第五話
なろう版更新です。
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「で、一線超えたのお兄?」
「開口一番がそれとか引くぞ」
サラダや目玉焼き、焼き魚にみそ汁と、わが家の朝の定番メニューが机を彩る中で隣に座る妹からの腐った言葉。
——耳年増とはこのことか。
それとも中三女子の標準挨拶なのか。
「こら紫音。 朝からそんなストレートに聞かないの」
「お母さん」
「母さん」
「で、しちゃったの?」
「このくそ婆」
一瞬でもまじめかと思ってしまった自分を恥じたい。
俺の毒舌にも一切怯まずに延々とその辺のことを遠回しを装ったスライダーくらいを投げてくるのは流石だと思うが勘弁してもらいたい。
あの愚妹ですら最初は爛々とさせた目に、同情のそれを宿し始めているのだから相当だるいのは言うまでもない。
「母さん」
「...あなた」
——お、親父!
さっきまで延々と逆さまの新聞と睨めっこしていた男の一言に流石のクソ婆にも怯みが見えた。
ガツンといってやってくれ。
「物置部屋を一つ片づけるか、新婚だ」
「そうね!」
「なわけねぇだろ!」
「どーせそんなこったろーとは思ったよ!」
普段、新聞なんて読まないで積み重ねてるんだから薄々勘づいてはいた。
ただ、そんな中でも僅かに期待は持ったのだが、粉々に砕かれる。
「お兄、流石に同情するわ」
「おう」
「で、したん?」
「してない!」
——最後の最後でこいつは......
流石この両親の子どもといったところだろう。
ただそうなるとDNA的に間違いなくその波動が俺にもあるのだろうが......
——うん、ないな
よくよく考えてもきっと俺にこの波動は流れていない。
もはや俺だけコウノトリさんが運んできたまであるのではないだろうか。
「お兄、しょうゆ取って」
そんな馬鹿なことを考えていれば、隣から飛んでくる指示でしょうゆを手に。
こいつ目玉焼きしょうゆ派なんだよな。
ゆで卵にもかけるし。
「はいよ。 塩くれ」
渡しながら少し遠くの俺の相棒を呼ぶ。
俺は断然、塩派
「ん。 あと胡椒」
「サンキュ。 ほい、イタリアン」
「ごくろう」
ついでにもう一人の相方の胡椒も渡され、イタリアン派のこいつに渡してやればなかなかに上からな感謝が来るがそれには慣れた。
「なに?」
「なんだよ?」
「いや、夫婦かよ?」
「紫音ちゃんと陽葵、付きあってんの?」
ガン見してるから何を考えてるかと思えば、何考えてんだか。
「は? 馬鹿じゃないの?」
「そー?」
「兄妹はこんなもんだろ」
勘ぐるような表情の両親にそう答えるが、流石に実の子にそんな目をむけるなや。
「つーか、陽葵とかないし」
「俺も紫音とかありえねーし」
「は?」
「あ?」
売り言葉に買い言葉を繰り返していがみ合うが、お互いそこまで考えてしゃべっていないからかすぐに食事に戻る。
——てか、久しぶりに名前で呼ばれたわ
内心、感動に近いものを覚えながら箸を進めていけばリビングのドアからノックの音が聞こえた。
「はい、おはよう怜奈ちゃん」
「おはようございます」
「あ、怜奈ちゃんおはよう」
「紫音おはよ」
服は昨日俺が貸したジャージのままだが、どうにか寝癖は直したのか、しっとりとした感じの髪色の怜奈がドアからリビングに入ってきた。
「怜奈ちゃん、こっちこっち」
「うん」
紫音に呼ばれ怜奈は、紫音の隣に。
「はい、怜奈ちゃん」
「ありがとうございます。 すいません」
普段と違って急な泊りだったからか、少しよそよそしい怜奈に母親が首を横に振る。
「いいのよぉ。 ウチの馬鹿が悪いんだもん」
「そうそうこの馬鹿が悪い」
「ああ、家のバカ息子が」
「.........このやろう」
これでもかと、怜奈に飯を出すタイミングで畳みかけてくる家族。
ただ、ここで大声出して批判できるような立場でもないのでそんなことはしない。
「あ、ひな」
「はいよ、しょうゆと胡椒」
「ありがと」
「ほれ、ごまドレ」
「ん:」
もはや反射的に、怜奈が使うものを渡す。
ごまドレに関しては怜奈用だし。
「うーん。 熟年?」
「ドンマイ紫音!」
「だる」
母親にガッツポーズを送られて心底だるそうにしているこいつには、同情をするが俺はノータッチ戦法。
かかわるだけ無駄だ。
「どーしたの?」
「んや、気にすんな」
「ん」
不思議そうに見てきた怜奈もそういえばすぐに食事に戻った。
「怜奈ちゃん! 今日も香水する?」
あのあと、変なことも流石に口走らなくなった両親により円滑に終わった朝食。
そして、怜奈を送るまでの時間調整に少しティータイムを俺の部屋で取れば口走ったのは紫音。
——最近の香水はお前の影響か!
