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 ナスタの契約の言葉と同時に 突然現れたノンは手をブンブンと振って、何やら怒っている。


「ダメですよナスタさん! 私がいながら、他の魔導書と契約だなんて! ひどいです!」


 突然現れたノンにナスタは驚くが何より驚いていたのはこれまでほとんど表情を変えなかったトリントンだった。


「誰だ!? ど、どこから現れた!?」


 ナスタはしばらくノンのことは隠しておいて自分にとってこの組織が不都合だった場合に抜け出るための保険にしておこうと思っていたが、ノンの登場でその計画も水の泡となる。


「トリントンさん、すみません。こいつ、魔導書の精霊で、ノンって言います」


「魔導書の…… 精霊……?」


 正に鳩が豆鉄砲を喰らったように目を見開いてナスタとノンの方を交互に見返す。


「はじめまして、無の魔導書の精霊、ノンです。最初に断っておきますが、ナスタさんは私との契約者ですから!他の魔導書との契約なんて絶対させません!」


 ノンにしては珍しく、顔を真っ赤にしながら怒りの感情を露わにしている。しかし、ナスタもトリントンもノンが何を言っているのかよく理解ができない。


「ノン、確かに他の魔導書とは契約できないとは聞いたけど、これ、魔導書との契約ではないよ?」


 ノンは言いたいことを言って少し落ち着いたのか、大きく息を吐き出すと説明を始める。


「ナスタさん、今ナスタさんが契約しようとしたこれ、何だと思ってますか?」


「な、何って、レジスタンスの規定を守るための契約書でしょ?」


「では、その規定を守らせるのはどうやって守らせるのでしょうか?」


 ノンの問にナスタは言葉に詰まり、トリントンの方を向く。


「魔法の力だな。秘密を口外しようとすると魔法で口を閉ざされ、味方を守ろうとしなければ魔法で体が動かなくなる」


 ナスタはてっきり契約書なんて努力義務みたいなもので、自分の契約しようとしたものがそこまで強制力が高いものだと思いもしなかった。しかし、トリントンの説明を受けて納得がいく。


「ということは、この契約書も魔導書ということ?」


 ノンはよくぞ当てました、と言わんばかりにビシッとナスタを指差す。


「ご名答です! こうやって作られる契約書は、そもそも規則の魔導書と言うのがあって、その精霊と契約した対象者が発行できるのですが、その発行された書面も魔導書と同じ扱いを受けるのでその書面との契約はつまりは精霊との契約と見なされるわけです」


 なるほどなぁとナスタは納得しているが一方で疑問を抱えたのはトリントンだった。


「それでは、契約書を契約していると本当に契約したい魔導書とは契約できなくなるということか?」


 しかし、ノンはそうではないことを説明する。


「そこは規則の精霊と新たに締結したい精霊の交渉次第となります。魔導書の契約内容はどの精霊も自由に決めることができるので、新しい魔導書の精霊が今契約している内容を継続すべきと判断した場合はその内容を契約の際に折り込むこともできますし、逆に、めんどくさがりの精霊であれば、何か契約を締結してる時点でその者との契約を拒否する者もいます」


 たしかに、レジスタンスとして魔物に対抗する手段として力を付けるために強くなろうと思ったら、魔導書と契約するというのは一つの有力手段だろう。その際に、最初にレジスタンスが締結させた契約のせいで魔導書と契約できないとなったら何をしているかわからない。ようやくトリントンも納得したようで、大きく溜め息を吐く。


