表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第6話 陽介3

「サクラ、お前一体何考えてんだ? 陽に何で俺たちで何とかするとか適当な事言っちまうんだ!!!」


「ごめんなさい。だけど、私これでも天使だから、誰かの役に立ちたいって思って……」


 俺の剣幕が、余程怖かったらしく、サクラは身を硬くしながらそれでも自分の意見は主張していた。


「天使として誰かの役に立ちたいっていうのは分かる。でも、何で俺を巻き込むんだ!」


「哲さんだったら助けてくれると思って。私一人じゃ分からない事いっぱいあるし……」


 俺はあからさまに溜息をついた。俯いてはいるが、ちらちらと上目遣いでこちらに視線を投げかけてくるサクラが、どうしようもなく可愛いと思ってしまった。

 ちきしょ〜、面倒くせぇ。サクラに聞こえないように小さく舌打ちをした。

 頭をぼりぼりと激しくかきむしり、サクラを見ると、こう言った。


「だ〜、しゃあない。今回だけだぞ」


 俺がそう言った途端、しきりに俯いていたサクラがぱっと顔をあげ、嬉しそうに満面に笑顔を携えて抱き付いて来た。


「ありがとう、哲さん」


 この笑顔は反則だ。天使というものは、みんなこんな笑顔をしているんだろうか? サクラ以外の天使なんて見た事無いから分からないが、末恐ろしい生き物だ。


「あ〜、分かった分かった」


 俺は、適当にサクラの頭をポンポンと叩いてから、サクラの体を無理矢理引き剥がした。厄介な奴が来ちまったもんだとうんざりしていた。


「で、その幼馴染っていうのは、どこのどいつなんだ?」


「さあ?」


 サクラは、キョトンとした顔で首を傾げている。結構間抜け面だ。


「はあ? お前、陽から何にも聞いてこなかったのか?」


 えへへっとサクラは、笑顔を見せたが、どんなに反則な笑顔をしていても今回は俺の機嫌を直す事は出来なかった。


「お〜ま〜え〜、えへへじゃねぇ、自分で誰かの役に立ちたいって言っておいて、やる気あんのかっ!!!」


 この日一番の怒声がアパートに響き渡った。ひっと小さく悲鳴をあげて、サクラは縮みあがった。俺は、キッとサクラを睨みつけ、サクラのこめかみをぐりぐりと痛めつけた。


「痛い〜、痛いです……。ごめんなさい」


 サクラの目から涙が滲んで来たのを見て、漸く俺はサクラを解放した。正直すっきりした。だが、涙で滲んだ目で恨めしそうにこちらを見ているサクラを見て、やり過ぎたと悟った。


「悪かったよ。やり過ぎた。大丈夫か、サクラ?」


 俺は、サクラのこめかみに手を添え、優しくさすってやった。ついで、目尻に溜まっていた涙も拭いてやる。そこまでして、やっとサクラも機嫌を直したのか、ニコッと笑った。こいつには、敵わないとこの時、俺は思った。


「明日とにかく陽に色々聞きに行くぞ。分かったら、さっさと寝ろ」


「はい」


 慌てたサクラの声がこれまた大きくて、隣の住人が文句を言いに来るんじゃないかと内心ひやひやした。



 翌日、俺とサクラは例の如く学食にいた。俺の隣には桜が座り、正面には陽介が座っていた。昼前の時間帯、この曜日のこの時間に陽介がいつもここにいる事を俺は知っていた。学食は嵐の前の静けさといったところだ。あと30分もすれば、雪崩のように学生が押し寄せてくる。貧乏学生の多いこの大学では、学食が命の糸なのだ。


