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第六話

 今人気のゲーム『こい!獰猛な森』

 通称『獰森』は獰猛な動物を仲間にするというなんともファンシー&バイオレンスなR15ゲーム。

 噂だと食事シーンがえぐいとか、仲間にするときにスカウトというなの麻酔銃を撃つシーンがあるだかで今人気のゲーム。

 ただ我が家のゲーム事情は、『ポケット珍獣』や『スーパー配管工』などの全年齢指定が当たり前。

 陽葵とやるから、頑張って『モン狩』を買ってもらったのは記憶に新しい。


 つまり何が言いたいかといえば、


「なに隠してんの?」

「何も隠してないぞ」

「そうよ、何もないわよ」

「絶対嘘じゃん!」

「嘘じゃないぞ」

 自信満々にいう父親の顔はにやけている。

 まさに嘘をついていますといわんばかりのその顔に一発叩き込みたい。

「さぁ、獰森でもなんでも買ってやるぞ!」

「うざ」

「ひどい!」

 わざとらしく泣いたふりなんてするのがまた一段と腹立たしい。 

 それを見てニヤニヤとこれまた、笑みを浮かべている母親を見るにこちらも何か隠していることは間違いない。

 さっきの渡してきた諭吉の数といい、この態度といい明らかにおかしい。

 陽葵には外で待っていてもらっているが、この問題だけは片づけたい。

 というか、やっぱりうざい。


「ねぇ、マジなんなの?」

「なんだ! 反抗期か?」

「マジキモイ。 死ね」

「なっ!?」

 いい加減うざい父親にそう返せば、ガチ泣き見たいな顔をされるがこっちだってウザすぎて泣きたい。

「怜奈。 言い過ぎよ」

「お母さんもうざいからね」

「はいはい」

「うわ」

 まるでちゃんとした母親のように割って入ってくるが、さっきまでさんざんおしゃれをさせようとしていた、母親こそが一番うざいといっても過言ではない。

「もぉマジヤダ」

 気持ちが萎えの一方に向かっていく中、母親が私の耳元に近づいてきて一言。

「今日も陽葵くんち泊ってきていいわよ」

「マジうざい!」



「陽葵、お待たせ」

「おう、ってどうした」

「いや」

 玄関で暑い中待っていた陽葵に声を掛ければ、軽い返事と共におどろいたような声を返されるが、その気持ちはわかる。

 大方私の顔が、怒ったような感じになっているからだろう。

「えっと」

「気にしなくていいから」

「でも」

「いいから」

 陽葵が気にしてくれるが言えるわけがない。

 陽葵との関係を深読みしただか、変な妄想をしているかは知らないが、一方的なあの二人のことはできれば封印しておきたい。

「...まぁいいけど。 紫音は家だから」

「わかった。」

 流石にいつまでも引きずっても仕方ない。

 というか、引きずったところでいいことはない。

 今からうちに戻って文句を言っても余計煽られるだけだだから無視するのが一番。


「いってらっしゃい」

「気を付けてねぇ!」

 

 玄関から顔を出している二つの顏が自分の両親だなんて認めない。

 絶対に。


――諭吉使いこんでやる。


 財布を重くしてくれたそれだけは感謝して、陽葵の後をついていった。


「あれ、紫音玄関にいねぇじゃん」

「まぁ、私のせいで遅れたしね」

「そんな遅れてはないとは思うけど」

 どうやら話では、紫音が玄関で待っている予定だったらしいが陽葵の家の玄関に紫音の姿はない。

 とはいっても責めることはできないだろう。責める気は毛頭ないが。

 家でかかったあの問答の時間とか、もともと予定になかったこととかそういうのを踏まえてしまえば、私に責める権利なんてない。


「ちょっと馬鹿紫音よぶわ」

「それ、紫音には言っちゃだめだからね」

「はいはい」


 本当に陽葵がわかっているかはわからないけどその返事を信じて玄関を開ける陽葵を見守る。


「おい! 馬鹿はやくしろ!」

――だめだこりゃ

「うっさい陽葵! 後10分!」

「そんな待てるか!」

「は、きもい!」


 玄関の扉が閉まったはずなのに聞こえる怒鳴り声の応酬。

 女の子としてはかなりお洒落な分類になる紫音のことだから準備をしているようのだろうが陽葵はそういうところがかなり疎い。


 まぁ私もなんだけど。


「ちょっと、陽葵だめだよ」

「は?」

「こらこら」

 とりあえず玄関を開けて目の前にいる陽葵に声を掛ければ、なんともいらついたような声を掛けられるが、これでいて陽葵と紫音はかなり仲がいいのだから不思議だ。

 

