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序幕

幾千の時が経っただろう。

幾万の屍が積み上がっただろう。

ティタスタ王国、王城。その中には呼び出された……いや。魔法、時には力づくで『誘拐された』人々が多くいた。


「愛すべき民を……守るべき民を!こうしたかったのか!貴方は!」


どこかから男が叫ぶ。その声に呼応するようにして騒ぎは大きくなる。

その男は『数者』と呼ばれた、国内屈指の実力者であった。その男は剣を取り、立ち上がる。


「間違っている!こんなの……こんなの貴方のするべきことではないだろう!『一位』!」


その声に振り向くように、どこか冷たい顔をした青年が振り向く。

ちゃぷ、ちゃぷ。その青年は無言で剣を取り、自らが殺した人の血の海を歩いた。


「せやああああ!」


声を上げた男が剣と共に突っ込んでくる。数者とはいわば戦闘のプロである。

魔物にと呼ばれる異形のモノに対しても、対人戦でも。その力は絶大であった。しかし……。


「……かはっ……」


突っ込んできた男は青年に、静かに身体を貫かれた。そして、剣を勢いよく引き抜くと手から魔法をかけた。

すると数者の男は、ただ安らかな顔で死んだ。後ろの大量の屍と同じように。


「……だ、だめだ……数者様ですら敵わない、なんて……」


「いいや、相手は一人だ!囲め!囲め!」


誰かが声を上げ、周りを囲む。青年はじっと、囲まれるのを待った。それが慈悲だというように。


「……警戒しろ、こんな裏切り者でも『数者の一位』だからな……!」


誰かが呟く。そこに恐れは無かった。しかし、その言葉に青年は反応した。


「どちらかが死にゆく前に問おう。『数者』の一位。その立場になんの意味がある?」


初めて発せられた冷徹な声に囲んだ人々がぶるりと震える。しかし、応える。

何故なら、この日。この瞬間まで。

数者の一位とは、絶対的な存在だったからだ。


「民を守ることだ!」


「王を、城を守護すること!」


「戦えない民の代わりとして、その旗を挙げるもの!」


「戦場にて敵を畏怖させ、その力を見せつける者!」


様々な答えが返ってきたところで青年が再び答える。


「そうだ。数者とはそういう存在であり、その頂点の一位とは敵を畏怖させ、民を守り、全ての数者……全ての民を護る存在。だが、同時に思う。

仮に、戦場において囮が必要だったとしよう。魔物でも良い。全ての敵に対し、『弱き者』『不味い餌』では敵は食いつかない。なればどういったモノなら敵は食いつくか?

答えは簡単だ。『相手にとって満足以上のモノを齎す存在』。それだけで良い。よりそれが知られていれば知られているほど。美味しければ美味しいほど。敵は釣られ……その意味を知らず、散るのだ」


そう言って無造作に手を横に凪ぐ。まるで、ハエを追い払うその仕草で、正面にいた者は等しく屍となった。


「ひっ……!」


「これは弱き者では務まらぬ粛清だと知れ」


次に襲いかかろうとした後ろの人々に向けて指パッチンをする。身体のそこら中に穴が空き、また物言わぬ抜け殻となった。


「さ、左右から仕掛けろ!」


「そして、一位による裏切りだと知れ」


剣を片手に持つと、後ろの山に飛ぶ。

そして、そのまま剣を正面に向けて凪いだ。また、多くの犠牲が増えた。


「……残りは?」


傍にいた者に問いかける。その者は一位の味方であった。

同時に、泣いていた。


「……居ませぬ。これで、全てでございます。数者三十二人、民は数え切れぬ程」


「……そうか。では予定通り、生き残った数者と一部に事実を流せ」


その言葉にローブを被ったその男性は近づいて懇願する。


「お辞めください!せめて、せめて……この私めに!私めに責任を全て押し付けてくださいませ!」


その言葉に青年はフルフルと首を振った。


「ダメだ」


「何故でございますか!何も……何も、誰よりも!数者の誰よりも!この国の誰よりも!この国を想い、守った貴方が……!裏切り者にならなければならないのですか!」


泣き声で伝えられると、青年は冷徹な顔を壊し、ふっと微笑んで男に言う。


「……そなたは良く尽くしてくれた。知っているとも、私が動けない中民を捕縛したのも。私が眠った時に寝ずの番をしてくれたのも。時に悩んだ時に、相談相手になってくれたのも。だから、最後の頼みなのだ。

殺された者には遺族がいる。しかし、その復讐相手が死してはどうなる?そう、分かるであろう。虚無となり、廃人となるのだ。一位という『絶対的地位』と『復讐相手が存命している』。この二つを両立させるには、これしかないのだ」


「……うっ、うぐっ……ぁあああ……」


男が泣き出した。分かっているのだ。男だって、分かっているのだ。

それを認めたくないのだ。主を、誰よりも民を愛した主が大衆の恨みの化身になるなど。


「……わかってくれるな。頼んだぞ。これが一位として……最初で、最後の『お願い』だ」


「うっ、ぁあぁ、ああぁ……!そのお願い、聞き届けます……聞き届けますとも……!ですが!私からも一つお願いがございます!」


見たことの無い切羽詰まった顔を見て、無言で頷いて促す。


「貴方様はまだ国に必要なお方!……どうか、どうか!生き残ってくだされ!私めが流した事実で狙われても、魔物と対峙しようとも!貴方様という、その存在がまだ国に必要なのです!

一位のままでなくても良い!人が変わっても!市民となって民を観察してても良い!……どうか、生き残ってくだされ……!」


その言葉に、力強く頷いた。


「約束しよう。私は生き残る。愛する国と民の為に。存命してみせよう」



……こうして、一位は『ティタスタの大罪人』『失墜の数者』と呼ばれ、一位……いや、数者を追放された。

そして、その血塗れた席に座れる者は居なかった。

故に、一位の席はこう呼ばれた。

『失われた番号』……『ロストナンバー』と。

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