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虚無の矢

「ちょっと、どういうことなのよ!?」


 なぜラインたちがこんな目にあったのかわからないパステルは魔物に向かってずかずかと歩み寄り怒りと悲しみに震えた声をぶつける。


「どういうことか聞いてくるってことは、この魔導書の持ち主はお前ではなさそうだな」


 アングルが持っていた古ぼけた本を魔物は取り上げるとパステルに見せる。当然、パステルは何のことかわからず首を横に振る。


「ということは、だまってるそっちの2人のうちどちらかということだな」


 パステルがナスタとノンの顔をみると、ナスタは目線を外し、顔をあわせにくそうにしている。


「ナスタ、何か知ってるの!?」


 少しの沈黙の後、ナスタは静かにその口を開く。


「それは僕のだ。あなた達魔物のものではない」


 ナスタの発言にパステルはナスタと魔物の両者を交互に見つめる。


「ちょっと、どういうこと?」


 その様子を見た魔物はパステルを手で制す。


「おまえも被害者か。いいだろう、説明しよう。おまえは魔導書という言葉を聞いたことがあるか?」


 魔物の質問にパステルはコクコクと首を縦に振る。


「これが正にその魔導書だ。あいつらはな、おれたち魔物が大切に管理してた魔導書を奪って自分の物だといっているんだ。おかしいと思わないか?」


 魔物から伝えられた事実にパステルは驚くが、そこに口を挟んだのはノンだった。


「あんなところに放置しておいて大切に管理をしていたなんてよく言いますね。それに、魔導書は自らの意志で誰かに付き添うことはあっても、誰かに管理されるものでもありません!」


 魔物はノンの方を向くと、何やら合点がいったようだ。


「そう言うことか、おまえが破滅の魔導書の精霊か。それはそうと……」


 魔物はパステルの方を改めてみるとパステルの瞳を覗き込む。


「な、何でしょうか?」


「うん、やっぱりそうだ。おまえ、運がいいな。ゾルグ様の元で養ってもらえるぞ」


 そう言うと魔物はパステルの肩を掴み、何やら口走る。


「ゾルグ様、双輪眼の人間の女を見つけました。そちらに引き取ってください」


 すると魔物はどこからか大きな袋を取り出し、その袋をパステルの頭から被せる。


「ちょっと、何してるんですか! やめなさい!」


 慌ててノンは声を荒げ、その声の調子からただ事ではないとパステルは魔物の手を振りほどきその場から逃げようと声をあげる。


「ちょ、ちょっと、何!? やめ……」


 しかしパステルの抵抗も虚しく、袋の中にその頭が包まれると、声はナスタたちのいる場所には全く聞こえなくなり、そのまま足まですっぽりと覆われると、魔物は取り出した袋を再びしまう。


 あまりの突然の出来事にナスタは為す術もなく立ち尽くす。


「え? 何が起きたの……?」


 目の前からパステルがいなくなるのを目のあたりにし、ナスタは動揺する。


「さぁ、他に誰もいなくなったけど、お前はどうするんだ? そいつとの契約を解除して魔導書を返すか?」


 しかし、魔物の声はナスタの耳には全く入っておらず、ただ目の前で起きた数々の惨事がナスタの頭を埋め尽くす。


「アングルとラインは殺され、パステルは行方不明になる? これ、全部僕のせい?」


 ナスタは頭を抱えてその場でしゃがみこむ。


「僕が魔導書さえ持ち去らなければ。魔導書さえ持ち去らなければ……」


 しかし、その様子を見たノンがナスタの頬を平手打ちする。


「ナスタさん! 今は過ぎたことよりこれからのことを考えましょう! 私はまだナスタさんとお別れしたくありません!」


 突然の頬を打つ痛みにナスタはハッとしてノンへ振り向く。


「ごめん、そうだね…… まずは、生きよう」


 力無く立ち上がるナスタに魔物は言い放つ。


「その状態でよくもまぁ生き延びたいと思ったな。まぁどう転んでもお前がこの場から生き延びることは不可能だがな!」


 ナスタは気がおかしくなったのか、殺される気が全くしなかったため素直に魔物に言葉を返す。


「何でこの場から生き延びることができないの?」


 その言葉に逆上した魔物はナスタに向かって怒りを露わにし、ナスタに襲いかかる。


「破滅の魔導書と契約したからって、調子に乗るのも大概にしやがれ!」


 しかし、襲い来る魔物にむかってナスタは言い放つ。


「そんなに破滅を味わいたいなら、好きにしたらいい」


 そしてナスタは静かに詠唱する。


 総てに破滅せしめる虚無の剣、我に力を与えよ


「アッシュブレード!」


 ナスタの詠唱と同時に真っ白な剣がナスタの手元に現れる。


「たがだか人間風情が破滅の魔導書の魔法を使いきれるわけないだろうよ!」


 しかし、魔物の予想を余所にノンはかなり余裕そうな顔をしている。


(やっぱりナスタさん、この程度の魔法であれば全然余裕そうですね!)