「ん? 今日はいいかな」
「えー、いいじゃん。 馬鹿連れて出かけてくれば」
「あ?」
「は?」
「はいはい、紫音はそーゆーこといわない」
「陽葵も乗らない」
やたら今日は棘のある紫音に言い返せば、怜奈に注意される。
俺としてもそこまで熱くなる気もないし、紫音も怜奈の言葉には忠実なのですぐにいがみ合いも終わる。
「紫音駄目だよ。 馬鹿ってよんじゃ」
「いや、でもお兄馬鹿じゃん。 馬鹿陽葵」
「まぁ馬鹿陽葵だけど馬鹿はダメだって。 せめて馬鹿陽葵って呼びな」
「はーい。 てことで馬鹿陽葵、怜奈ちゃんとお出かけしてきなよ」
「このガキャ」
「ふん」
「ちょっと、紫音?」
割としっかりご機嫌斜めな紫音に怜奈が小首をかしげれば、しぶしぶといったように口を開く。
「あんなに昨日、怜奈ちゃんかわいかったんだからもったいないじゃん」
「そんなことないよ」
「そんなことあるの! てかお兄マジで送るだけだったりしないよね」
「っ!」
要するに怜奈が昨日あんなにしっかりした格好で俺に会いに行ったのに、会わなかったのが気に入らないらしい。
怜奈を姉のように慕っているからこそ、その点では俺が許せないらしい。
俺だっていろいろ考えてはいる。
今まで喧嘩の度に何かとしてきたから、今回だって考えていないわけではない。
ただ、
「陽葵?」
一番大事な友達だと自分に言い聞かせていても、こいつが女なんだということを理解してしまった以上、誘いずらい。
というか、誘い方が思い出せない。
今まではどことなく勝手に行き先や、遊ぶことが決まっていたがどうやっていたのか。
それが思い出せないのだ。
「おい、陽葵」
「なんだよ親父」
「これやる。 この前もらったの忘れてた」
「は?」
すっと俺たちの座るテーブルに近寄り、そういって机の上に紙きれを置いて消えていく親父。
「映画?」
「ああ、なんか新作らしい」
「てかなんで三枚?」
うちは四人家族だし、子どもは二人だぞ。
そう思っていった俺に親父はただただ真顔で、
「うちは子ども三人だろ?」
馬鹿かお前。 そんな付属パーツまでつけて言い放ってきた。
*********
「この度は俺のせいですみません」
「いや良いんだよ陽葵君。 怜奈が一人突っ走っただけだから」
「そうよ陽葵ちゃん。 これからも仲良くしてあげてね」
「ちょ、お母さん」
家でひと悶着どころか、ふた悶着ぐらいして怜奈を送り届けた現在。
「あ、陽葵ちゃんおかしたべる?」
「大丈夫です」
「もう遠慮なんてしなくていいのよ。 はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「陽葵君、今度キャンプでも行こうか」
「あ、はい」
「二人ともいいでしょ! もう」
ただただ、もてなされていた。
チャイムを鳴らし俺の顔を見るなり、怜奈のお母さんにつかまり家の中へ。
そこでめちゃくちゃにおっかない顔のお父さんにがっしりと肩を掴まれ机に強制的に着席させられれば、説教覚悟でいたのにまさかのおもてなし。
ただ流石にここで、『怒ってないんですか?』なんてきく度胸もないのでただただもてなされて現在に至る。
「でだ、陽葵君」
「は、はい」
―—来た!
