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どらごん☆めいど ――ドラゴンとメイド 帝都に行く――  作者: あてな
【第一章】ドラゴンと少女たち帝都に触れる
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ヴィラーチェとモルティ

前回の投稿の最後の行で、皇帝の名前が抜けておりました。「イルラティオ・ダナン・クーリアス四世」です。大変申し訳ございませんでした。

 あのタタカナル村での戦闘から二日後、噂に(さと)い商人達によって全滅の第一報は駐屯地に知らされていた。


 軍では一般的に全滅であっても全滅の報を駐屯地に送る規則がある。それはエンチャントと呼ばれる軍用の魔術道具を使用した遠くに一瞬で文を届ける方法が使ってだ。それは全滅と判断した指揮官、もしくは通信兵や魔術師が送る事になっている。

 だがそれはあくまでも人間同士の戦争の話であった。全滅の報というものは戦争によってお互いの損耗率などを計算して、これ以上の戦闘継続が不可能で敗走すらままならない状況になった際にのみ発信される、軍の断末魔とも言える通信である。

 では、もし戦場にいる全ての兵士が同時に死に絶えた場合はどうなるのであろうか。もちろん全滅の報を出す者は存在しない。だが人間同士の戦争で五百人もの部隊が一瞬で消え去るなどという事は歴史上知られてはいなかった。

 だからこそ、駐屯兵達は商人たちの噂を全面的には信用できなかった。しかしその噂を否定することも出来なかった。なぜなら本来最低一日一回は送るはずの定時連絡が一昨日から途絶えていたからだ。

 少人数の部隊や、派遣されたイルシュ個人のような事例であれば、突然の強襲による全滅から単なる個人の怠慢まで、様々な理由で数日連絡が無い事はありえる。

 だが、分隊長や帝国騎士団(パラディン)までもが同行する正式な作戦において、そのような事態が発生するとは思えない。

 さりとて彼らが現地の状況を把握する術は無かった。

 遠隔通信のエンチャントは色々あれど、基本的には伝書鳩の魔術版のようなもので、送信は任意の場所から可能だが、送信先はあらかじめ魔力を関連付けた場所にしか指定できない。

 この時、駐屯軍が持っていた通信エンチャントの送信先は駐屯地と、タタカナル村東方の都市ドーン。そして帝国騎士団(パラディン)が所有していた帝国本部の三ヶ所であった。

 キルトランスによって、そのどれ一つとして発動させなかったのは運が良かった。

 もし帝国本部への通信が一つでも行われていれば、帝国側の動きは一足早くなってキルトランス達が帝都へ向かうよりも早く討伐軍が出ていたかもしれない。

 だからこそ派遣部隊の状況確認を駐屯地側からする事はできず、彼らも気を揉んでいたのであった。

 そこに商人達からの噂が重なった事により、残された駐屯兵はようやく重い腰を上げて状況確認に動き始めた。

 こうして三名の偵察役の兵士たちがミナレバを出立したのであった。それは折しもキルトランス達の旅立ちの日であった。



 「いいですねー。アリア達は今頃『てーと』でヨロシクやっているんでしょうな~。」

 「そうすんなり事が運べば良いのですが……。」

 馬上のモルティ副団長が相変わらずの無表情で答える。

 ヴィラーチェはと言うと、馬上の彼の更に頭の上に後ろ向きに座って足をブラブラと遊ばせている。髪型は崩れ、(かかと)が彼の後頭部に当たっているが特に注意する気も無いようだ。若干潔癖性の彼がそれを放置しておくという事態を、見る人が見れば訝しんだであろう。

 今は午後の定期巡回で、二人は村の外周を大きく反時計回りに巡回中であった。


 キルトランス達を見送った後、残されたヴィラーチェの扱いについて話し合いがあった。

 家主不在のオレガノ邸にヴィラーチェ一人を残しておいても、食事も作れなければ家事も出来ない。それを心配したジャルバ団長に対してヴィラーチェの心配事は食事だけであった。

