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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイド 帝都に行く――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女たち帝都に触れる
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三人の来訪者と自警団

 モルティ副団長とヴィラーチェが西の(やぐら)に到達した時には、自警団の何名かが集まり始めていた。

 金二つの時の合図は来訪者あり、しかし少しだけ間隔の短い連打は「若干の緊急性あり」の合図であった。

 普段であれば櫓付近にいた自警団の者が顔を出せば良い程度の合図でしかない。しかし昨今の事件と打ち合わせにより、多少離れた場所の団員も大事をとって集まるようにしていた。

 「状況を。」

 馬上から櫓の上の団員二人に尋ねる。

 「遠方に三名の人影発見、距離およそ三キロ。馬でこちらに向かっています。」

 「団長は?」

 一人は西を見つめたまま、もう一人が振り返って村の方を見る。

 「現在中心部を通過中。すぐ着きます。」

 それを聞いたモルティ副団長は少し緊張を緩めてため息を着くと、楽しそうな表情で寄り添うヴィラーチェに櫓の中に隠れるように指示した。彼女は不満そうな顔をしつつも櫓に昇って物見台の(へり)にちょこんと座った。二人の団員も笑顔で彼女を迎え入れる。

 彼女もまたタタカナル村の一員として受け入れられていた。その愛らしい外見と無邪気な性格でキルトランスよりも遥かに短期間で馴染んでいたのだった。

 「おお、ホントですよ。鎧を来た人間が三人馬に乗ってこっちに来てますね。なんか話ながらきょろきょろ辺りを見てますよ。」

 足をブラブラしながら彼女は事も無げに言う。しかしその言葉に一同から驚きの声が挙がった。

 ドラゴン属は人間と比べて遥かに視力が良い。目の良い団員でも二キロ先の人影を確認できる程度が限界なのに対して、ヴィラーチェの瞳は三キロ先の馬上の口元まで見えていた。

 「さすがヴィラーチェちゃん、スゴいっすね!あんな遠くの人までしっかり見えるなんて!」

 少し興奮気味の団員の賛辞に少し顔を赤らめながらも満面の笑みで照れるヴィラーチェ。無表情のキルトランスと違い彼女が急速に村人達に受け入れられた理由の一つが、この人間に近い表情であろう。人よりも明らかに立派な犬歯と、猫を思わせる縦長の瞳孔(どうこう)。この二点を除けば、彼女の顔つきは人間に非常に近いからだ。

 「もうオレらの代わりにヴィラーチェちゃんが見張りやってくださいよぉ。」

 「え~、そんなメンドウな事イヤです!疲れます!そーいうのはジケーダンの仕事です!」

 そう冗談めかして言う団員に心底嫌そうな顔をして文句を言うヴィラーチェ。キルトランスはジャルバ団長の薦めにより一応自警団の一員として所属しているが、彼女は所属はしていない。キルトランス達が訓練場にいる時も彼女は自由気ままに遊び回っているのが常だ。

 子供の我儘(わがまま)のような悪意のない文句に一同は笑いながらも、この少女がドラゴンである事に、そして彼女が自分達の味方である事に安堵していた。愛らしい外見でありながら彼女の実力は列記とした魔世界のそれである事は村人全ての認めるところである。事実、三日前の襲撃の際に魔導軍が放った火球による火災を水の魔術で消して回ってくれたのは彼女であり、凄惨な殺戮現場となった西の草原を一手に処理してくれたのも彼女なのだ。

 五百人の人間だった肉片とその撒き散らされた血の量は凄まじく、おりしも初夏の陽気と重なって翌日には腐臭が漂い始めた。普通の戦死体であれば自警団が処理をしたかもしれないが、なにせ膨大な肉片を回収するともなれば、簡単な作業とは言い難い。攻撃を受けた村の復旧や村長の葬式など、優先的な内容がある中、数日は後回しにせざるを得ない項目になっていた。だがそれらを放置する事によって、臭いに連れられた動物や魔獣が引き寄せられれば、二次災害を招く可能性もあるのが懸念事項であった。