 ナスタはノンから届いた念話に、確かに前回と比べて随分魔力に余裕があるのを感じていた。しかしながら、相手の魔物もナスタの魔法に対抗して魔法を唱える。


「アクアファング!」


 すると、相手の魔物の拳に水流でできた爪が現れ、魔物はナスタにむかってその爪を振るう。


「うわ!」


 ナスタは前回同様に、構えた剣に体を操られる形でなんとか魔物の爪をかわすが、その攻撃のスピードにかわすのがやっとでなかなか攻撃をすることができない。


「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした!?」


 そのうち、魔物の攻撃で少しずつ後ろに後退させられていたナスタの背中が壁にぶち当たる。


「もう逃げ場はないぞ? さぁどうするんだ?」


 ナスタを追い詰め、嬉々としている魔物はナスタに向かってトドメと言わんばかりに爪を振り下ろす。しかし、この攻撃をギリギリでかわすとその爪は壁に突き刺さる。そして、ナスタはこの時を待っていた。


「これでどうだ!?」


 ナスタは構えた剣を魔物の胴を目掛けてすれ違いざまに横に斬り抜く。すると、身を捻り、なんとか魔物はナスタの剣をかわす。


「小癪な!」


 魔物は水流の爪を引っ込め、ナスタの方へ振り返ると新たな魔法を詠唱する。


「碧き源よ、その流れを示せ!ハイドロレイン!」


 詠唱の終了間際にノンがナスタに叫ぶ。


「横に逃げてください!」


 間一髪、ナスタは魔物から降り注ぐ超高速の無数の水流の直撃を避けるが、そのうちの一部がナスタの脚をかすめる。


「っつ!?」


思わずナスタは痛みでその場にへたり込んでしまうが、続けざまに放たれる激流を何とか部屋中を転がりながら回避し続ける。


(ナスタさん、その足では相手の攻撃から逃げ切れません!当てるのが少し難しいかもしれませんが、この魔法を使ってください!)


 ナスタは当てられるか心配だったが、たしかに近接戦はこの足では絶望的と判断し、念話で聞こえるノンの詠唱を自らの口で紡ぐ。


 総てを破滅せしめる虚無の矢よ射抜け


「バニシュレイ!」


 ナスタは詠唱とともに魔力が持っていかれるのを感じながら、自分の両手を白い光が結ぶ。ナスタは初めて使う魔法だったが、何となく使い方のイメージが流れ込んでくるので、魔物の攻撃をコロコロと転がり避けながら、そのイメージ通りに両手を握りしめたまま、弓を引くように右手を胸元に、左手を魔物に向けることができるタイミングを計る。


「ちょこまかちょこまかと逃げやがって! さっさとやられろ!」


 なんとかかわし続けるナスタに苛つく魔物はナスタが怪我をしているのを好機と見て、再び接近戦を選択する。


「アクアファング!」


 しかし、魔物のその選択は間違っていた。ナスタの元に走り込んでくる魔物に向かってナスタは左手を伸ばし、胸元に引いた右手を開くと両手に纏った白い光は一筋の矢となり真っ直ぐに飛んでいく。


「こんなもの!」


 魔物はその矢の速さと太さに避けることは難しいと判断し、自分に向かって飛んでくる光の矢を手から伸びる水流の爪で叩き落とそうとする。


「たかだかその程度の魔法で撃ち落とせると思われるなんて、破滅の魔法も侮られたものですね」


 魔物が光の矢を打ち払うタイミングだけは完璧だった。しかし、その爪が光の矢を捉えるものの、その矢に当たって消滅したのは魔物の水流の爪で、その勢いは止まることなく魔物の体を突き抜ける。


「グォォォォォ!」


 魔物が最期の悲鳴をあげたかと思うと、魔物は青白い光の粒となって跡形もなく消滅した。

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新作、始めました!

人として大切なことは全て異世界で学んだ!-大切なのはスキルでも境遇でもない、心だ!-

社畜サラリーマンが転成先で超絶魔力量を手に入れたものの、悩み、そして人として成長するお話です。是非お読みいただけると嬉しいです。
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