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第七話 武芸トーナメントの出会い

 転生歴6年目。

 今日は1ヶ月に一度の武芸試合当日! 前回の大会で優勝した私はウキウキした足取りで闘技場に向かう。前の少年大会で優勝した者は、一度限りで青年大会への参加が認められる。つまり今回の私は青年大会への参加資格を持っている。


「お嬢様! いくら前大会で優勝したからといって、青年大会への挑戦はお控えになられた方がよろしいのでは!?」

「あら。他の子たちは挑戦しているのに、私だけ止めろと言うの?」

「いいえ、滅相もございません!!」


 使用人たちは止めようとしたけど、私が言うと最後は引き下がった。

 トーナメントは剣技、格闘技、槍術などがローテーションを組んで行われる。少年大会では前回が馬上槍試合だったけど、青年大会では今回が馬上槍試合だ。私は武装して馬に乗り、颯爽と闘技場に入る。


「うおおお! ロザリンド様! なんと愛らしい!」

「バカ、見た目に惑わされるなよ! お嬢様はああ見えても少年大会の優勝者だぞ!」


 闘技場にいるのは参加者だけではなく、観戦にやって来る使用人たちもいる。女の子の参加者は私だけだからめちゃくちゃ目立つ。まあ別に嫌ってわけじゃないけど。


「さて、私の対戦相手は誰かしら?」


 対戦表を確認する。第1試合の対戦相手は――アーロン・カーライル。乙女ゲーでは攻略キャラの1人だった人だ。


(思い出すなあ。最初に攻略したキャラがアーロンだったっけ)


 だいぶ前の記憶だからあんまり覚えていないけど。ヒロインの幼馴染で、とにかく好感度が上がりやすかった覚えがある。

 この段階でのアーロンはどんな感じなんだろう。たまたま近くにいた騎士団員見習いの青年に声をかけて聞いてみる。


「アーロンですか? あいつは元からの貴族ではなく、父親が武功を立てて騎士(ナイト)爵になった成り上がり者ですよ」

騎士(ナイト)爵っていうと、一代限りの称号で子孫に継がせられる爵位じゃなかったわよね」

「そうです。普通は平民出身だと騎士にはなれませんが、アーロンは父親のおかげで騎士団員見習いとして入団が認められました」

「なるほどね。ええと、年齢は確か私より4つ上だったかしら」

「そうですよ。今年から青年大会への参加が許される年齢になりました」

「でも私、彼との対戦経験はないわ。去年まで少年大会に参加していたのではなくて?」

「去年まではホーンズ要塞近くの町に家族で住んでいたんです。しかし例のヴァルハラ王国との戦闘で父親が亡くなってしまい、母親の実家があるこっちに戻ってきたんですよ。今では母親が働いて生活費を稼いでいるみたいですね」

「そう……大変な環境なのね」


 だんだん思い出してきた。そういえばアーロンは少年期の終わりに父親を亡くし、周りからの対応が冷たくなったんだっけ。


「なかなか腕の良い騎士見習いだと聞いているわ」

「そうですね。平民ですが腕っぷしだけは強いんですよ」


 騎士見習いの青年が嫌味な言い方をしたので私は眉を顰める。


「ああ、そう。一代限りの騎士(ナイト)爵だったお父様が亡くなられた以上、今のアーロンは平民というわけね」

「そうなんですよ。代々続く騎士や貴族の家系とは格が違います。だというのにあいつは――」

「でもそれが何だと言うの? 大事なのは家柄ではなく実力があるということではなくて? 特にこれからの時代、ヴァルハラ王国との関係がどうなるか分かったものではないわ。家柄よりも実力のある騎士が求められるようになるでしょう」

「し、失礼しました!」


 私が気分を害したのを察して、青年は慌てて立ち去っていった。


「はあ……身分って厄介なものね」


 一代限りの騎士爵の息子だったアーロンは、先祖代々続く家柄の人間と比べると軽視されやすい。何かと損な役回りになることが多いみたいだ。騎士とはいえ閉鎖的な環境に同じ年代の人間が集まると、何かと序列がつけられて陰湿になりやすい。


「はじめまして。あなたがアーロン・カーライルね」

「はい、お嬢様。本日はよろしくお願い致します」


 アーロンは青みがかった髪に青い瞳を持ち、精悍な顔立ちをしている。ゲームでは厳しい訓練を経て騎士に叙勲され、物語開始時点では騎士団長の副官にまで昇り詰めていた。周囲からのやっかみを実力でねじ伏せたというわけだ。すごい根性だと思う。正直見習いたい。


「あの……何か?」

「い、いいえ、何でもないわ。おほほほほ!」


 じーっと見つめていたせいで怪訝な顔をされてしまう。私は笑って誤魔化した。危ない危ない。


(初攻略キャラだったから思い入れは強い方なのよね)


 ゲームでは父親を亡くして以来、ずっと軽視され続けた経験のせいで簡単に他人に心を開かないようになっていた。でも再会した幼馴染のユージェニーにだけは心を開き、騎士らしく一途で献身的な愛情を彼女に捧げる――というのがアーロンルートの筋書きだった。

 アーロンルートのエンディングでは戦功が認められて、世襲制の爵位と領地が与えられていたっけ。すごい出世だ。その根性とバイタリティはやっぱり見習いたい。


(でも今はそんなこと関係ない! 私は1人の戦士として戦うんだから!)