 そんな時にキルトランスが魔術で土の中に埋める事を提案した。魔力を行使できない普通の人間たちにとっては想像すらしていなかった解決方法に酒場が沸き立つ。だが実際に実行したのはヴィラーチェであった。

 なぜなら土の操作に関しては彼女の方が得意だからだ。果たして提案した本人も頼まれた彼女もさも当たり前のようにそれを実行した。

 人間からすれば、冷酷無比で独立独歩の気風が強いように感じる魔世界の住人であるが、必ずしもそうだとは言えない。

 ドラゴンなどは「得意な事は得意な奴がやればいい」という互助思想で一族が一丸となっている部分がある。

だが裏を返せば「自分が出来ないことはやらない」という事であり、それが人間からすれば情が薄いように感じる一端かもしれない。

 人間は出来ないことを補いあって何かを達成して発展してきた。魔世界の住人は自分が出来ることを出しあって問題を解決してきた。だかそれは方法論は違えども、自分達の為である事には違いはない。

 「団長、お疲れっす!」

 櫓の下に到着したジャルバ団長に敬礼をしつつ迎える団員達。それに軽く手を挙げて返事をしながら団長は状況確認を進める。

 「駐屯兵の連中か?」

 「馬で三名。鎧を着てるって事で、ミナレバの兵だと思います。恐らく十五分もかからずにここに到着するかと。」

 ヴィラーチェからの情報も含めて報告する見張り役の団員。

 「やっぱりか。思ったよりも早いか?」

 「いえ、私の中では想定の範囲内です。」

 馬を降りて頭を掻く団長に同じく下馬して仏頂面の副団長。この二人の組み合わせが、なんだかんだと信頼できるのが自警団の強みでもあった。

 「ま、相手の出方にも依るだろうが、出来りゃ穏便に済ませてぇな……。」

 「団長、私の案ではありますが、このように対処してはどうでしょうか。」

 二人は即席の作戦会議を行う。その内容は結果的に副団長がヴィラーチェを残したかった最大の理由であった。

 だがその要の彼女は、相変わらず服から伸びた尻尾をピタピタと振り回しながら楽しそうに団員達と話をしているのであった。



 「ようこそ。タタカナル村へ。帝国軍の方々がなんでこんな辺鄙(へんぴ)な村に?」

 「ご、ご苦労。我々はミナレバ駐屯地から来た者だが……。」

 近寄ってきた兵達に先んじて団長が大声で挨拶をすると、それに多少気圧された兵達はなんとか体面を保とうと胸を反らすが、どうにも格好が付かない。なぜなら彼らは内心で怯えていたからである。

 だが出迎えはジャルバ団長と二名の自警団員のみ。モルティ副団長はヴィラーチェと共に櫓の下の柵の裏側に隠れている。櫓の上には一名のみ、と外見的には威圧感の無い布陣にしてある。

 「貴様どもに答えて……。」

 「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。ワタシはこのタタカナル村の自警団団長のジャルバと申します。」

 それでも高圧的な態度を示そうとする兵士に深々と頭を下げ慇懃(いんぎん)な自己紹介をするジャルバ団長。これである程度の形勢は決まった。帝国からすれば吹けば飛ぶような小さな村だとしても、自警団団長であれば村の治安の最高責任者であり、自警団員の行動に関する権限を一任されている。つまりは戦争の権限を持っている男なのだ。

 片や多少の肩書きや立場はあれども、戦闘に関する権限はあまり無く、今回の派遣も上部からの命令という大義があったわけでもない兵士からすれば、自警団団長は明らかに格上の相手である。いくら帝国兵とは言えど、軽々しく軽んじて事が起こったときに責任の取ることが出来る相手ではない。

