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第一話 目覚めるとそこは異世界だった

「う~ん……」


 身体が重くてだるい。昨夜遅くまでゲームしていたせいかもしれない。瞼を開けるのすら億劫だ。もっと寝ていたいけど窓から差し込む光が眩しくて、観念して目を開けた。


「あれ?」


 そこはいつも見慣れた私の部屋じゃなかった。

 天井からはシャンデリアが吊るされ、南側の壁には吹き抜けの窓がある。私が寝ていたベッドもシングルサイズじゃなくて2~3人は寝られそうな大きさだ。しかもフカフカで身体が沈みそう。何これ、すんごい。ふかふか~。こんなベッド初めて!


「え? なに、この手は……」


 ベッドを撫でる自分の手に違和感があった。その手はどう見ても私の――17歳の女子高生の手じゃない。せいぜい5、6歳ぐらいの子供の手だ。嫌な予感を覚えたので自分の顔をぺたぺた触ってみる。小さい。全体的に小さい。白いネグリジェの裾から突き出た足も子供のものだ。ていうかネグリジェ? パジャマじゃなくて?

 私は身体を起こして窓に映った顔を覗き込んだ。そこには5歳か6歳ぐらいの見知らぬ子供が映っていた。


「なっ、なんなのこれは~~~!?」


 絶叫すると部屋の外が騒がしくなり、メイド服を来た女の人たちが駆け付けてくる。


「まあ、ロザリンド様!」

「お目覚めになられたのですか!?」

「え? は? ロザリンド?」


 ロザリンドって誰!?

 なんか私を見て、みんなが『ロザリンド様』って呼んでいるんですけど!?

 いや、私はそんな横文字の名前じゃなかったから! 超平凡な日本人のお名前だったから!


「すぐ奥様にお伝えいたしませんと!」


 それからは目まぐるしく事が運んだ。

 何がどうしてこうなったのかはサッパリ分からないけど、今の私は日本の超平凡な女子高生ではないみたいだった。

 アメリア王国という国の侯爵令嬢で、名前はロザリンド・スタンリー。スタンリー家はアメリア王国の辺境にある、アーチー地方の領主だという。


(なんで……? 私は割とどこにでもいるような普通の女子高生だったのに! それにしてもアメリア王国にロザリンド・スタンリーか……どこかで聞いた覚えがあるような? どこで聞いたんだっけ)


 まあいいや。思い出すよりも先に、私は目の前の現実に対応しなきゃ。


「ああ、ロザリンド! 良かったわ! 覚えているかしら?」

「え、ええっと、どちら様でしょうか?」

「まあ! お母様のことを覚えていないの!?」

「お母さん!?」


 私の実母とは似ても似つかないヨーロッパ風の美女なんですけど!?

 ウェーブがかった灰色の髪をアップに纏め、ゴージャスなドレスに身を包んでいる。ちょっとキツい印象も受けるけどかなりの美人だ。彼女はハンカチを目に押し当てる。


「3ヶ月前、あなたは雷が落ちた木の側で気を失っていたの。直接雷には打たれていなかったようで、幸い大きな外傷はなかったけど。それ以来ずっと意識が戻らなかったのよ! もう一生このままかと思っていたわ!」

「へえ~、そうだったんですかあ」


 娘の目覚めに感動する母とは裏腹に、私は完全に他人事だった。


「やっと意識が戻ったと思えば、今度は記憶喪失……ううっ、こんなことって……!」

「奥様!」


 いよいよ号泣モードに入りそうだ。あまりの嘆きようが見ていられない。当事者としての意識はまったく湧いてこないけど、自分のことで泣かれている以上は元気づけてあげなくちゃ!


「ほ、ほら、私はこうして元気になったんだから! まだ子供みたいだし、記憶がなくても何とかなるよ!」

「そう……そうね。せっかくロザリンドが目を覚ましたんだもの。泣いてばかりいてはいけないわね!」

「そうですよ!」

「お父様とランディにもあなたが目を覚ましたことは伝えたわ。今日はお父様も屋敷にいらっしゃるから、すぐお出でになりますわよ」


 母が言った直後、まるで見計らったかのようなタイミングで寝室に2人が入ってきた。40代ぐらいの男の人と10歳ぐらいの少年だ。


「ロザリンドが意識を取り戻したというのは本当か!?」

「ロザリン! 俺のことを覚えているか? 兄のランドルフだ!」

「あ、あはははは……ごめんなさい、覚えてないです」


 面食らう父と兄に、メイドさんたちが改めて事情を説明してくれた。

 それからの会話内容から家族構成を把握する。ロザリンドは現在5歳で、両親と兄の4人家族。兄のランドルフは5つ年上の10歳とのこと。一通りの会話が終わると、どっと疲れた私は全員に引き取ってもらってベッドで横になる。


「あ~あ。わけの分からないことになっちゃったなあ」


 部屋の壁には鏡が埋め込まれている。のろのろと身体を起こし、鏡に映る顔を改めて確認した。アッシュグレーの髪にグリーンゴールドの瞳。目の色は父親譲りだけど、全体的な顔立ちはさっき会った母親とよく似ている。


「親子なんだから当たり前か」


 そういえば兄のランドルフは、髪と目の色が私と同じだった。


「お兄ちゃんか……いや、この家の豪華さから考えると、お兄様って言った方が相応しいかな?」


 領主の娘だもんね。時代錯誤な感じはするけど。大体アメリア王国ってどこの国? そんな国は聞いたことない。

 ……いや。ついさっき、どこかで聞き覚えがあるような感じがした。家族への対応があったから後回しにしたけど、改めて記憶を追ってみよう。


「ロザリンド、ロザリンド……はっ! まさか!?」


 思い出した! ロザリンド・スタンリーは乙女ゲーム『戦場の薔薇』に登場するキャラクターだ!

 しかもヒロインじゃなくてライバルキャラ! いわゆる悪役令嬢ってやつ! 攻略キャラのランドルフ・スタンリーの妹で、ヒロインのユージェニーに何かと嫌がらせをしてきた陰湿なお嬢様! 確かアメリア王国第二王子のグレンって人と婚約しているという設定だった!


 転生歴1日目。私は自分の置かれた状況を理解した。

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