辿り着いたその先
ナスタはミゲルに半分抱えられながら上位魔法で開けたミチの先へ先へとふらつきながら進む。そして、その先には遥か前方で走って先に行ってしまったアインスとツヴァイが、ナスタたちの少し前にはトリントンとビスタが歩いていた。
すると、先に進んでいたアインスたちが遠くで叫んでいるのが聞こえる。
「明かりが見えた!」
「ついに来たぞ!」
2人の声に、前を行くトリントンたちもどうやら早く外の様子をみたいようで、足早にアインスたちの元へと向かう。
「私も早くいきたい! ナスタ、しょうがないから背中に乗って!」
「え? 嫌だよ、そんなの」
あまりの唐突なミゲルの提案にナスタは即答するが、ミゲルは全く話をきいていないようでナスタの前にしゃがみ込むとそのままナスタを担いでミチを駆け上る。
「ちょ、ちょっと!」
背中の上で慌てるナスタを無視して、ミゲルはどんどん先に進むと、その先に眩い白い光が見える。
「後少しだ!」
ミゲルはさらに加速すると、光が開けたその先で、先に着いたトリントンたちが立ち尽くしていた。
「やっと着いた!」
ミゲルもようやくミチのつながる先、そう、グランドの大地に足をつけると、ゆっくりとナスタをその場に降ろす。ミゲルは膝に手をついて肩で息をしている横でナスタは目の前を眺める。
「ここが、グランド……」
ちょうどナスタが山の中腹に穴を開けたらしく、ナスタたちが外に出たその先は高台になっていて、グランドの世界の一部を見渡すことができた。
山の麓まではナスタたちがこれまでみたことがない緑色の森が鬱蒼と生い茂っていて、その先にはいくつかの建物が見えた。おそらく、魔物たちが住んでいるのだろう。初めてグランドに辿り着いたナスタたちにとっては、このグランドの全てが目新しかったが、その中でも他の何よりも印象的なのは青青とした空と、ファームでは絶対に有り得ない光量を持った太陽だった。
「色が溢れ出る」
「まさか本当にグランドにやってこれるたぁな」
長年の目標としていたトリントンとビスタにとっては悲願のグランド到達だったのだろう。2人とも目を真っ赤にしながらグランドの風景を目に焼き付けていた。
「まずは第一目標達成ですね」
唐突にノンから話しかけられたナスタは目下に広がるグランドを見ながら心配そうに呟く。
「そうだね。でも、こんな広い世界でパステルを見つけられるかな?」
「大丈夫ですよ、きっと」
「何の根拠にいってるの、それ?」
「もちろん、そんなものはありませんよ」
そう言ってナスタに笑いかけるノンだったが、思わずナスタもそれにつられて笑ってしまう。
「まぁいっか。何はともあれ、こうやってまずはグランドにもこれたんだしね。一歩ずつ、いくしかないね」
ナスタは何の確証もなかったが、ノンの言う通りこの青い空を見ていたら何とかなる気がしてきていた。
「それじゃあ、おれとビスタでちょっとこの辺りを見回ってくるからナスタたちはここで見守りも兼ねて待っていてくれ。30分以内には一度戻ってくるから、1時間経っても戻ってこなかったら何かあったと思ってくれ」
トリントンとビスタは感傷に浸っていたと思ったらどうやらもう現実を見据えているらしい。ナスタたちが頷くと2人はそのまま近くを散策しに行ってしまった。
◇◇
しばらくミチの入り口近くで待っていたら特に何も問題がなかったようでビスタとトリントンが戻ってくる。
「この辺りのイメージはなんとなく掴めた。今後のことを決めるために一度戻る」
「えぇー! もう戻っちゃうんですか? 僕らもちょっと周りを見させてくださいよ!」
トリントンの帰還の言葉に不満そうな声をあげたのはアインスだった。ナスタ自身も少しグランドを見て回ってみたかった気もするが、今のこの魔力では何かあっても何もできないため、大人しく従うつもりだったがアインスは元気だったため、当然といえば当然である。しかしビスタはそれを許さなかった。
「まだ安全が全く確保されてねぇんだ。これからいくらでもこれるんだから少しは我慢しやがれ!」
ビスタに叱責されたアインスはしょんぼりと背中が小さくなっている。普段ははつらつとしたアインスとツヴァイでも、ビスタに叱られると堪えるらしい。
結局ミチの入り口を手頃な木で隠した後に一同全員でミチを戻ると、30分後に食堂に集まるように、トリントンから指示がでる。どうやら、その間にトリントンとビスタで方向性を最終調整するらしい。
ナスタとノンは部屋に戻り一度休むことにすると、どうやら知らない間にナスタは壁にもたれて座りながら眠りについてしまっていたらしい。集合時間になるとノンがナスタを起こしてくれた。
「やっぱりお疲れですね、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。今ちょっと寝たのでだいぶ良くなった気がする」
その言葉にノンはナスタに口を付けると満足げに頷く。
「本当ですね、少し魔力回復してますこれなら日常生活には支障がなさそうですね!」
そう言って立ち上がるとノンとナスタは集合場所の食堂へと向かった。