想定外の討伐依頼
太陽が昇り、朝九時になった。この時間になって、騎士や冒険者が起きて降りてくる。
「おはようございます!」
その中には勿論ミュルも含まれていた。おはよう、と俺が返すと首を傾げながら、口をすぼませて悩んでいる表情が浮かぶ。
「……え、俺の顔に何かついてる?」
「そ、そうじゃないんです。ただ、何か大切なことを忘れているような……そんな気がしたんです」
その言葉を聞いて俺は確信した。やはり、正体に辿り着かれた……もしくはそれに近い思考になったのだと。
何度でも辿り着く、とアルトは言った。もしもそれが本当なら嬉しいような、嬉しくないような。こちらも不思議な心境になった。
「おはようございます、主様!」
そう思っているとトコトコと小さい足を走らせながらシュネーがこちらにやってくる。ついつい撫でながら、こちらにもおはよう。と返事をする。
「そうだロイヤリー。この際、ミュルさんの実力も見ておくっていうのは?」
ふと横にいたヤコが提案する。確かに、彼女は中くらいの冒険者と言っていたがこの先伸びる可能性は大いにある。ならば指導してあげるのがせめて先輩に出来る事だろう。
「……?なんのお話ですか?」
(まあそうなるわな)
ヤコも話が飛躍しすぎなのだ。何もまだ説明していない。とりあえず俺は苦笑しながら内容を話す。
「シュネーが人化出来るグリフォンなのは多分昨日の事で覚えていると思う。だけど、いざ俺が依頼に連れていく時にどのぐらいの実力があるかを測りたいんだ。それにミュルさんも同行してもらえるかな?って話。
同じ冒険者だし、何より人が多い方が成功率が上がるからね。……と言っても簡単なのを受けるつもりなんだけど」
「そうそう!いざとなったらロイヤリーを囮にして逃げていいわよ。殺しても死なないわ、コイツ」
「ヤコ!?それは流石にあんまりじゃないカナ!?」
相棒による突然の死の宣告に慌てながらも、ごほんと仕切り直しの咳を入れて問いかける。
「……それで、どうかな?勿論、スンの配分は四人分均等。危なくなったらヤコが助けに入るから大丈夫だよ」
「任せておきなさい!ロイヤリーを砲弾として使ってやるんだから!」
「さっきから酷くない!?俺なんか悪いことした!?」
騒ぎながら言い合う俺たちにクスッと笑うとミュルは答える。
「それなら一緒に行きます!」
「決まりだな。……シュネー、戦えるな?」
その言葉に自信たっぷりの表情のシュネーが頷く。これなら大丈夫そうだ。
「んじゃ行きますか。さて、いい依頼はあるかなー?」
行ってらっしゃい、と手を振るアルトに手を振り返しながら王都へと向かった。
冒険者ギルドに辿り着くと、何やらザワザワしている。美味しい依頼の取り合いという訳ではなく、緊急の依頼が入ったが困っている……と言った感じの困惑の声だ。
依頼のボードに近づけないため、受付の人に問いかける。
「あの、何かありましたか?」
その問いに困った表情の受付の人が答える。どうやら、かなり深刻な依頼なようだ。
「実は王都近辺にグリフォンの群れが現れたという報告があったのです。偵察隊を送り込んだ所、確かに複数……いえ、かなりの数のグリフォンを確認しました。流通の邪魔、早急な治安維持の観点からギルドマスターの決定で緊急依頼として出されたのですが……。
如何せん、グリフォンが複数相手でして。報酬は高く設定してありますが、それを補って余りある危険性に皆様迷っているようです」
なるほど。納得だ。はぐれの一匹ならまだしも、かなりの数のグリフォンを相手取るのは厳しい。そもそもグリフォン自体が魔物で言えば上位に入る存在であり、それがかなりの数と聞かされれば尻込みするのも納得というものだ。
しかし、そこでふとシュネーが声を上げる。
「……主様。私、この依頼を受けたいです」
「……最悪、同族を殺すことになるんだぞ。シュネー、分かっているのか?」
少しキツい口調になってしまう。しかし、はぐれグリフォンであるシュネーの離脱から一日経たずにグリフォンの群れ。とても無関係とは思えない。
力ずくでもシュネーを取り戻しに来たのかもしれない。その可能性も考慮して彼女に問いかける。
「構いません。私は群れから既に抜けたはぐれであり、今は主様と契約を結んだグリフォンです。だから、私は一緒に戦います」
単に人間の街が見たいだけなら一日観光でも良かったが、契約を遵守するタイプのようだ。
それにキッパリとした言い方といい、出会った時といい、もしかしたら群れに戻りたくない理由があるのかもしれない。
言葉が通じるグリフォンがいればその辺も探ってみようと思いつつ、決意を固めた。
「よし、じゃあミュル、ヤコ、シュネー、俺であの依頼を受けよう」
「うっ、受けるんですか!?」
当然の如く名前を呼ばれたミュルが驚いている。だが俺の見立てが間違っていなければミュルは立ち回れるはずなのだ。
「ミュルって、得物は何使うんだ?」
「え?えっと、槍と魔法ですね。魔法はちょっと器用貧乏なところありますけど……槍なら自信があります!」
そう言うと背負っていた槍を軽々と回転させて構える。なるほど。となると……。
「俺とシュネーが前衛、ミュルは中衛。ヤコが後衛かな。無論囲まれる可能性があるから陣形が崩れる可能性は高いけど、とりあえずこの形で行こう」
そう言って皆が無言で頷いたのを確認すると、受付の人に真剣な声で言った。
「その依頼、受けます」
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