「ともかく、わかった。ナスタとはレジスタンスの契約の締結はできないということだな」


 ノンはきっぱりとできないことを伝えるとトリントンは納得したようだ。


「それで、僕はどうしたらよいのでしょうか? 契約できないならレジスタンスには入れないですか?」


 ナスタは恐る恐る確認するとどうやらそんなことはないらしい。


「何を言ってるんだ? 魔導書と契約した人間が新しく加わるんだ。多少のリスクはとるべきだ」


 ナスタはホッと胸をなで下ろすとナスタのお腹の音が部屋の中に小さく響き渡る。精神的な安心が解かれた体は正直なものである。


「すみません、どれくらいここに連れられてから時間が経ったかわかりませんが、支給食を取りに行くところで逃げ出してしまったので」


「そうだな、ここに来てから半日ほど気を失っていたからな。今日のところはこんなところにしておくか。とりあえず、寝る場所と食料は与えるから詳しい話は明日しよう」


 そう言ってトリントンは椅子から立ち上がるとナスタとノンに付いて来るように促す。そして、ふと何かを思い出したように立ち止まると、トリントンは一言確認する。


「精霊は食事しなくてもよいんだよな?」


 この問いに、ナスタは頷く。実はこれまでナスタと一緒にいるときはパステルたちの手前食事を一緒にとっていたが、ノンにとって食事は娯楽のようで、栄養摂取の意味合いはなく、実際はナスタから魔力を受け取っているため食事は必要なかった。ノンはナスタの回答に何やら不満げで、ナスタはそれに気が付いていたが見て見ぬ振りをして、トリントンの後についていく。


 ナスタが軟禁されていた部屋からでると、そこは部屋と変わらず赤土色の壁が両側に連なる大人1人がようやく立ってすれ違えるほどの大きさの長い廊下で、その廊下のちょうど突き当たりにナスタ達のいた部屋がある格好だった。その廊下の両脇にはいくつかの部屋が分かれているが、扉はつけられておらず、中は丸見えの部屋が殆ど。パッと見えたどの部屋にも共通していたのが、すべての部屋に窓がないという点。ナスタの住んでいた長家でも、日中採光するために壁をくり抜いて外が確認できる窓があったが、ここにはそれがなかった。


 ナスタたちは数多ある部屋の、一番突き当たりに近い部屋に入ると、そこは先ほどまでいた部屋よりも一回り大きな部屋だった。全部で10人ほどが座ることができる木で作られた椅子と机、そして水が貯められた桶などが置かれており、その中心にはナスタの住んでいた長家のように煙を逃がす通気穴とともに囲炉裏が設けられていて、まさにそこはダイニングキッチンといった感じだった。


「とりあえず、ここにある物で適当にすませてくれ」


 そういってトリントンが示したのは部屋の隅に山積みにされた根菜類や干し肉、その脇にある乾パン。ナスタが近くを見回すとそこには塩や胡椒などの調味料が一通り揃ってる様子だった。


「結構色々揃ってますね」


 その場を物色していたナスタの言葉にトリントンは関心を示す。


「お前、料理できるのか?」


 どうやら、これまでトリントンは同じ言葉をこれまできた何人かに言っていたのだろう。しかし、ファームでは料理をする人間がほとんどいないため、加工されていない食材や、調味料を見てもどうしてよいかわからない人間が多い。ナスタはトリントンの言葉に頷くと、トリントンの分を含め、早速何かを作ることになった。


 ナスタは少し大きめの鍋にキノコと干し肉を水でつけ、手際よく根菜類を水で洗い、皮をむいて小さくカットする。トリントンはその様子をじっと後ろから見守る。


 ナスタは一通り準備が終わると鍋を炊き出す間、ずっと気になっていたことをトリントンに確認する。


「ここってもしかして、魔石抗ですか?」


 トリントンは頷く。


「あぁ、そうだ。18地区の魔石抗から少しはずれたところにある」


 トリントンは元々この地区の魔石抗を採掘していたが、魔物に支配されるのが嫌になって当時一緒に採掘を進めていた友人と魔物から独立し、自分たちで生計をたてることにしたのがこのレジスタンスの始まりだったそうだ。また、この場所は外の採掘している人間に見つからないように入り口は隠してあるらしい。


 ナスタは火加減を調整しながら鍋の中からアクを取り除き、ぐるぐるとかき混ぜる。


「では、レジスタンスの目的は魔物たちの世話にならず、且つ見つからないようにひっそりと暮らすってことですか?」


 ナスタの問にトリントンは首を横に振る。


「いや、おれはこのファームの人間全てを、魔物の支配から逃れさせたい」


 この言葉を聞いたナスタたちはまだいまいちトリントンが何をしようとするのか皆目見当つかなかった。

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新作、始めました!

人として大切なことは全て異世界で学んだ!-大切なのはスキルでも境遇でもない、心だ!-

社畜サラリーマンが転成先で超絶魔力量を手に入れたものの、悩み、そして人として成長するお話です。是非お読みいただけると嬉しいです。
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