SNS政府
政治の主導権を握る人間が政治における実力よりも年数の方が優先される現状を打破すべく新しい政治の方法が生まれた。
それがSNS政府である。現在使っていない人がいないと言われるほどに普及しているSNS。これを使って政治を行おうというのだ。
匿名でコメントが出来るという利点が重要視されて導入された。国会議員が顔を隠し声を変えて配信やコメントなどで方針を発表していくというものだ。
徹底的に正体を隠すことにより、その人の経歴に一切左右されない実力だけで選ばれる仕組みを作っていこうと考えたのだ。
人々は匿名で国会議員が発した意見に対して評価をする。ダメだと感じた人間に関してはブロックをして今後の選挙において自分の投票対象から排除することが出来る。
この手法、導入当初は多大な批判が国会議員の中からあった。時間をかけて信頼や実績を積み重ねて議員になった人達だ。
しかしこの法案は強行された。
この法案が導入されてからというものの、国会は大きく変わった。
政党における連携が一部弱くなった。派閥がある政党は味方をしなくてもバレないのをいいことに派閥ごとに意見が発せられるようになった。
これだけ見ると悪いとも取れるが、良いと思った意見に関しては政党関係なく賛成意見が取れるようになったこと、そして新人議員が先輩議員に対して忖度しなくてもよくなったことが良い兆候であった。
匿名性の影響により、全員が言いたいことを好きなように発せる国家となった。
ただ敵対勢力を潰して権力を勝ち取ろうとする政党が居なくなり、自分の意思と世間の需要を考えられる人間が権力を勝ち取れる世になった日本はこれまで以上に急成長を果たした。
少し落ち目であった日本が過去の栄光を取り戻すことに成功したのだ。
それに対して大喜びしてSNS政府を称えた世間であったが、少しずつ陰りが見え始めた。
少しずつ国会が荒れ始めてきたのである。
匿名性を理解しだした高齢の議員が今まで以上に好き勝手に動くようになった。
そして誰が発言したか分からないことを利用して自分の意見を通す為に自作自演をしだす人間まで現れた。
SNSに慣れ、匿名性を悪用しだす人間が出てきたのだ。
とは言っても自分の意見を持った人が集まった国会なだけあり、大した問題は起こらなかった。
少し議論が進みにくくなったがそこまで問題視するレベルでもなかった。
しかしこの法案における最大の欠点が露呈してしまった。
乗っ取りである。
SNSで議論を交わしていることを利用してハッカー達が議員のアカウントを乗っ取ることで思い通りに国を動かそうとしたのだ。
すぐに違和感に気づいた議員がいたからこの時はギリギリなんとかなった。
しかし、操られる危険性さえある手法を取るのはダメだということで全会一致でSNS政府は幕を閉じた。
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