 私はアーロンと向き合うと武器を構える。


「始め!!」

「てやあッ!」


 アーロンは私の攻撃を回避する。攻撃を躱された私には隙が生じるけど、アーロンは踏み込んでこなかった。


「――はッ!」

「どうということはないわ!」


 アーロンから繰り出される攻撃は軌道が読めるものばかりだ。腕のいい騎士見習いだと聞いていたのに、これじゃ肩透かしだ。


「これではまるでお遊戯だわ! 私はダンスを踊りに来たのではなくってよ!」


 ついに私は馬上で苛立ちを爆発させる。


「アーロン、どうして本気で打ってこないの! あなたの力はこの程度ではないでしょう!」

「……お戯れを、お嬢様。あなたのような少女を相手に、本気で打ち込める筈がありません」

「なんですって!? いいこと、アーロン! 私は1人の戦士として覚悟を決めてこの試合に臨んでいるのよ! それを少女だからと言って手加減するなんて、私に対する最大の侮辱だわ!」

「侮辱……?」

「あなたも騎士見習いなら侮辱がどれほど腹立たしいものかはご存知でしょう! 本気で来なさい! 下手な手加減は一切無用よ!」

「……!」


 啖呵を切るとアーロンの顔付きが変わり、一撃一撃が重くなっていく。


「ふふ、やるわね!」

「お嬢様こそ……笑っている余裕はありませんよ!」

「くっ! これがあなたの本気なのね……すごい、すごいわ! でも今度はこちらの番よ! ――あっ!?」


 私の攻撃をギリギリで回避したアーロンは、今度こそ隙を見逃さなかった。


「はッ!」


 私は馬から叩き落される。咄嗟に受け身を取ったから大怪我はしなかったけど、周囲は水を打ったかのように静まり返る。そして少しの間を置いて騒然となった。


「そ……それまで! 勝者、アーロン・カーライル!」

「お嬢様!」

「ロザリンド様!!」

「大丈夫よ!」


 人が駆け付ける前に自力で起き上がると、アーロンに向けて笑ってみせる。


「思った通り、強いわね。あなたはきっといい騎士になるわ。その力を磨いて未来の為に役立ててちょうだい。――静まりなさい! この通り、私は大丈夫よ! この者は私に対して最大限の敬意を払い、全力で戦ってくれたわ! 勝負の結果はこの通り私の負けだけど、それは私の力が及ばなかったから! この者のせいではないわ。全力で戦って負けたんだもの。今はとってもいい気分よ!」


 再び周囲が静まり返る中で、誰よりも驚いた顔をしているのはアーロンだった。私はもう一度彼に笑いかけると召使いたちのところへ歩いて行った。



「お嬢様、本日のお茶でございます」

「ありがとう! うん、いい香りね」


 応接室で人を待っていた私は、メイドが用意したティーカップを手に取る。この世界は大体15世紀~16世紀ぐらいの文化水準にあるみたいだけど、少なくとも食文化は元の世界の中世ヨーロッパより進んでいる。


「今日の紅茶もおいしいわね。付け合わせのスコーンも悪くないわ」

「恐縮でございます」


 元の世界のイギリスで紅茶文化が花開いたのは17世紀頃だと言われているけど、この世界ではもう紅茶が存在していた。もちろん茶葉の名前は違うけど。ダージリンとかキーマンっていうのは地名に由来した銘柄だから、同じような味でもこの世界での名前は違う。

 でもお茶の作法はたぶん大して変わらないみたい。右手でティーカップをつまみ、左手をティーソーサーに添えて音を立てないよう紅茶を口に含む。


「ロザリンドお嬢様。アーロンが参りました」

「通してちょうだい」


 私が青年大会で敗北したトーナメントから1ヶ月が経過していた。再び少年大会に戻った私は二度目の優勝を果たし、その翌日にアーロンをスタンリー家の応接室に招いた。

 応接室に通されたアーロンは居心地が悪そうに突っ立っている。メイドがお茶を出すけど、どうして自分が呼ばれたのか意図を図りかねているようで手をつけない。


「久しぶりね、アーロン」

「はい、お嬢様」

「そんなところに立っていないで座ってちょうだい」

「かしこまりました。失礼します」

「いい香りのお茶でしょう。茶葉にベルガモットで柑橘の香りをつけたものよ。マーキス・スタンリーという名前をつけたの。今のところアーチー地方でだけ飲めるお茶よ」

「……落ち着く香りですね」


 元の世界ではアール・グレイと呼ばれていた紅茶だ。フレーバーティーの一種で、イギリス貴族であるグレイ伯爵(アール)にちなんで名づけられたと聞いている。たしか19世紀頃の話だ。

