エピローグ
ナスタがミチを切り開き、グランドに出てから既に数年が経っていた。
ナスタたちが最初に知り合ったのはアンデッド族だった。彼らは見た目こそおっかないものの、魔物から彼らの仲間を救ったことで信頼され、ナスタが村の護衛にあたるかわりに、様々な物資の支給をしてもらうようになった。更に、アンデッド族の長から人間の村を近くに作ることを提案され、トリントンとの相談の結果、そこを人間のグランドの拠点とすることにした。
しかし、手を取りあってお互いが力をつけていった結果、中央を統制している竜族から目を付けられてしまう。最初は、無理な税金の徴収だったが、いつしか武力行使が行われ、そしてスライム族、竜族とアンデッド族、人間の両連盟が全面戦争に陥った。
圧倒的な魔法障壁を有する竜族に通用するのは、人間陣営のなかではナスタの無の魔法だけで、戦局は圧倒的に人間たちが不利だった。いつしか戦線はナスタたちの設立した村兼要塞まで押し込まれ、ナスタたちは籠城しながら何とか最後の一手を打たれまいと、何を信じるでもなくひたすら耐え続けた。そして、転機は訪れる。
突如、碧と赤の交錯する光の渦がナスタたちの要塞の壁に集まっていた竜族たちを包み込み、そして灰と化す。そう、火と水の魔導書の力を得たパステルがそこにはいた。パステルもまた、グランドにきて力をつけていた。精霊との契約に向けて、エルフ族の中でまずは戦闘訓練や、魔法の使い方を習得し、そしてゾルグと一緒に魔導書契約のための旅にでていた。特に困難を極めたのは水の魔導書の入手だった。
水の魔導書は竜族の眷属であるスライム族が所有していたため、最初は火の魔導書を見つけるつもりでいた。しかし、その火の魔導書があるのは、スライム族と竜族のつくる壁の先だったため、その壁を越える必要があった。当初の予定ではその壁は定期連絡のために許可されていた一部の魔物だと偽り、越える予定だったがスライム族の目を欺くことは出来ず、パステルたちは捕まってしまう。
そこで機転を利かせたのはパステルだった。スライム族と会話をすることで彼らですら竜族から不当な扱いを受け、無理を強いらされていることを知ったパステルはスライム族たちを説得し、共に竜族に反旗を翻すことを決心させる。
こうして、スライム族の協力の元、水の魔導書との契約と、壁を乗り越えた後に火の魔導書との契約を終え、ナスタたちの元に現れたのである。
その結果、ナスタたちを攻め立てていた竜族は撤退を余儀なくされ、ナスタたちには追いかける余力もなかったため、結果として一時的に戦火は収まった。そして、ナスタとパステルは再開を果たす。
◇◇
「久しぶりだわね、ナスタ」
「パステルも、元気そうで何より」
2人は所々煙が上がる戦場で向き合う。お互いは思った。2人が離れてから数年経っているが、見た目だけはあまり変わっていないなと。そして、何から話して良いかわからない2人はしばらく黙ってしまう。
「こんなところで立ち話もなんですし、せっかくだから私たちの村に来てもらったらどうですか、ナスタさん?」
「あ、あぁ、そうだね。ごめん。もしよかったら、助けてもらったお礼させてよ、後ろの方も、是非ご一緒に」
「ご挨拶が遅くなってすみません。エルフの族長をしているゾルグです。以後、お見知りおきを」
華麗に礼をするゾルグになぜか警戒心をありありと見せるナスタを見て、ノンはナスタの見えないところで笑ってしまう。
「こちらこそ、すみません。パステルの友人のナスタと、こっちが……」
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「ノンさんですね。パステルから話は聞いてます」
「初めまして、ゾルグさん。それでは行きましょうか」
ノンとナスタは2人を先導して村の中を歩くと、パステルとゾルグに至る所から歓迎とお礼の言葉を浴びせる。それを聞いている2人はゾルグは慣れているのか手を振って笑顔で応えたりしているが、パステルは顔を赤らめ、肩をすぼめて恥ずかしそうにしている。
「ナスタ、初めからこのつもりで私たちを村に呼んだの?」
「さぁ、何の事やら」
ナスタはパステルの言葉を背中で聞きながら明後日の方向を向いて応える。ただ、ナスタ自身も2人にはとても感謝していた。せっかくここまで作った村だったため、当然といえば当然である。
4人はナスタの住まいにたどり着き、これまでの周りの声援が聞こえなくなると大きく息を吐く。
「まぁその辺に腰掛けてよ」
ナスタは自分自身の椅子に座りながら他の3人を近くの椅子に座らせる。
「随分と良いところに住んでるわね」
「そうかな? でも、たしかにファームにいる頃に比べればだいぶましになったかな」
「あの頃とは雲泥の差よ」
パステルは大きくため息をつくと、ファームで魔物に転移させられてからのことをぽつり、ぽつりとまるで遠い昔の話でもするかのように、少しずつ、ゆっくりと話し始める。そして、ここに行き着いた経緯を説明し終わると、ようやくひたすら聞き手に回っていたナスタが口を開く。
「それで、パステルたちはこれからどうするの?」
ある意味、ここを中心にした街を作ってグランドの魔物たちを結集させれば、いかに竜族と言えども簡単にはその街を陥落させることはできないだろう。しかし、どうやらパステルたちはこれで終わりというわけにはいかないらしい。パステルはナスタとノンの顔を改めて見直す。
「私たちと、竜族の王を一緒に説得しにきてくれないかしら?私たちと、ナスタたちの力があれば向こうも十分説得に応じてくれると思うの」
ナスタはノンと顔を見合わせると、ノンはナスタに笑い返すだけで、特に何もいわなかった。そう、ナスタにすべて任せる、というノンの意思表示だった。それを受け、ナスタはパステルに返事をする。
「わかった、ここまできたら最後までやろう。それが、きっとラインとアングルの希望だろうからね。グランドにきた僕の目標は2つ。一つはパステルを見つけることだったけどそれはもう叶った。だからもう一つのラインとアングルの無念を晴らすことに何の異論もないよ。ノンも、いいかな?」
「もちろんですよ、どこまででもご一緒します」
こうして、永く続いた竜族による世界の統一は、ファームの元底辺錬金術師と、最強の無の魔導書、そして双輪眼をもつ少女の結託という、本来有り得ない組み合わせの人間によって、終わりを迎えるのであった。
皆様これまでお付き合い頂きありがとうございました。
少し最後は流し気味になってしまいましたが、中途半端に終わりをかかないくらいであれば、と思い書き切らせていただきました。
次の作品の予定は全く決まっていませんが、お目にかかる機会があれば是非よろしくお願い致します。