 彼女からすればドラゴンの森に居たときですら、基本的には木の穴で雨風を凌ぐだけの生活をしていたのだから、アルビに来ても人家の軒下で雨を凌げれば十分。屋内で風まで凌げれば上々なのである。

 だが、それ以上に彼女が執着したのが食事である。

 人間界の食事をひどく喜んでいる彼女からすれば、食事が質素になることが最も耐えられないのであった。

 そもそもフェアリードラゴンは手が不器用なために、食事も加工はほとんどしない。木の実や果実や草を主とし、蛙などの小動物を食べる程度であった。その彼女からすれば、人間の食生活は驚きの連続だったはずだ。

 そんなヴィラーチェをオレガノ邸に放置しておくわけにもいかないと言ったジャルバ団長に対して、モルティ副団長が言った言葉は彼を驚愕させた。


 「しばらくの間でしたら、私の家で面倒を見ても構いません。」


 人付き合いは最低限しかしない男が、他人を自分の部屋に入れる事ですら希少なのに、寝食を共にすると言い出したのだ。だがそんな驚きを一々口に出してどうこう追求するほどジャルバ・ミランドールという男は野暮(やぼ)ではない。

 「そうか。じゃお前に任せたぜ。」

 そう言うと、さっさと自警団本部に戻ることにした。

 そもそも今回の旅立ちについて酒場の奥で話し合いをしていた時に、ヴィラーチェを残す事を提案したのは副団長なのだ。

 (今後の情勢が不透明な以上、ヴィラーチェさんでも戦力は必要でしょう。)

 彼はそう言っていた。

 彼の提案で彼女を引き留めてしまった以上、その責任は自分で追うという覚悟だろう。そう考えたジャルバ団長は、彼女が反対する様子もないので彼に任せたのであった。


 「『てーと』にはどんなスゴい食べ物があるのです?」

 「さあ……。私も帝都には一度しか行ってませんから分かりません。」

 尻尾で彼の頬をペチペチと叩きながら訪ねるヴィラーチェに眉を少し潜めながら答えるが、特に言葉に険が含まれている様子もない。

 「モルティは全然知らないのなだな。」

 「あなたの世界がどんなものかは知りませんが、アルビは広大です。私の知っている事など、この村の周辺の少しだけでしょう。」

 謙遜(けんそん)でも嫌味でもなく事実を淡々と答えるモルティに、面白くなさそうに相槌を打った時であった。

 物見櫓(ものみやぐら)からの鐘の音が湿った南風の中を泳ぐように流れてきた。少し早め調子で二回ずつ。

 「お?なんでしょう?」

 首を傾げてヴィラーチェが西の方を向いた。それに遅れるようにモルティ副団長が馬を左に回す。

 「西の櫓の方に来訪者が来たようです。この時に西から……。」

 モルティ副団長の視線がすっと険しくなる。

 隊商が西の方から来ない事もないが、ほとんどの隊商は街道が整備されている北側の道から村に入ってくる。

 そしてなによりも今日という日にミナレバ駐屯地の方角から来る人……。

 「行きましょう。ちょっと気になります。」

 その言葉と同時に馬を腹を蹴ると、馬は突然の事に(いなな)きながらも速歩(はやあし)そして駈歩(かけあし)へと移行する。

 嘶きと同時に彼の頭からずり落ちるように浮き上がったヴィラーチェもまた、並走飛行で後をつける。

 「大変な事が起こるのですか?」

 そう尋ねる彼女の顔は楽しそうであった。その無邪気な笑顔を横目で見ると大きく跳ねる馬上で小さく溜息をつきながらモルティ副団長は伝えた。

 「たぶんそうでしょう。ですから私が良いと言うまで貴女は私の後ろに隠れるようにしてください。」

 「なんですか!またワタシだけ仲間外れですか!」

 憤慨(ふんがい)する彼女をなだめながらもモルティ副団長は村はずれを走り抜けて西の櫓に馬を走らせるのであった。

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