 「……ここの村について尋ねたい事がある。」

 兵士の口から高圧的な態度が消えた。だがこれは勝利とは関係がない。むしろ自尊心の強い帝国兵であれば、内心の怒りを溜めさせるような状況なのだ。

 「オレの知っている事であればなんでもお答えします。」

 多少態度を崩しつつも可能な限り丁寧に対応する団長。彼とて一応は村を代表する面々の一人であり、形式的な敬語などは一通りこなすことは出来る。だがいかんせん普段の言動が豪快であり、形式的な態度を長時間続けるのは苦手だ。現に後ろの団員二人は普段の態度との剥離に笑いを噛み殺すのに苦労している様子が手に取るように見える。

 その団員のにやけ顔をどう感じ取ったかは分からないが、兵士はわざとらしく咳払いをすると、団長の挙動を見ながら慎重に問い始めた。

 「この村にドラゴンがいるという報告があった。それは間違いないか?」

 「ああ、それは間違いない。」

 臆すること無く即答する団長に兵士達の顔がしかむ。

 「どうやら魔物を(かくま)っているのは本当のようだな。」

 「匿っているなんて人聞きが悪いですぜ。気の合う旅人と仲良くしてるってだけでさ。」

 兵士の口許が歪む。その怒りを逆手に取ってジャルバ団長は一歩踏み込んだ。

 『少なくとも、なんも悪くねぇ旅人に突然襲いかかる人間共よりはよっぽど怖くねえ。』

 その言葉で兵士は確信する。討伐隊は少なくともこの村までは到達した。そして村人達はその顛末(てんまつ)を知っている、という事を。

 「討伐隊は……どうなった。」

 言葉を慎重に選びながら兵士は尋ねる。凄んでいるようにも、怯えているようにも感じる言葉尻からは、彼らの葛藤が伺える。

 ここでジャルバ団長も一息飲む。この答え方で今後が変化する可能性が高いからだ。

 「……その辺に……埋まってるぜ?」

 その言葉に三人の兵士は恐る恐る振り返った。

 駐屯地から村に向かう道中、進軍の痕跡を追ってきた。五百人もの軍隊が移動すれば、その痕跡は消せるようなものではない。夜営地も確認して、そこには確実に五百人分の息吹が残っていた。

 そしてその夜営地から足跡をたどりながら村まで来て、村の手前で痕跡が消えた。厳密に言えば掻き消された。まばらに生える草原の一部がごっそりと無くなって、ただの柔らかい腐葉土のような土の部分がむき出しになっていた。

 その異質な場所で何かが起こった事は間違いない。そしてその答えが今、眼前の男から伝えられた。

 「あの討伐隊が全滅したとでも言うのか……?」

 「綺麗さっぱりと。」

 さも当然のように答える団長。

 「貴様らが倒したとでも言うのか?」

 「いやいや、どう考えてもオレらで帝国軍五百人相手に戦うのは無茶すぎるぜ。」

 額に汗がにじみ始める兵士達に半笑いで手を降りながら否定する団長。

 「それに、オレらはお前ら帝国兵が放った火を消すのに大忙しで、ほとんど見てねえ。」

 そう言って左手を大仰(おおぎょう)に降り払い、少し(にら)みを効かせるジャルバ団長に気圧されたように三人の兵が少しだけ近寄った。

 「……つまりはドラゴンに全滅させられた、と?」

 三人の兵士の顔から血の気が引き始める。

 「ああ一発でな。」

 兵士の一人から引き釣った声が漏れる。だが代表格の兵士には明らかな怒りが灯った。彼らとて駐屯地の兵士であり、その五百人の中には親しい者も少なくなかっただろう。その彼らが事も無げに一発で殺されたとあってはその怒りも致し方無い。

 「貴様ら……帝国に歯向かったらどうなるか分かっているのだろうな?」

 だがその脅しに応えたのはジャルバ団長の後ろから来たモルティ副団長だった。

 「歯向かっているつもりはありませんが、その帝国軍とやらの成れの果てがその土の中ですが、これ以上どうするつもりなのですかね?」

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