新たな役割
少し間があいてましたが連載、再開したいと思います!
レジスタンスの一員として活動を始めるナスタと、一足先にグランドに出たパステル、それぞれが思い思いの道を歩み始めます。
舞台は再びナスタたちがいるファームに戻る。
ナスタたちがトリントンたちとあった次の日、ナスタはミゲルにつれられて、食堂の廊下を挟んで反対側にある部屋にきていた。
「ここがこれまで私達が懸命に作業してきたところ、『ミチ』よ」
ナスタたちが部屋の入口にある目隠しのための壁を抜けると、そこには3人ほど横並びに歩ける緩やかな坂道が続いていた。所々ランタンが置かれているが、今ナスタがいる位置からは、一番奥の明かりが見えないほど、その長さは続く。
「ここを掘り進める、ということだね」
ナスタの問にミゲルは頷く。
「やることはこれまでの採掘と変わらないけど、それぞれの得意不得意で、穴を掘る人と出た土を固める人で作業分担をきめてるの。後、ここで採掘できた魔石が私達の大切な食料に変わるから、魔石を見つけたからといって自分のポケットにしまいこんだりしたらだめだからね」
「それならナスタさんは間違いなく穴を掘る方が得意ですよね、私を含め、ですが」
ナスタはノンの問に大きく頷く。無属性魔法を使って掘り進めることで、魔力の使用効率は最大化できるし、そもそも切削能力自体も通常の切削と比べると段違いである。
「そんなんだね、それじゃあノンとナスタには基本的には掘る方をお願いして、他のウンブラ以外のメンバーでできる限る協力する形になりそうね。ノンはわかると思うけど、精霊って自分の属性魔法以外は全く使えないのよね」
「えぇ、残念ながら……いっそのこと、穴をあけるだけならナスタさんが一発私の上位魔法ぶっ放した方が早いかもしれませんね。そこにある魔石などは全て一緒になくなってしまいますが……」
ノンの言葉に露骨に嫌そうな顔をするナスタ。
「それ……僕死なない?ってゆか、それならノンが自分でやってよ」
ナスタの反論に残念そうな顔でノンは首を振る。
「精霊も魔法の行使に魔力を使いますし、契約者の中で一番、最大魔力量が高い人の最大魔力量に比例してしまうので、ナスタさんが使えない魔法は今の私にも無理です。もしこれが使えるなら、是非とも使って、空っぽになった私の魔力をナスタさんに埋めてほしいくらいなんですが……」
「朝っぱらからさわやかな顔してそういう話するの、やめてくれるかな」
呆れるナスタを横目に、ミゲルは意外にも真剣にノンの話を聞いていた。
「その魔法、ナスタが使おうと思ったらどうしたらいい?トリントンさんにも相談しないといけないけど、魔石の犠牲はやむなしと考えたときに、それ実施する価値あるかも!」
ノンは顎に手をあて上の方を向き少し考える。
「そうですね、根本的な魔力の増加をするしかないので、ナスタさんには魔力を空っぽにし続けてもらうしかないですね」
あっさりとノンは言うが横ではナスタの顔がひきつっていた。
「魔力空っぽって、それ下手したら死んじゃうよ、僕」
「大丈夫です!私がナスタさんの魔力をもらいながらナスタさんの魔力量を確認して、しっかり死ぬ直前で止めるので!」
しかし、ミゲルは全てが決まった勢いでその場を後にする。
「よし、それじゃあしばらくはナスタに死ぬほど魔法を使って穴を掘ってもらって、さらにその後はノンが魔力を死ぬ直前まで吸い続けるってことね!んじゃちょっとトリントンさんに相談してくるから先とりあえず穴掘っておいて!」
「ちょ、ちょっと!?」
しかしミゲルを追いかけるナスタの声はまるで消えてなくなったようにミゲルの耳にはちっとも入らなかったようだ。結局そのまま走り去られてしまったノンとナスタだけがその場に残される。
「あぁあ、ノンが変なこというから……」
しかし、これでナスタから魔力をより貰えるようになったノンは上機嫌だった。
