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第4話 陽介

「陽、お前次空き時間なのか?」


 うん、そうなんだ。と、穏やかな笑顔を俺に向ける。他の3人と比べ陽介はとにかく普通だから、かえって落ち着くのだ。


「サクラ、こいつ永澤陽介っていうんだ。俺と同じで21歳。」


「あの、始めまして。サクラです。18歳です。」


「始めまして。永澤陽介です。君は、哲と一緒のアパートに住む事になるんだね。何か困った事があったら何でも言って。」


 陽介の穏やかな話し方に少しサクラはホッとしているようだった。それでも、サクラは人見知りをするのか、陽介に笑顔を向けるまでには、いかないようだ。


「サクラちゃんは今何してるの?学生かな?」


「いえ、あの、ブリーダーです」


 サクラは俺との勉強の成果を発揮すべく、そう言った。俺はそれを聞いて、飲んでいたコーヒーをぶっと吹き出し、やっちまったと考えていた。


「え?ブリーダーって犬とかの?」


 それを聞いて首を傾げているサクラ。自分の間違いになど、全くと言っていいほど気付いていないのだ。そして、サクラはキョトンとした顔で俺の顔を仰ぎ見る。


「ああ、あれだ、ブリーダーじゃなくて、フリーターって言ったんだよな、サクラ?」


 哲治は、慌ててそう言うと、サクラも自分の間違いにやっと気付いたのか、大きく頭を縦に振った。怖い怖い怖いぞぉ…。サクラは、言葉をよく間違えるし、地上の事をよく知らないから何を言い出すか分らないから俺が気苦労で先にまいっちまいそうだ。

 恐る恐る陽介の表情を窺うと、特に気にした風もなく、ただサクラを見つめていた。ああ、これは陽介が女に惚れた時にする表情じゃねぇか。よしよし、陽介の方はOKだな。サクラの方はっと…、おい、見つめられてんだから、にっこり微笑んだらどうなんだよ!サクラの顔ときたら、陽介を睨んでやがる。


『サクラ』


 耳元で、哲治が小声で声をかけると、サクラは哲治ににっこりとほほ笑んだ。その笑顔が何で陽介の前で出来ねぇんだよとつっこみたいのを堪えて、こう言った。


『笑顔はどうした。俺に笑顔を向けるんじゃなくて、陽介にニコってするんだよ。それとも、お前好みじゃないか?』


 陽介には、絶対に聞こえない様に配慮して、そう言った。


「好きではないと思います」


 サクラは俺が折角小さな声で話しかけてるのに、普通の声でそんな事言いやがった。慌てた俺は、ちょっと悪ぃ、ここで待っててなと、陽介に言って、サクラを外に連れ出した。

 学食の外には、芝生が敷き詰められ、白いテーブルと椅子が5セット位置いてある。天気が良くて暖かい日はここも結構人気がある。


「おい、お前内緒話ってもんが出来ないのか。陽に聞こえない様に折角俺が小声で話しかけてんのに、お前が陽に聞こえる声出したら意味ないじゃないか」


 ごめんなさいと、サクラはしょぼんとして肩を落とした。


「別にいいよ。それで、陽はどう思う?今は好きじゃなくても、そのうち好きになれそうか?」


 俺がそう問いかけると、サクラは思いのほか真剣に悩んでしまった。何をそこまで考える必要があるのか正直分らないが、まあ少し待ってやるかとタバコを吸い始めた。


「今は、好きじゃないです。哲さんの方がよっぽど好き」


「何で、そこで俺の話が出てくるんだ。俺は関係ないだろう?この先も好きにならないか、陽の事?」


「正直、分からない」


「んじゃ、あいつとデートとかすんの嫌か?」


「二人だけでは、嫌です。哲さんが一緒に来てくれるならいいですけど」


 俺がついて行くのは流石に良くないだろう。でも、ダブルデートとかだったら、まあ、ありだろうな。とするとだ、俺の相手は誰だ?俺には今彼女いないしな。暇そうな奴って言ったらあいつしかいねぇだろうな。

 不本意だが、まあいた仕方ないか。ふぅ〜、めんどくせ。


「分かった。二組でデートだったらいいだろ?お前は陽と、俺は、嫌だけど由紀でも誘えばいいだろ」


「由紀さんですか?」


「ああ、お前もあいつとは顔見知りだし。何か問題あるか?」


 サクラが少し寂しそうな表情をしたのは気のせいだろうか。だが、サクラは、問題ないですと蟻がしゃべってるんじゃないかと思われるくらい小さい声でそう言った。んじゃ、戻って話に行こうぜと、サクラの腕を引っ張って学食へと戻った。


「おい、陽。デートしようぜデート」


 デート?と、陽介が首を傾げるので、由紀も誘って4人で出掛けようという事を話して聞かせた。

 陽介は前から、俺が由紀を好きなんじゃないかと勘ぐってるようで、今も由紀の名前を聞いて、俺の顔を見ては、ニタニタニタニタしてやがる。好い加減そのどうでもいい勘違いを何とかして欲しいところだが、面倒くさいので、放っておく事にした。また、ここで、俺が何か言えば、照れてるだけだろうとか言われるのがおちなんだ。そんなのは、もう分りきってる。

 小さいころから由紀とは一緒にいるから、当然そうやって言う奴は何人もいた、その経験上培ったものだ。否定すれば否定するほどあいつらはからかってくるんだってことを。

 サクラも、俺と由紀の事を恋人同士かなどと聞いてきてたっけな、何でそう見えるのか俺には不思議でしょうがない。


「サクラ、どっか行きたいとこあるか?」


「東京タワー」


 サクラは、さっきから下を向いてばかりだ。陽介の事、やっぱりあんまり好きじゃないのかと思った。う〜ん、焦って先へ先へ進めすぎたかと少し反省する。 

 サクラの頭をくしゃくしゃっとなでてやり、じゃあ、東京タワーにするかというと、サクラは俺に向かって笑いかけた。今日一番の天使の笑顔で。


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