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再びの顔合わせ

クリスタに連れられて、部屋の外に出る。思いの外寒くてぶるっと震えがくる。クリスタが気づいて、彼女の肩かけをそっとかけてくれる。


「この季節、廊下もやっぱり冷えるんです。外套だけじゃなくて、暖かいお部屋着やこうしてご移動するときのショールがあるとよろしいですわね。」とほほ笑んでくれた。


廊下で行きかった、こざっぱりした身なりの人をクリスタは呼び止めると、細々伝えていた。どうやら先に兄のところに知らせに行ってもらうらしい。


「今はご執務中でしょうから、急に行っては驚かせてしまうかもしれませんからね。」


不思議そうに見上げていた私にそう教えてくれる。そうか。例えば会議中だったりすると会えないよね。・・・てふと思い出す。


ていうか、あの人は何歳ぐらいなんだろうか。学生?執務ってことは・・・?そして・・・昨日からの切れ切れの会話を思い出す・・・


そうこうしているうちに、どうやら部屋の前に着いたらしい。クリスタは立ち止まると、そっと肩のショールを外した。「これは使用人のものですから、お嬢様に着けて入って頂くわけにいかないのです。でも大丈夫、お部屋はきっと暖かくしてございますよ。」


そう言って、部屋をノックし、来訪を告げる。

すぐに扉は開き、奥の大きなデスクの後ろで立ち上がっている男性の姿が見えた。腕組みをし、こちらをじっと睨んでいる。


昨日も思ったんだけど。

うーん、美丈夫!顔立ちが美しいだけじゃなくて、わずかに身体を傾けてるこの立ち姿がそもそも絵になるよね!なんだろう、筋骨隆々じゃないのだけど、しなやかで。贅肉も無駄なボコボコ筋肉もついてないって服のシルエットで判るって、すごくない?


 服も・・・儀礼用の軍服に近いのだろうか、そんな感じの上着を肩にかけ、中は白いシャツ1枚。細身の黒いズボンに黒い革靴。


全体として非常に見ごたえがあるわ、すごいわ~!・・・ただ、眉間の皺が深すぎて、美しいっていうより険しいって顔になってるのが残念だけど。


私がしげしげと相手の顔を見ていたのと同じく、向こうもじっくりと私の顔を見ていたようだ。


「ひどい顔だな」


誰に聞かせるでもない呟きがもれ、アリ―セがふるっと震える。

とりあえず、聞かなかったことにして、一歩進んだ。 


あっ、やばい! 


(ちょ、アリーセ、ご挨拶の作法を教えて・・・!)


大急ぎでアリ―セの記憶からカンニングすると、そっとスカートの裾をつまみ、お辞儀をする。


「おにいさま、きのうはきて下さって、ありがとうございました。きのうまではたいちょうがすぐれず、もうしわけございませんでした。・・・でももう大丈夫になりましたので、ごあいさつにまいりました。アリ―セでございます。あらためまして、どうぞよろしくおねがいいたしまちゅ」 


・・・ああっ、さっ、さいご噛んだ!ううっ、アリ―セに、完璧なご挨拶を見せてあげるつもりだったのに!


いやあああぁ、今シーンてなってる!この部屋、お兄様以外にもクリスタとドア開けてくれた人と、あとお兄様の右手側にも誰かいたのに!す、すべってる、寒い・・・!


内心汗まみれになりながら、そっと目を上げると、兄は手で口元を大きく隠し、目をそらしていた。うっ、骨ばった手もかっこいいけど・・・えっ、これって、笑いをこらえてる?それなら噛んだ甲斐あったんじゃない?


そう思ったのもつかの間、手を離したお兄様の顔は安定の無表情。なんだ・・・。あ、でもちょっと眉間の皺、取れてる?? そう思って姿勢を戻しながらじっと見つめると、ふいとあごをしゃくられた。へ?


「向こうへ。茶の用意がしてある」


そう言うと、執務机の前に回ってきた。私の目の前に立つ。また私をじっと見下ろすと、


「オスカーだ」


とだけ言うと、さっさと、さっきあごで示したソファーの方に向かって長い足を優雅に捌きながら歩いていった。私もその後にちょこまかと続く。うう、この人の一歩って私の何歩なのかしら・・・。


ソファーの近くまで来ると、仏頂面のままこちらに向き直る。えっ、いや、何・・・?