「まぁまぁ、そう固いこと言わないでくださいよ!いつかはきっとナスタさんにとっても役に立つ日が来ますよ!それじゃあ、与えられたお仕事、張り切っていきましょう!今日は新しいお仕事記念にちょっと将来の予行練習を兼ねて、ちょっと派手なのいってみましょうか」
これまでノンとナスタは短い付き合いだが、ナスタはだいぶノンのことを理解できるようになってきていて、こうなったノンは最早止めようがないと、説得を諦める。
「わかったよ、もう。んじゃもう少し先まで登ろうか」
とぼとぼと歩くナスタを先に歩くノンが急かす。
「何ゆっくり歩いてるんですか?早くいきましょうよー!」
まるでハイキングにいく勢いで楽しそうにしているノンをナスタは後ろからみながら呟く。
「悩みとかないのかな、ノンは、全く……」
そしてしばらく歩くとようやく行き止まりが見えてくる。待ちに待ったこのときに、ノンは鼻息を荒くする。
「それじゃあ、行きますよ!」
ナスタは大きくため息を吐き出し、壁の方に向かうと言うがままノンが念話で紡ぐ言葉をナスタは詠唱として口に出す。
始点にして終点の無を司る純白を纏いて
総てを破滅せしめる虚無の光よ貫け
「ルミオーレ!」
ナスタは詠唱をしながら、誰に教わったわけでもないが自然に両手を胸の前に突き出し、両手の人差し指と親指をつけて手のひらを壁に向ける。すると、ナスタの両手から今までファームでは見たことない、ナスタの背の高さより遥かに大きな真っ白い光がナスタの構えた両手から放たれ、目の前の壁に直撃する。
壁に当たった光は、強固な壁をまるで水のかかった綿飴を溶かすかの如く消失させながら、勢いは留まるところを知らず、今いる場所から光が届かない奥の方まで見事に壁を消失させていた。
「これが、破滅の魔法……」
ミゲルがちょうどトリントンを連れて、大きくあいた穴の奥の方を2人で覗き込む。
「ちょっと!?凄いじゃない!?あがってくる途中で何か真っ白な光が見えると思って慌ててきてみたのよ!」
2人の賞賛を受ける中、ナスタはその場でふらふらとよろけたと思うと、そのまま膝をついて地面に横たわり、気を失ってしまう。
「やっぱりまだ魔力が厳しめですね、ではお約束通り……」
ノンはその場で横向に倒れたナスタを手でくるりと仰向けにすると、そのままナスタの顔に覆い被さり、ノンはナスタの唇から魔力を奪う。その光景を初めて見るトリントンとミゲルは目のやり場に困り思わずナスタたちから顔を背ける。
「ふぅー、危ない危ない。危うく全部吸い尽くしてしまうところでした」
ようやくナスタから顔を離したノンは口元を拭いながら顔を火照らせていた。
「え?ちょっと待って?今のって、もしかして魔力をナスタにあげてたんじゃなくて、吸い上げてたってこと?」
「えぇそうですよ?だってさっきいってましたよね?ナスタさんが穴をあけるための魔法を使えるようになってほしいって。そのためにはこれが最短手段だと思います」
ミゲルはナスタに少し申し訳ないことをしたなと思いながらも、死ぬわけではないし、良いかと割り切る。
「ちなみに、どれくらいで目を覚ますんだ?」
トリントンはナスタの顔色をみると、相当青白い顔をしているので心配になっていたようだ。
「ナスタさんなら半日ほど眠れば意識は戻ると思います。それでも、まだ魔力はあまりないので作業をしてもらうのは少し辛いかもしれません」
ノンの心配にトリントンは首を横に振る。
「そうか、ならよかった。この後すぐに作業を再開しろなんてことは言わないから大丈夫だ。中がどれだけ続いているか次第だが、どう考えても1人で普通にやって進むことができる量ではないのは確かだ。ゆっくり休んでもらおう」
ミゲルは同意する。
「とりあえず、中を見に行ってみよう!」
こうして一同はナスタをそのままそこに寝かせたまま新しく掘った道に明かりを灯すためのランタンを適当に手に持ち、奥の方へと向かった。