「サクラがお前の恋を応援するって話だが……」


「それの事なら気にしなくていいよ。哲、面倒だろ?」


「いや、面倒なのは否定できねえけど、こいつが一度言い出した事だ、止めるわけにはいかねえよ。その幼馴染ってのはどこのどいつなんだ?」


 サクラは、隣で小さなノートを出し、ボールペン片手に真剣に俺と陽介の話を聞いている。この間見た刑事ドラマを意識しているのは間違いなかろう。


「高木志保、俺たちとタメだ。N大の教育学部に通ってるよ」


 俺の尋問はさらに続く。


「お前ら今でも会ったりするのか?」


「全然。志保がN大に行っているっていうのも俺の親から聞いたんだ」


 志保という女の話をしている時の陽介は、何だか少し憂いがあり、色気さえある気がする。いつもの穏やかな笑顔がまるで出てこない。陽、本当にそいつの事が好きなんだなとそう感慨深げに陽介を眺めている俺の隣では、サクラはかりかりと何やら書いている。


「おい、写真か何かあるか?」


「中学の時のならあるけど、参考になるかどうか…」


 鞄からがさごそと手帳を取り出し、その中に入っていた1枚の写真を取り出し俺の正面に置いた。

 陽、お前写真持ち歩いているのか……、案外乙女チックな所があるんだな。

 写真には、セーラー服姿のおさげが似合う女の子がにっこりとほほ笑んでいた。さて、この女の子がどう変身しているかだ。すぐに見つけられればいいが……。


「分かった。取り敢えず捜してみる」


「二人とも、無理はしないでくれよ。本当に無理ならそれでいいんだ」


 陽介は、俺を見つめ少しすまなそうな顔をしている。


「大丈夫だよ。安心しろ、俺の事だそんなむちゃはしない。だろ?」


 そう言って、陽介に笑いかけると、陽介も笑い返して来た。本日初めて見る笑顔だった。



 その日の夕方、俺とサクラはN大まで来ていた。とにかくその志保という女を探さなきゃならない。先程から溜息が何度も出て困っている。俺の隣にいるサクラは、今度は探偵気取りで軽く腹が立ってくる。

 こいつは遊びと勘違いしているんじゃないだろうか。

 N大まで来たのはいいが、N大はこの近辺で一番大きな大学で、今日志保が大学に来ているとも限らないのだ。

 俺は考えた。どうにかサクラを大学へ潜入させて志保と仲良くなって貰いたい。そこで、思い出したのがN大に通う高校時代の友人の佐伯稔だ。早速、稔の携帯にかけてみる事にする。


「お〜稔か? 久しぶりだな。折り入って聞きたい事があんだけどさ、お前の大学で高木志保って女知ってるか?」


『何だよ突然、何でそんなこと聞くんだよ』


「俺の大学のダチがその子が可愛いって目付けたらしいんだけど、N大って事だけしか分からなくて、俺がつい「友達その子と同じ大学行ってる」って言っちまったんだよ。そいつにその子の事色々聞いて見てくれって拝み倒されちゃってさ、悪いがお前なんか知ってたら教えてくれないか?」


 上手いこと友人に聞き出した情報がこんなもんだ。

 1.昼は、大学内の学食で友人たちと食べる事が多い。2.真面目な子で講義をサボる事はない。3.彼氏はいないらしい。4.火・木曜日は午後から、月・水・金曜日は午前中から講義に出ている。5.ほぼ毎日夕方になると大学内の図書館に一人でいる。

 これらの情報を稔から聞く事が出来た。何で稔がこんなに志保の事を知っているのか……。あいつを知っている俺なら容易に想像がつく。あいつは、可愛い子には目がない。大学のめぼしい女の子の情報は彼の中にインプットされているのだ。かなりストーカーチックだが、こいつは追いかけまわしたりはしない。女の子が嫌がりそうなことはしない。いや自分の行動が知られているというのは、女の子は嫌がのるかもしれないが…。

 とにかくこれで志保の情報を得る事が出来た。翌日から、サクラを夕方の図書館に送り込み志保とお近づきになってもらおうと思う。


いつも読んで頂き有難うございます。

『1cmの距離』が無事完結しましたので、これからはこちらの方にぼちぼち取りかかりたいと思います。

毎日だとちょっと大変なので、月・水・金曜日に更新をしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