同じく歩みを止めてしまい、うっかり見つめあうことになってしまった私たちを見て、よこからぷっと噴き出す声が聞こえた。


「やれやれ、その顔。その顔が怖がらせてるんですよ。」


ぱっと横に振り向くと、静かな物腰の青年が立っていた。あら、こちらもハンサム・・・。でもお兄様とは対照的で、肩までかかるシルバーフロンドに柔和な面差し。アッシュグレーの瞳も、目尻がやさしく細められてる。こちらを見ると、私の目の高さまでかがんでくれて、首を少し傾けて顔を覗き込むようにして、


「初めまして。私は君のお兄さん、オスカーの友人で、コンスタンティン・ヴェルバルトといいます。今はここで彼の手伝いをしています。うちは商家でね、ここの城下のお店とも懇意にさせてもらっているので。」


にっこりと笑ってそっと私の手をとり、そのままソファーまでエスコートしてくれた。し、紳士・・・!


そっと座って、改めて向かいに腰をおろした兄を見る。ご挨拶はしたものの、ここからどうしよう?緊張してかしこまってしまう。でも、聞いておかなくてはいけないことがある。


クレスタが目の前のカップに紅茶を注いでくれる。優しい茶葉のにおい。手前にフルーツと、焼き菓子がおかれる。うっ、美味しそう・・・。食べたいけど、でもいきなり手を伸ばしたら、がっついてると思われそう。と思ってむむむ・・・となっていると、お菓子の載ったお皿がぐぐっとこちらに寄せられてきた。


うん?


「食え」


一言だけ言うと、兄は特段目をあわせようとせず、カップを手にとりがぶりと飲む。はあ・・・そっと手を伸ばして、少しだけ焼き菓子を口に含む。ほろっと崩れて、甘いバターの香りが口いっぱいに広がった。美味しい・・・!アリーセも少しだけ緊張を解いたのが判る。その様子を見てクレスタが少しほっとしたように言った。


「起きられるようになって、本当に良かったですわ。今日はこの後お疲れでなければ、少し屋敷内をご案内しようと思っておりますの。外にもお出になられたいご様子ですけれど・・・まずはお衣装のお仕度が先かと。

アリーセ様もご希望でございますし、お誂えするのは時間がかかってしまいますから、まずはいくつか既に仕立ててございますものを見繕って差し上げたいと思っております。どうぞお許し下さいませ。」


コンスタンティンがこちらを見ながら軽く頷く中で、兄は不愉快そうに一息吐き出すと


「フン、何よりまず強請るのが先か。」


と言い放った。


ピシッと場が凍る。えっ、何って?私が聞き返そうとするより先に 「オスカー!」というコンスタンティンからの鋭い声が飛んでくる。


「アリーセ嬢はこちらに急ぎ来られたと聞いている。それほど多くの衣装を運ぶことなどできなかっただろう。こちらの冬は彼女の故郷よりも随分深い。当地に合わせた衣装を誂えるのは当然のことだろう!」


兄の目が私の姿を捉える。長袖のものとはいえ、この季節には場違いな薄物のワンピース姿。はっとした表情になって、わずかに彼の目が泳いだのは気のせいだろうか。


「いや、俺は・・・」


兄がやや狼狽した態で、何かを言いかけた。でもそれさえぎって立ち上がったのは、私だった。


・・・え?ええー?


アリ―セは、真っ白なワンピースの裾を強く握りしめ目に涙をためていた。立ち上がった彼女は座っている兄とちょうど同じ目の高さだ。震える声で叫ぶ。


「あの、もうけっこうでございます、けっこうでございます、から・・・!」


そこまで言うと、目からほろほろっと涙がこぼれ出た。でも、視線は一度もそらすことなく兄、オスカーを見ていた。だから私も彼の呆然とした表情が良く見えていた。


「わ、わたくし、おれいを、おれいをもうしあげたかった、ですの。あ、ありがとう、ござい、ました。」


一度目を伏せて、スカートの裾を持って静かに膝を少し折ると、ぱっと身を翻してドアまで一目散に駆けていく。アリ―サの気持ちが強くて、私が入り込む隙がない!


「あっ、おい!」


後ろで何人かの声が聞こえるが、今彼女の頭を占めるのは、ここを出ることだけだ。


ドアマン係の男の人はぎょっとして逡巡していたが、アリ―セが


「お願い、あけてくださいませ・・・!」


といったら思わずという風にドアを開けていた。美少女ってすごいな。


そのまま走り去れれば良かった、のかもしれないが・・・いきなり走ったせいだろう、廊下に出て数歩のところで立ち眩み、まんま頭から突っ込む形で倒れた挙句、気を失ったのだった。・・・もちろん私も。いったーい!!!

やっと、兄に会えました。長くかかった・・・

とりあえず、ここまでプロローグ的に一挙作成、掲載です。

ここからはちょっと数日飛び飛びの連載になるかもしれません。

ここまでで面白そう、と思った方、ちょいちょい覗いていただけるとうれしいです。

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