルさん。準備できたわよ。……あら、どうかした?顔色少し変だわ」


ヤコが声をかけると、ミュルはふるふると頭を振って考えを追い払う。

きっと気のせいだ、と。


「……いや、遠目でも分かりやすいな」


「こんな分かりやすく陣取るものかしら?」


現地に着くと、ここが陣地とでも言うようにグリフォンの群れが居た。そんな中、シュネーがふと声を上げる。


「……間違いないです。私がいた群れです」


その言葉に俺はシュネーに問いかける。

これが最後の問いだ。決別の、問いだ。


「……最後に聞くぞ。もしもあの中に家族が居たとして、もしも街に害をなすようであれば……シュネー。お前も戦うんだな?」


「はい。……私は戦います。おかしくなった、家族のために。群れのみんなの為に」


その言葉にふと違和感を感じた。シュネーはただ群れを抜けてきた訳じゃない。

恐らく、人間の街に興味があったのは本当だろう。実際楽しそうに生活しているのがこの二日で分かる。

だがおかしくなった、と言った。グリフォンは賢い生物だ。だからこそ人化も出来る個体が産まれるし、群れを統率できる。


ならば、それを取り除ければ?


「……ミュル、悪い。前衛頼んだ。ある程度傷をつけていいが殺さないでくれ。シュネーはミュルの援護だ」


「わ、分かりました!私、やられないように頑張ります!」


普通はそうだった、と俺は思い返しながら皆に作戦を伝える。


「シュネーの言葉を聞く限り、群れ全体がおかしくなった。だから俺達がやるのは……」



「父さん!母さん!」


シュネーが前に出て、人化のまま前に出る。


すると二匹のグリフォンが群れからその前に出てくる。


「シュネー……悪い子だね……どこに行っていたんだい……?」


「さぁ、戻ろう……我らが故郷に……」


その言葉にシュネーは首を横に振って、大きく宣言する。


「私は群れに帰らない!貴方達の同胞では無く、人間の為に戦う!」


その言葉と同時に横にミュルが槍を持って並ぶ。そして、グリフォンの群れも立ち上がる。


「愚か、愚かな娘……ならば力づくでも取り戻すまで……」


「皆……人の子は好きにして良い。娘を捕らえるのだ……」


そう言って群体と二人が衝突した。


ミュルはシュネーから極力離れないよう、槍を地面に突き刺してグリフォンの上を舞ったり、時にスライディングから足払いをして攻撃を仕掛けている。

ミュルはといえば、ひたすら攻撃を避けている。が、徐々に数に負けて後ろに押されていく。


「小癪な……」


恐らくシュネーの父親であろうグリフォンがシュネーの隙をついて、ミュルをシュネーの後ろに蹴り飛ばす。


「ミュルさん!」


そうしてシュネーも後退する。ゾロゾロと攻めてくる群れ。このままでは後退し続け、シュネーを奪われてしまう。しかし……。


これでいいのだ。ここまでが、全てロイヤリーの組んだ作戦という術中全てに嵌っているのだ。


「ヤコ!」


相棒の声を叫ぶと同時にロイヤリーは前に出て、二つの魔法を使う。


一つは『シールド』。これは前方に魔力の障壁を展開して攻撃を防ぐものだ。


もう一つの魔法は『グラビティ』。本人の指定した範囲に高負荷の重力をかけるもの。


つまり、ロイヤリー達は敢えてグラビティの範囲までシュネーとミュルを囮にして誘導したのだ。そして、誘導した後には……。


「はいはい!こういうのは妖精の十八番なのよね!」


ヤコが重力により動けなくなった群れに対し、手をかざして詠唱を始める。


「そーれっと!」


詠唱が終わり、青と緑が混ざりあった球が丁度グリフォンの集団に着弾する。


「さて、これでどうかなっと」


ヤコが使用したのは精神作用を解除、解呪する『メンタリーケア』。莫大な魔力と知恵、それに詠唱が必要が故に声も身体も小さい妖精が得意とする魔法でもある。


「……シュネー……」


母親らしきグリフォンが声を上げる。


「……貴方だけでも逃がせて、良かった。そう思ったのに、何故あなたが前にいるの……?」


正常化したようだ。グラビティを解いて、ロイヤリーが前に立つ。


「どうも、シュネーちゃんの主として契約してもらってますロイヤリーってもんです。……その言葉を聞くに、シュネーは人間の街に行きたかったと同時に、『逃がさなければいけない』理由があるようですね?」


