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無言の出会い

振り向くとまぶしくて目を閉じた。あけ放たれたドアの向こうには煌々と明かりがついていて、その明かりを背に一人の男性が立っていた。こちらからは眩しくてシルエットしか見えない。


だがその男性は大股にベッドに近づいてくると、不機嫌そうに私を見下ろした。私は驚いて、そしておびえて水差しから身を離し、うつむいた。


「具合は」


短く問う。 私は答えようとしてーそしてついでにここはどこか聞こうとして-声がでないことに気がついた。何か大きな塊がのどにつかえているような感じなのだ。あと、なんだかひどく怖い。顔が見たいと思うのに、私の身体はこわばって、顔を上げることも、視線を上げることすらできない。


うつむいたままの私の姿に焦れたのだろう、「チッ」という舌打ちと共に、あごをつかまれ、力任せに上に向かされた。


眉間に深く刻まれた皺と固く引き結ばれた唇。漆黒の髪と黒い瞳。一瞬目があったものの、急に顔を仰向けにしたためかズキリと頭に痛みが走り、思わず顔を背けながら両手で頭を抱えてまた横倒しになってしまった。


頭の上で再び舌打ちの音が聞こえ、外に向かって何かを告げる声と幾名かの人の動き回る気配がした。しすすすと人の手がはいり、乱れた衣服が直され、体勢を整えられ、毛布を直される。でも誰も私に話しかけてくることもなく、全て無言で行われる。


(こわい・・・)


自分の胸のうちでこぼれる気持ち。なんだか自分のもののようでなくて違和感を覚えながらも、でも喉が渇いたことを伝えたくて、唯一動かせる手を伸ばし、指先に触れた洋服の裾を必死に引っ張ってみる。


「なんだ」


ようやっと仰ぎ見ると、先ほどの男性だ。整った顔立ちを歪めてこちらを見ている。


(ああ・・・やはり)


それだけで、悲しく全てを諦めたような気持ちになるのは何なのか。そう思いつつも、なんとか力を込めて彼の目を見つめ、反対側の手を水差しに差し伸べてみる。


「・・・水か?」


ぽつりと、彼がつぶやいた。私は必死に目でうなずく。頭をうかつに振って、またあの激痛になったらたまらない。


フン、と鼻息をひとつ吐くと、ベッドの向こう側-水差しのある側でベッドを整えていた女性に水を渡すように告げる。ゆっくりと上半身を起こし、グラスを手渡されて・・・一気に飲む。乾ききった喉に・・・美味しい~!!甘露、という言葉があるがまさにそれ。一息に飲み干し、グラスを両手に持ったまま肩で大きく息をついた。まだ頭には鈍い痛みが残っているが、さきほどよりよほどましで、周囲を見渡す余裕も出てきた。


「まだいるのか」


短い声が降ってきた。コクリとうなずくと、グラスが取り上げられ、再度水を満たして返ってくる。それも飲み干して、大きく深呼吸すると、もう一度改めて声の主を見た。


・・・一言でいうと、美形。驚くような整った顔をしている。黒く艶のある前髪は斜めに流され、同じく黒く光る瞳の中に影を落としている。筋のとおった鼻梁と引き結ばれた唇が意思の強さを感じさせる・・・でも何より今印象的なのは、その眉間の皺だ。ほとんどにらみつけるように私を見ていて、私の中で気持ちが小さく丸まる気配がする。 何だろう、さっきから・・・感じているのは私なのに私の気持ちじゃないみたいな。


でも!今はそんなことを考えている場合じゃない。なんせ人の家でお世話になったようなのだ。まず御礼を言って、それからここがどこか聞かないと。なんで私がここにいるのかも。 


「・・・」


え。 ・・・さあもう一度! 喉が貼りついた?咳払いして!


「・・・っ」


声が・・・でない!?

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