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明け方の夢

「…………よ!お考え直しください!」


誰かが叫ぶ。自分に何かを求めている。


「…………なら自分が……致します!」

「…………で…………を処分させるなど、私の心が許しませぬ!どうか、どうかお考え直しを!」


皆が叫んでいる。自分に考える事を求めている。


しかし不思議と自分はそれを断った。そして……。



「……懐かしい夢を見たな」


そう言って俺は起きた。昨日卑しい裏切り者、と呼ばれた事が関係しているのだろう。


ガラリ、とカーテンを開ける。まだ太陽は昇っている最中だ。いつもなら二度寝する時間だが、そんな気になれない。


水でも飲もうと部屋から出て下に降りる。すると、既に仕込みを始めていたアルトが後ろを向いて目が合う。


「ロイヤリー、おはよう」


「アルトの姐さん。早いね、おはよう」


いつもは意識していなかったがこんな時間から仕込みをしていたのかと驚く。毎朝こんな時間から仕込みをするなんて、一体いつ寝ているのか。


「にしてもロイヤリーがこの時間から起きるなんて珍しい。どうかしたかい?」


アルトに問いかけられ、少し考えて答えた。


「……昔の夢を見た、気がする。二度寝する気になれないから水くれ」


「そうかい。……あぁ、そうだ。話したい事があったんだ」


コップいっぱいの水を受け取りながら、ん?と声を出す。


「……昨日連れてきたミュルって子。かなりスジがいいね。情報をダグザや酔ったラーナが出しすぎたのもあるけど、アンタの昔を引き当てていたよ。おそらく、ね」


その言葉を黙って聞いている。ダグザさんもお茶目なものだ。しかし、これは聞いておかなければいけない。


「……記憶は?」


「ダグザが生み出した、直前に考えていたことを消す効果のある植物を混ぜてホットミルクを出した。眠そうにしていたから、きっと辿り着いた事は忘れているだろうけど……。何回でも、あの子はアンタの地位を思い出すよ」


それを聞いて、静かに水を飲みほす。もう一杯、と要求しながら言葉を発する。


「ダグザさんも残酷な事するね。ピエロか何か?自分から情報を与えておいて、答えに辿り着いたら自分が生み出した植物の効果で記憶を消すって」


水を貰い、仕込みに戻るアルトが言う。


「きっと、私が忘れさせる予定だったとしても誰かに気づいて欲しかったのさ。ダグザはお人好しだからね。アンタが悪者じゃないって、アンタが見込んだ人に知って欲しかったんだろうよ」


「それが忘れ去られる前提でも、か。酷だね」


言っているうちにヤコがふわふわと降りてくる。


「あら、ロイヤリー。仕込みのお手伝いのバイトかしら?」


「どこをどう見たら水飲んでるだけの俺が仕込みのバイトなんだ。二度寝出来なかっただけだ」


「ふーん……?あ、アルトさん。私にもお水ください」


そう言うとまたアルトがコップを差し出す。小さい妖精用だが。


「昨日は飲んだわ〜!それに食ったし!シュネーちゃんも楽しそうだったし!お代は全部ラーナさんが持ってくれたしで最高ね!」


「そりゃ良かった。ところでラーナさんは?」


その問いに苦い表情を浮かべて乾いた笑いをしながらヤコは言う。


「……昨日ここで叫んでダグザさんに眠らされたわ。あれは相当呑んだわね」


「今日の冒険者ギルド、大丈夫か……?」


冒険者側ではなく、職員の方の心配をしている。ラーナの事だから部屋に入るまではキッチリしているだろうが仕事が手につかなくなったら下の仕事が滞る。


と、噂をすれば何とやら。噂のラーナさんが黒いロングの髪の毛をボッサボサにしながら降りてきた。


「アルトさ〜ん……水……」


「二日酔いしてんじゃねえか……」


明らかに頭痛だ。頭に手を当てて痛いです、と主張している。アルトは溜め息ひとつもせず、水と植物の葉っぱを持ってきた。


「全く、呑みすぎは注意だよラーナ。これ、いつものやつね」


「ありがとう〜……。んー……ぷはぁっ!ダグザさんの植物って本当に便利よね、毒性があるものから二日酔いに効く薬の植物も作れるもの」


自分の知識にある植物なら創り出せる。姿形は変われど効果は殆ど同じ。だからこそ『豊穣』の二つ名を持ってダグザは尊敬されていた。


「ま、ダグザだからね。ところで昨日のお代はどっちが支払う?」


チラチラと俺とラーナを見ているアルト。


やはり連れてきた俺だろう、いくらだ?と考えているとラーナが口を開く。


「……私が出す。元はと言えば円卓で飲ませてあげられる予定が潰れて一杯も飲めずに寝たそうじゃないか。あまりに可哀想だ」


「ありがとう、ラーナ」


「感謝をありがとう。そう思ったなら今日も依頼を受けに来てくれ」


そう言ってお代を聞いて、ちょっとオーバーした分のスンを置いてラーナは出ていった。


「今日も冒険者ギルドに行く用事が出来たね、ロイヤリー?」


「……良い依頼あるかな。楽で高いやつ」


「惚けた事言いなさんな。シュネーちゃんの為に楽なのを受けてさっさと街を紹介してやんな」


なんだかんだアルトもシュネーの事を気に入っているようだ。やはり可愛いからだろうか。


「シュネーの戦闘能力も見てみたいし、軽い討伐依頼でも受けるか」


その言葉にヤコが乗っかる。


「良いわね!いざとなったらロイヤリーを吹き飛ばせば人間大砲できるしね!」


「やめてくれ!ヤコの場合本当にやりかねなくてシャレにならんから!」


ギャーギャー騒ぎながら水を飲む俺たちを、アルトは優しく見守っていた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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