「俺としては高校生で父親は厳しいと思うんだがどうかね?」
「え、あはい。 そうですね」
「だよね。 かーさん赤ちゃん用品はまだいらないぞ」
「えー。 北松屋いこうとおもったのに」
「あの、何のはなしですか?」
いや、何となくわかっているが一応聞いておく。
「え、だって迎えたんじゃないの?」
「あれだけオシャレして朝帰りですもん」
―—この人たちは本当に
俺の両親と波長が合うのはこういうところなのかもしれない。
しれないが、
「二人とも! 何言ってんの!!! 後お父さんきもい!」
「な、んだと」
「えー。でも陽葵ちゃんが浮気してるかもって思って夜まで待ってたんでしょ?」
「違うから! てか付きあってないし! それになんで知ってんの」
「だって、陽葵ちゃんママから連絡来たし」
「んーーーー!!」
なんというかウチと同じようなくだりが目の前で繰り広げられているがなんとも同情を禁じ得ない。
俺の場合は、怜奈いなかったし。
「大丈夫! 陽葵ちゃんならママは歓迎だから」
「俺としては学生結婚はやっぱり厳しいと思うんだよ。 な、陽葵君」
「なんで俺に振るんすか」
「何! まさか学生結婚推進派か!」
「だから違いますって!」
怜奈に同情していればまさかの俺への飛び火。
結局この後は終始訳の分からない会話になり、最終的にはご飯の話になって試合終了。
「じゃあ、陽葵。 少し待っててね」
「はいよ。 じゃあ俺はこれで」
怜奈が、着替えのために席を外したのでうまい具合に外に逃げようとしたとき、
ガシッ!
そんな効果音がぴったりな感じで、肩を抑えられた。
「まぁ、陽葵君待ちなさい」
「そーそー、陽葵ちゃん。 待ってあげて」
「えっと、その」
テーブル越しに俺の肩を抑える怜奈のお父さんによって俺の離席は不可能となり、枯らしたはずのコップにお茶を注がれまさかの追加ターン。
ただ、すぐ何かを話されるわけでもなく、二人もゆっくりとお茶を飲みだす。
何度もお邪魔したときに、一対二は体験しているはずなのに初めての空気感に困惑していると、お母さんの方が先に口をきった。
「陽葵ちゃん。 怜奈と仲良くしてあげてね」
「もちろん」
「怜奈、陽葵ちゃんだけにはやんちゃなままだから、嫌なこともあるかもしれないけど仲良くしてあげて」
「いや、そんなことは」
「今回は堪えてたみたいだから。 悪いね」
「あの馬鹿のこと嫌いにならないでやってほしい」
二人に真剣に謝られてしまい流石に俺も居心地が悪い。
行ってしまえば今回は俺の暴走なのだから。
「えっと、実は.......」
だから俺は今回の事の中身をかみ砕いて話した。
********
「ちょっと怜奈! 映画行くなら化粧ぐらいしなさい!」
「ちょ、いきなりなに」
「怜奈。 今度ブランドものとか買ってやるからな」
「は? お父さんマジなに? だったらswettのソフト買ってよ」
「うーん......陽葵君とできるやつなら許す!」
「よっしゃ! 陽葵! 獰森できるよ!」
二回から降りてきた、黒地のでかいパーカーにデニムのハーパンコーデの怜奈を見るなり飛びついていく二人。
お母さんの方は、化粧ポーチを取り化粧を。お父さんは『こい!獰猛な森』のソフトを買う約束をしているがいいのだろうか。
―—てか怜奈も普通に女子なんだな。
昨日の服装もそうだっただが意外に女子物を持っていることに内心おどろいてしまう。
「怜奈頑張って来いよ!」
「映画で何頑張るの?」
「いいから頑張れ! お小遣い持っていきなさい」
「ちょ、こんないらないし」
「いいから」
張りきったお父さんが、諭吉を大量に渡すのを目の前で見てしまえば思い出すのは先ほどの事。
―—やっぱり言わなきゃよかった。
ただただ、そんな後悔が俺の頭の中を敷き詰めた。
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