 それこそ、何だかんだお互いの体育祭とか文化祭には足を運んでいるんだから。


「紫音。 急がなくてもいいからね!」

「え!? 怜奈ちゃん? ごめん急ぐ!」

「あ、いいってば」

「いや、ほんとすぐだから! あぁもう眉毛整えないと!」

「紫音。 ほんとに急がなくていいからね?」


 2階から聞こえてくる紫音のどたばた声を聞くに、本当に大慌てって感じなのはうかがえる。

 もう一度陽葵の方を見れば、陽葵も流石に諦めたようで、


「はぁ、リビング行こうぜ」

「了解」

「悪いな」

「気にしなくていいよ。 紫音可愛いし」

「なわけ」

「そこは認めなよ」

 紫音になんだかんだ言って怒り切らないのだから、やっぱり紫音がかわいいのだろう。

 昔なんて,,,,,,,


「ほら、お茶でいいか」

「ありがと」

「いや、こっちが悪いし」

 申し訳ないというか、困ったような顔をしてお茶を出されるが本当に気にしなくていいのに。

「女の子なんだから仕方ないでしょ」

「しらね」

「はいはい。 そういえば獰森でいい? ソフト」

「ああ? ほんとに買うのか?」

「なに? やりたくないの?」

 ぶっちゃけてしまえば、『こい!獰猛な森』を陽葵がやりたがっているからせっかくなら一緒のモノを買いたいだけでこれといって絶対ではない。

 ただむかしっからゲームを陽葵と一緒にやってきたから、おんなじのがいいだけ。


「なんか転売? あれがウザいし今更勝てる気がしねぇ」

「いや、かつって? そういうゲームだっけ?」

「標本コレクションとか、ネットにさらしてる奴いてだるい」

「まぁ、わかる」

 陽葵の言わんとしてることがわかるだけに、そういわれてしまえば魅力もない。

 どんなのがあるかなんて言うのは、今のご時世ネットに上がっちゃってるわけで隠し要素なんてゼロなわけで、そのくせ戦闘系ではないからよっぽどハマらない限り、やり込み要素は薄いかもしれない。


「でも、じゃあどうすんのさ?」

「うーん」

 陽葵の趣味で言えば、たぶん獰森をやろうっていったのは案外私のことを考えてくれたのかもしれないが、つまらないゲームを無理に一緒にさせようなんて思わない。

「ちょっと見てみるわ」

 そういってスマホを取り出す陽葵は、私にも見えるようにして『神天堂じんてんどう』の発売ソフトの一覧を開く。

 多分一緒に見ようってことだろうから、席を少し近づけたとき、


「怜奈ちゃんごめん!!!」

 ドタドタと音を立てて階段を下りてくる音がした。

 それと一緒に聞こえてくる謝罪の言葉は間違いなく、一人しかいない。

 バタン!っと大きく開け放たれたリビングの扉の先には、


「かわいい!」

「え? ありがと」

「もう、紫音はかわいいねぇ」

 黒のスキニーパンツに、白地の大き目のトレーナー。

 トレーナーにはちょこっと胸元に犬のイラストが描いてあってワンポイントになっている。

 

「怜奈ちゃん。 かわいい」

「ありがとね紫音」

 そんなことを言ってくれるが間違いなく紫音の方がかわいくて、うっすらとつけられたリップと、軽く整えられてしゅっとした眉毛はかわいいと同時に大人っぽい印象を受ける。

 あとはメンツがメンツなだけにドタバタすることを想定してか、髪型がポニテなのもかわいい。


 こういうことが自分で出来るのだから、やっぱり紫音は女の子だ。

 私なんて、母親につけられてるわけだし。


――いや、自分でもできるけど


「やっときたか」

「うわ、うざ」

「はいはい」

 陽葵ももっとうまい言い方があるだろうに、そんな言い方しかできなくて紫音がその顔を歪めるがそれも一瞬で、すぐに信じられないものを見るような顔つきになった。


「陽葵、その恰好で映画行く気?」

「え?」

「だから行く気?」

「そうだけど」

 それがどうしたとばかりに言った陽葵の言葉に、いよいよ紫音が顔を驚愕に染め上げたのがわかった。

 