その問いに人化したのか、ダンディな白髪のおじさんが答える。


「……然り。我らの至宝。賢く、聡く、次なるグリフォンの群れでも人族でも生きていけるシュネーだけは護らなければならなかった。その為に群れの皆で人族からの忌々しい呪いを受けた。……その結果がコレだ。申し訳ないことをした」


その時、ミュルとシュネーは見た。

ピクリと怒りに顔を歪ませたロイヤリーの顔を。


「……その事。詳しく聞かせてもらっても良いですか?」


「無論。シュネーの主とあれば。

我らが群れは大きな群れでは無い。しかして、生き残れたのは我らが人化し、親交を深められる程の強さを持っていたからに過ぎない。

つい先日の事であった。関わりのある人族の村へとまた物々交換をしに行った所、村が壊滅していた。代わりに黒い鎧を纏いし忌々しきあの人族が居たのだ。

直ぐにシュネーが悟った。あの人族は危険だと。物資を棄てても、離脱するべきだと。

しかし我らの判断が遅かった。何らかの魔法をかけようとしたモヤが見えた時には群れの皆がシュネーを護るように盾となった。

そして、なけなしの知性が残るうちに人族の語る言葉を耳にし、シュネーをこの大きな街の傍で降ろしたのだ」


その長い言葉にロイヤリーは怒りを溜めていた。

黒い鎧。モヤ。そして呪術。これらを得意とするのはティタスタと敵対する国の一つである『ミディア』である。

ミディアは大きな国では無いが、それ故にこうして魔物を使役、食料とする。そしてそれを使って他の小国に攻め入るのだ。

中でもその呪術は気味が悪い。人、魔物、妖精。あらゆる生き物問わずに奴隷とする魔法。それを彼らは生きるためではなく、悦びのためにも使っていた。


「……要求は?」


「我らグリフォンを一匹残さず従属させるように、との事だった。しかし知性が残った我らはその命令を利用し、シュネーを一匹だけ逃して『一匹残らず従属させよ』という命令から逃れたのだ」


「……なるほど」


ミディアの要求と賢いグリフォンにただただ感嘆するしかない。確かに、一匹残さずであれば逆に一匹さえ逃せばその一匹を捕らえるまでは魔法は完全な効力を発揮しない。


「……しかし、これで奴らも我らが忌々しき魔法から解放された事に気づいたはず。我らは一刻も早くこの地から去らねば……」


「……潰す」


その言葉と共にロイヤリーが魔法を展開する。その光は緑。グリフォン一匹残さず、包み込んでいく。しかし、攻撃性があるわけではない。


「これは……?」


「……ミディアは昔相手にした事がある。それから学んだ、対呪術用の魔法だ。呪術を一度だけ無効にする。その村の位置を教えてくれ」


その問いにヤコが恐る恐る聞く。


「ロイヤリー……まさか……?」


「……今までは縛られていたから。何より場所が不明だったから。だけどそれは二つとも関係無くなった。

ミュル、『青い鳥』に行ってアルトとダグザを呼んできてくれ。

ヤコ。冒険者ギルドに向かって事の説明とラーナに許可を

そしてグリフォンの皆さん……我らとしても忌々しきその人の国を『滅ぼす』手伝いをしてもらいたい」


立場に縛られない。タダの冒険者だから出来る事。


(……逃がさない)


それが国を滅ぼす事でも。

いつも読んでくださりありがとうございます!(一日に二話投稿なんていつぶりでしょうか……)

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