ただいま、我が家
明日は二回投稿しようと思います。
ご期待ください。
異世界に来る前はほぼ毎日視察していた自領を見て、領主は密かに、大きな感動に震えた。
無機質なコンピュータが作り出した只のNPCと違って、生きている領民たちを、専用船に乗り、上空からに眺める。
何度も何千度も見慣れてきた領地が、まるで未知の新天地に思えてくる。
さっきからは驚きの連続だ。
破亜斗さんに驚かされ過ぎて、いい加減耐性がついてしまってなければ、部下たちの前にもかかわらず取り乱してしまうところだった。
本当は今にでも、スキップしながら狂乱の踊りをして万歳三唱したいところだが、主人公は無理矢理それを抑える。
繰り返すが、元NPCの部下たちからしてみれば長年付き合って来た上司でも、主人公側は初対面としか思えない。
流石に、初対面でいきなり変な踊りをし出したら通報モノである。
部下たちに、領主を通報する勇気の有無と、警察たちに領主を逮捕する権限の有無についてはノーコメントである。
領庁のつくりは至って質素である。煌びやかな装飾と華やかな景色とは無縁。
しかし、ショボいかというと決してそうではない。
綺麗に、合理的な区画の街の中に、荘厳な白亜の建物がその存在感を示す。
周りの建築物も、低い平屋というわけでもないのに、領庁がそれらの数十倍の高さがあるため小さく見える。
領庁の最上階に存在する『領主執務室』は長い間使われていない。
最近のヤドゥーユ領は特に大きな改革と法律の改正を必要としなかったので、その為に作られたこの部屋の訪問者は掃除のメイドくらいだ。
今、この部屋は久し振りに本来の用途で使われる。
「全員揃いましたね。今回領官を全員集めたのは、王国の緊急のプロジェクトを支援する為に、ヤドゥーユ領をそれに合わせる打ち合わせです。
場合によっては大きな変革を実行することもあるかもしれません。もしかすると、皆さんに大変な迷惑かけるかもしれないの時の為に、謝りましょう。」
領主は椅子から立ち上がって、深々とその頭を垂れた。
その瞬間、騒めきが本当に一瞬起きて直ぐに静まった。騒めきというより、驚きを隠せず、それを声に出してしまった。と言ったほうが妥当である。
しかも、常人には感知できない程の瞬間、0.1秒もないでしょう。
(あー、どうしよう。全然納得してないような気がする。そりゃそうだろうな、自分の権益が侵害される可能性もあるものな~。)
再び椅子に座って姿勢を正す。ゲーム時代じゃ全く気にならなかったが、主人公は為政者には為政者の威厳なるものが必要だと考えた。
正直言って、領民の部下たちがゲーム時代の記憶を持っているとすれば、無意味のように感じられなくもない。
一言で言えば、今更だな。
「それでは、各部門の報告を。」
ここからが本番、ゲーム時代ではステータスメニューで調節・管理可能だった経営コマンドがなくなってしまった。
完全に手探り状態の主人公はかなり焦っている。全ての項目が網羅されている画面が存在しているからこそ、自領を維持し、王国最高の鉱産資源領まで経営できた。
それをこれからも維持できるかが分からない。そんな恐怖にも似た感情が容赦なく主人公を襲う。
筈だった…
「ヤドゥーユ領、14区全て問題なし。改革に移行できると判断します。
この内、改革を拒否する区はいますか?理由次第では免除することを考慮します。」
結構すんなりといけた。
一番びっくりしてるのは他ならない領主様自身。報告書は丁寧に分かりやすく作製されており、それを読みながら区長の説明を聞けばスッとピースが嵌ったように理解できた。
主人公も恐らく分かっている。経営の才能がある訳ではない。部下たちがあまりに有能だからだ、と。
素人の主人公にも分かる程の説明と報告書を呼ばれるてから数十分で練り上げる手腕は主人公の下には惜しい。
作者:いっそのこと、主人公ナポリタンを消してしまって、領官たちの経営奮闘記でも書いたほうがいいかもしれない。
珍しくこの世の真理を言っている作者のことは置いといて。
領主の提案に反対する区長は誰もいなかった。
それどころか目にも止まらぬ速さで改革案と条例案を書いていく。耳にも止まらぬ速さで区長とヤドゥーユ領の幹部たちの会議が進められて行く。
聖徳○子も真っ青、スタ○リンも裸足で逃げてしまう人間離れした会議はものの数分で終わった。
この調子を見れば、もしかしたら報告書は数秒の間で完成したかもしれない。
と真面目に考えている主人公だった。
「それでは、オレが批准した条例を各区で実行しでください。
ラー……、国王陛下に報告して参りますので。」
ナポリタンさん、相変わらずの凡庸っぷりですね。
いつか部下が主人公の作品を書きます。