――あ、たぶんこれは

 何となくこの後の展開はよめる

「まじありえない!」

「はぁああぁあ!? なんでだよ!?」

 声を大にして文句をいう紫音は、まさにイマドキ女子という感じだ。

「なんでじゃない! 普通女子二人と出かけるときはおしゃれするでしょ?!」

「いや、いいだろこれで!」

「よくない! 完全ダル着の延長線じゃん」

「...ええええ?」

 流石に服装については紫音が上だとわかっているのか、怒ったりせずただただ焦っているような驚いた声を陽葵はもらした。 

 陽葵の服装は、紺色のパーカーにジーパンという、無難などこでも行けるような服装だったが、紫音的にはいまいちだったようだ。

 

「ちょっと来て!」

「うわ!? 紫音この」

「いいからこい!」

 ぐいぐいと陽葵の腕を引いていく紫音の顏はなんとも怒りや呆れだけではない。

 多分陽葵は気づいてないけど。


「いってらっさい」

「あ、ちょ、みすてんな」

「怜奈ちゃん、少し待っててね」

「おっけ、紫音」

 なんだかんだで、お兄ちゃんとのお出かけが楽しみなのかやっぱりちょっとうれしそうな顔で行く紫音と、連れていかれる陽葵に手を振れば階段に消えていった。


「よし、紫音もできるゲームにしよ」

 陽葵が置いていったスマホはいまだ画面をつけたまま。

 とりあえず、それを使ってパーティーゲームを探すことにした。



―――――――――――――――


「ねぇ、まともな服ないの?」

「まともな服ってなんだよ?」

「いや、まともな服はまともな服でしょ」

 目の前で仏教面して服を漁る、この馬鹿にはあきれしか出てこない。


「これとか?」

「なんでキャラTだし」

「いや、これディズニーかわいいだろ?」

「かわいいけど、そうじゃない!」

――そうじゃない。

 この馬鹿はどうしてそんな自信満々なんだろう。

 

 本当にこのままでは、ジーパンと紺パーカーのダサコーデの方がましになってしまう。

 ただこれはやっぱり私の我儘だけど、せっかくのお出かけならみんなオシャレしていきたい。

 絶対言わないが、本当にお兄と外へ行く機会なんてあるにはあってもよくあるわけではないからかっこいい恰好をさせたい。

 せっかく怜奈ちゃんも一緒なわけで、みんなでおしゃれして自慢したい。


「あ、これは?」

「ん? あーあなにそれ?」

「もうこれでいいじゃん!」

「ちょ、あんま漁んな!」

 クローゼットを漁れば、買ったままなのか袋に入った服が数着。

 多分本当に忘れていたんだとは思うが、それの仕舞われていた理由は何となくわかった。


『これ二人のペアコーデ!!』


 そんなことを言っておかあさんが少し前に買ってきたのを、仕舞いこんでいたのだろう。

 私だって、ペアコーデなんて面と向かって言われれば嫌だから最初は仕舞いこんでいたけど、今日発掘してお披露目になったのだ。


「ねぇこれでいいじゃん」

「は? 紫音はいいのかよ?」

「ま、今日くらいは許す」

「うざ」

「はいはい。 とりあえず先おりてるからなるはやでね」

 とりあえず服の入った袋を投げつけて、下へ向かう。


 なんだかんだこうすれば、最後はぐずらずに言うとおりにすることは知っているから。


 扉を閉めて廊下に出る。


「ふふん」

 久しぶりの陽葵や怜奈ちゃんとのお出かけに思わず声が出る。


「お父さん的には、兄妹の関係で産んじまってすまん! って感じだな!」

「しね!!!」


――したり顔でこっちを見てくるこの父親は、本当に滅んでしまえばいいのに。 

 

 

 

 


 

 

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