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私は誰、ここはどこ


「どうした」


私が固まっている前で、ぶつっと彼が聞いてきた。腕組みをし、仁王立ちになっている。眉間の皺がさらに寄って、いよいよ本格的ににらまれている。


「何か言いたいことがあるなら言え」


はい、御礼をいいたいの!でも声が出ないんです!


 私は喉にそっと手をやって、ジェスチャーで相手に示そうそうとした。喉が痛いとかなんとか、とにかく話せないことが伝わらないかしらと。ところが振り仰ごうとした・・・のにもかかわらず、私はなぜかうつむいてしまい、喉を押さえていない方の手は毛布をしっかりと握りしめてしまった。


いや、ダメよ私、ジェスチャーにはアイコンタクトは重要なの!俯いたら喉に手やってることすら見えないのよ!おぉい!


私が脳内でひとりツッコミをしている間にも、わたしの身体は強情で、目線もピクとも上がらなくなってしまった。毛布と、自分のきつく握った手しか目に入らない。


「・・・まただんまりか」


苦々しい声が降ってくる。 いえ!いえ違います、聞きたいことは沢山あるの!ちょっと待って!


無情にも、声は続く。


「「まだ8歳」じゃない、「もう8歳」だ。自分がどういう立場なのか判っているべきだろう。何を拗ねてる。お前の母も、父ももういない。ここで暮らす他ないんだ。前にも言っただろう。ちゃんと意思表示をしろ。いいたいことがないなら「ない」と言え。黙っていても何もかわらん。」


「・・・」


えっ、あっ、なんか気になる単語が沢山でているけど!知りたいけど!まずこれだけは言わせて、返事はしたいの、したいんです!ほんとよ、ちゃんと返事するから、ほら、アンタ!


「・・・」


脳内ですでに自分をアンタ呼ばわりするまでにひとりツッコミを進めているというのに、自分の手足も何もかも、先ほどと全く違って思い通りにならない。かたくなに下を向いて、唇も引き結んでいる。ワタワタしている私の中にあるのは・・・悲しみ?怒り?凝った冷たい丸いものが、お腹の中に感じるのだ。これは・・・?


「・・・そうか、もういい。気が済むまで黙ってベッドで暮らしているといい」


そう言い捨てると、彼は身を翻して部屋を去っていった。振り返りもしなかった。部屋にいた何名かが慌てて後を追う様子が伝わってくる。


彼が去り、ドアが閉じられると私は、正確には私の身体は、ほっと力を抜いた。そばで控えていてくれた女性が、そっと「もうお休みになりますか?」と聞いてくる。私はおっくうそうにうなずくと、もう一度横たわって目を閉じた。毛布を掛けなおしてくれる感触がある。その後小さく「失礼いたします」という声とともに気配が遠ざかる。


人の気配が消えたあと、ベッドで毛布にくるまりながら、ほっと溜息をつく。


「あぁ・・・」


ぅえ?!声出てるよね、声でるよね、私!


「・・・おかあさま・・・どうして・・・?」


へっ? おかあさま? ・・・そういえばみんな、心配してるかな、もう夜だもんね・・・あ、そうか、私、夏から一人暮らし始めたんじゃない。もうじき・・・が近いから、・・・え、何が近い?


自分への問答と、あとどうやらもう一人への問答に忙しくなっている私をおいて、私の唇からは勝手に言葉があふれだす。


「はやく・・・はやくあいたいの・・・おかあさま、ばあや・・・はやくおむかえにきて・・・」


えっ、何、どういうこと??


・・・・・・ちょっと、ちょっと落ち着こう、私。そう、今まで見ないフリというか、気づかないフリをしてたけど、やっぱりすんごい色々おかしいよね?!


 こ、この私の意識、今のこの私の身体に合ってないよね?!あ、あ、あと、もう一人誰かいるよね、私の意識と一緒に。それでどっちかっていうと、そっちの方がホンモノだよね、口調と手の感じが合ってるもんね?!確かあの男の人も「8歳」って言ってたよね?!確かにぷくっとちまっとしてて可愛い手だもんね?! えっ、で、誰も私の本当の姿を見てなくって、そんで私自身でさえ見てなくって、それじゃそもそもどういうことなの?!


どんどん動悸が激しくなる。いや、待って、コレ全然落ち着けないやつ~~!!!

まだまだ、序盤です。

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