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第13話 大地2

「相変わらずあの方は騒々しいですね」

 

 寝ながら聞いていたタクローが、起き上がり迷惑そうにそう言った。


「本当にな」


 俺が笑いながら答えると、タクローはまだ何か不満があるのか不機嫌そうにしている。俺はそんなタクローにどうした?と尋ねた。


「どうして私は猫なんですかね? 何か喋りたくてもこの姿では会話に入る事すら出来ませんし、また私だけ留守番なんですね。なんでミカエル様は私を人間の姿にして下さらなかったんでしょうか…」


 猫が脹れている姿など見た事もないし、今目の前で不平を言っているタクローの表情はたいして変化は見られないが、恐らくタクローは脹れているに違いないと俺は思った。


「そう脹れんなって。連れてってやれなくもないかもしれないしな」


「え? 本当ですか?」


 タクローが目に見えて喜んでいる。表情にさほどの変化がないと言っても、声音や動作で喜びを表現している。


「今は、ペットOKな喫茶店とか結構あるからな。まあ、高梨が猫アレルギーとかじゃなければだけどな」


「良かったね、兄や」


 タクローは満足そうに何度も何度も頷いている。いつもおいて行かれる事に相当腹を立てていたようだ。猫の姿で、人前で喋る事が出来ない事や人の姿とは違い扱いにくい所が多々あるようでストレスが溜まっていたようだ。俺としては、猫の姿で俺の膝の上に乗り、俺の愚痴なんかを聞いてくれるタクローは好きなんだが……。



 ここはとある喫茶店。

 俺の膝の上にはタクローが座っている。俺の隣には緊張の為か異様にテンションの高い大地がおり、その正面には若干それに怯えているように見える高梨がいる。

 高梨には動物アレルギーはなく、ペット可の喫茶店で今こうして四人でいるわけだ。

 高梨はどうやら動物が大好きなようで、そこここにいる動物をそれは目を輝かせて見ている。サクラといえば、相変わらずのほほんと俺の正面に座っており、俺の視線に気づくと嬉しそうに微笑んだ。俺はサクラに呆れた表情をして見せたが、サクラのこの笑顔で一気に優しい気持ちへとならざるを得なくなってしまう。俺の気持ちを穏やかにするお気に入りの笑顔なのだ。


「高梨さんはどこの高校なん?」


 大地の容赦ない質問攻撃に、高梨は怯えながらも何とか答えている。流石にそろそろ可愛そうになり、助け船を出してやることにした。


「おい、大地。質問もそれくらいにしとけって。彼女怖がってるだろが」


 俺のその言葉に驚くととんでもないものでも見た様な目を俺に向けた。


「そんな事あるかい。こんな可愛い俺やで、怖い事あるわけないやんか」


「お前の顔が怖いとか言ってるんじゃねえよ、高梨見てみろよ怯えてるだろ? そんながっついてあれこれ聞かれたら怖いだろって言ってんだよ。それに一つ、お前は可愛くない。変な事言うな」


 俺は溜息をついた。なんでこいつはこんなにあほなんだろうかと。自分の友達ながら、この自己分析力の無さにうんざりした。


「うえ? まじでっ? 俺、うざかったん?」


 大地は慌てて高梨にそう言った。突然自分に話をふられて驚いた高梨は、えっ、あっ、うぅ〜とわけのわからない言葉を出す事しか出来ないようだった。


「てつぅ〜、俺嫌われてしもうたんやろか? 俺、こんなに高梨さんがすっきやのに……」


「えっ!!!」


 高梨が大地のさりげない告白に大きな声をあげた。


「のわぁ、どさくさに紛れて告ってしもたやないかい。哲、お前のせいや! どないしてくれんのや!!!」


「それは明らかに俺のせいじゃないだろ。自分で言ったんだ、呪いたかったら自分を呪え」


 俺はどうしようもなくアホなこの友人に投げ捨てるように言葉を吐いた。


「そやかて、俺はこれからどないしたらいいんや〜」


 大地は、俺の肩を掴み前後に激しく揺さぶり泣きそうな声を出している。


「馬鹿。お前泣くなよ」


 俺は狼狽して慌ててそう言った。俺の言葉は揺さ振られている為、多少揺れていた。くすっと誰かが笑う声を聞いて、俺は正面を見たが、笑っているのはサクラではなく、その隣にいる高梨だった。堪えていたのか最初は控えめだった笑い声は次第にエスカレートしていった。俺も大地も突然の事にただ驚き、高梨をぼんやりと見ている事しか出来なかった。


「ひひっ、ごめんなさい。ひひっでも可笑しくて……ふひひ」


 高梨はそこまでいうとどうしようも堪え切れなくなったようで腹を抱えて笑い始めた。


「高梨?」


 俺が不審げに高梨を呼ぶと、俺の顔を見てさらに笑いが大きくなってしまった。俺達は唖然と高梨が笑っている姿を見ていた。

 漸く高梨の笑いが一段落すると、高梨は口を開いた。


「ごめんなさい。二人のやり取りがまるでコントみたいだったから。あの……、近藤さん。さっき言った私が好きだってあれ本気ですか?」


 俺と大地の会話がコントみたいというのには正直反論したいところだが、その後の内容が内容なだけに俺が口を出すべき場面ではなくなってしまった。


「ぽろっと出てしもうたけど……、めっさ本気やで…」


 ここまで真剣な大地の表情を見たのはこれが初めてかもしれない。いつもおちゃらけている奴だから、なんだか俺から見たら可笑しいだけだけど、今のお前少しカッコいいのかもしれないな、女からすれば。


「えっっと、あの…私、こんなこと初めてで。私、男の人が苦手でまだ生まれてこのかた一度もお付き合いこともないので。哲さんのお友達ですから信頼できる人なんだと思いますし、実際会って凄く楽しい人だと思います。でも、今日お会いしたばかりなので付き合うという所までは……、なので…あの…お友達からで……」


 高梨はもじもじと、だがきちんと自分の意見をゆっくりと相手に分かるように伝えた。


「俺と友達になってくれんの?」


 高梨はこくんと頷いた。顔も耳も全て真っ赤になっている。それを見て嬉しそうに大地が高梨に微笑みかけると、高梨も真っ赤になりながらも笑顔を返している。


「美紗ちゃんは今、好きな奴とかおる?」


「とんでもない、いるわけないですよ」


 高梨はびっくりしたようで、オーバーアクションでそう言った。


「そっか、じゃあ俺頑張ったら彼氏に昇格ゆうんもありえるん?」


「はい」と、恥かしいのか、高梨の声が段々フェイドアウトしていく。


「さ〜てと、俺達はそろそろ行くか。なっ、サクラ」


「はははははいぃ」


 ぼんやりと二人の初々しい会話を見ていたサクラは少し羨ましそうで、だからか突然俺に呼ばれてびっくりしていた。


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