 この世界では存在しないお茶だったけど、紅茶文化自体は存在していたので記憶に基づいて再現してみせた。するとあっという間に評判になってアーチー地方で出回り始めた。この世界ではスタンリー侯爵(マーキス)の銘柄で親しまれている。


「今日あなたを呼んだのは他でもないわ。一つあなたに提案があるの」

「提案?」

「あなた、王都へ行って王立騎士団で修行を積むつもりはないかしら?」

「それは――どういう意味でしょうか? 俺をこの土地から追い出そうと、そういうことですか」

「違うわ」

「では責任を感じていらっしゃるのでしょうか。あの試合以来、仲間たちから俺への風当たりが強くなったことへの……」

「それも違うわ」


 あの日の試合、アーロンは私に敗北するという筋書きを仲間たちは用意していたみたい。でも土壇場で熱くなったアーロンは本気を出して、私は負けた。

 もちろん私が望んだことだし、両親や部下たちにもアーロンを叱責しないようにと伝えておいた。だからそっち方面では何もないけど、仲間の指示を無視したアーロンはますます辛く当たられるようになったという。そういった細かい部分まではスタンリー家といえども介入が難しい。


「前にも言ったでしょう。あなたはいい騎士になるだろうから、その力を未来の為に役立ててほしいと。その為にも見識を広め、さまざまな経験を積んでほしいの。あなたは今までずっとアーチー地方にいたのでしょう? 王立騎士団は国内のあらゆる土地から腕利きの騎士見習いたちが集まるわ。あなたにはそこで腕を磨いてもらいたいのよ」

「しかし……」

「アーチー騎士団は強いわ。それは私も信じている。けれどこれからの時代を乗り越えていく為には新しい風を入れる必要もあるのではないかしら。私はそう考えているの」

「……」

「アーロン、あなたにはぜひその役割を担ってほしいわ。現在王都には私の兄ランドルフもいます。今のうちから修行を積んで兄を支え、ゆくゆくはアーチー騎士団の柱になってちょうだい。この話は私の父にも通してあるから、ただの小娘の戯言と思わないでね」

「お嬢様……そこまでこの俺を買ってくださるとは光栄の極みです。しかし俺は……」

「お母様のことね?」

「……はい」

「心配しないで。スタンリー家の娘として王都行きを提案する以上、お母様のことはスタンリー家が責任を持って面倒を見ます」

「お嬢様……」

「返事は今すぐにとは言わないわ。今夜は家に帰ってお母様とよく相談してみてちょうだい。今後の人生に関わることだものね。それからスタンリー家の世話になるのが申し訳ないと思って断るのなら、お門違いだと今のうちに言っておくわ。私はね、アーロン。目先のことだけではない、未来を考えて言っているのだから」

「……ありがとうございます、お嬢様。前向きに母と相談してみたいと思います」


 その夜実家に帰ったアーロンは母親と相談して、私からの提案を受けると決めた。さっそく旅立ちの準備が進められる。

 アーロンの母にはスタンリー家で住み込みで働いてもらうことにする。お給料は今までの何倍にも跳ね上がり、衣食住は無料で提供されるので生活水準はぐんと向上した。


「なんとお礼を申し上げればよろしいのか……愚息のことも評価して頂き、恐悦至極に存じます」

「気にすることはないわ。私の方こそ無茶なお願いだったんだもの」


 アーロンの母は人の良さそうな中年の女性で、私はすぐに気に入った。他の使用人とも仲良くなれたみたいで、私はほっと胸を撫で下ろす。


(これでアーロンのお母様が不幸になったら私のせいだものね)


 そんな事態にならなくて良かった。母親が落ち着くのを見届けてアーロンも王都に旅立っていく。旅立ちの当日には私も見送りに出向いた。


「それではお嬢様、行って参ります」

「ええ。私の分まで励んできてちょうだい」

「お嬢様……お嬢様もランドルフ様とご一緒に王都で勉強なさりたかったのですよね」

「私は女の子だから許可されなかったけどね」

「あれから俺なりに改めて考えてみました。王立騎士団で学べる機会は誰にでもあるものではありません。……この俺を推薦してくださったお嬢様のお心を無駄にしないよう、しっかり励んで参ります」


 やがてアーロンの姿が見えなくなると、私たちは城に戻る。


「あっちでは故郷を離れて修行に来る少年も少なくないわ。同郷の親近感は身分の差を超えるものよ。出自など関係なく、お兄様は同郷のあなたを歓迎するでしょうね。お兄様の側にいればきっと変なイジメが発生することもないわ」


 部屋に戻った私は窓の外を眺め、誰に聞かせるでもなくそっと呟いた。

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