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ティーシェラン戦記  作者: 鈴木誠也
第5章 生命線を保とう
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幕間 その二

久しぶりに幕間を投稿しました。

 ワタシの名前はミズール・レグレン。

 ヤドゥーユ領の領主ナポリタン様直属の伝令官です。

 

 ナポリタン様はヤドゥーユ領の他に、あのルシェーラ領も国王陛下から賜っておられます。

 この二領は王国の経済の命脈であり、国内で一番と二番の豊かさを誇っています。

 ナポリタン様はきっと、国王陛下から厚く信頼されておられましょう。


 ナポリタン様はあまりワタシどもとは話しません。ほとんどの場合はワタシのほうから事項を伝え、返答をもらいます。

 けれども、ナポリタン様の優しさは伝わって来ます。

 ナポリタン様から御命令を賜る度に、ワタシはそれを『はい』か『いいえ』かを聞き返しました。

 主人をそのよう口調で問い質すなど言語道断、あり得ません。それなのに、ワタシは取り憑かれたのように、それを毎回必ずしていました。

 不思議なことに、当時のワタシはそれを疑問とは思わなかった。

 

 今思い返してみると、ワタシは恐ろしくて堪りません。

 ですから、それを幾千回と赦し続けたナポリタン様はきっと、慈愛を体現した存在でございましょう。


 この国は些か歪です。

 これを口にしてしまうと、不敬罪や国家反逆罪で罰せられて当然ですが、それでもワタシはこの話を続けましょう。


 まず、貴族位に値する“ぷれいや”の方々があまりに少な過ぎるのです。

 隣国である『連合』や『帝国』の“ぷれいや”は王国の十倍と五倍くらい居ます。

 それなのに、一般国民の数は両国の国民を足した数の数十倍にもなります。

 

 戦争時、国民の半分以上は徴兵されます。

 別に珍しい話ではありません。戦争が起これば、国民が兵となって国を守るのは当然のことです。

 王国は国民がとにかく多いですから肉盾くらいにはなりましょう。実際、大多数の国民はそれをする覚悟があります。


 しかし、王国はそれをしようとは思わなかった。我々を『艦隊』のクルーとすべく、訓練学校まで建てました。

 ワタシたちは『戦艦』を操縦し、決して敵と直で刃を交えることはありませんでした。

 

 ナポリタン様とその仲間たちは、我々を無駄死にすることは一度たりともありませんでした。

 ワタシども、一般国民が死ぬのは極々稀。死をその身で受け止められるのはいつも“ぷれいや”の皆様でした。

 彼らは死を恐れません。原因の一つとして、蘇ることができるからでしょう。

 されど、まだこの世に戻れると分かっていたとしても、躊躇なく命を投げ出せる者は果たしてどれくらいいらっしゃいましょう。

 

 ナポリタン様は、王国随一の権力と財力を所持しておられる。戦闘能力も、王国の上位十位には入れる。

 恐らくその気になれば、政変くらいはお手の物かもしれません。

 王国を倒せる程の力は無くとも、独立するのは問題ないでしょう。


 それなのに、ナポリタン様はそんな素振りを全く見せなかった。

 それどころか、彼は自分の私財を国に為に投げうち、帳簿を纏めたところ王国の国家予算の七十年分はありました。


 そんなナポリタン様ですが、この頃数日はヤドゥーユ領に姿を見せていません。

 ルシェーラ領にご滞在かと思って伺ったところ、そちらにもいらっしゃらない。

 

 ナポリタン様は領民思いで、三日と開けずにやって来ては領の視察に来られた。

 それを一週間以上開けてしまうのは、何か良くないことが起きてしまったのかもしれない。


 そんな不敬なことに思い馳せていた時。

 ナポリタン様はその愚かな考えを打ち消す為に来られたようにおいでなさった。

 いや、ここはナポリタン様の所領(所有物)。おいでなさるというのはおかしい。帰られたに改めましょう。

 

 今回、お戻りになったナポリタン様は少々変わっていた。

 前から普通の領主と違っていたところはたくさんございましたが、今回は少し性質が違うような気がします。


 そんな些細なことよりも、ナポリタン様は何故かいつもより多くワタシに言葉を賜りました。

 なんでも、国の為に確認したいことがあって、その為にヤドゥーユ領が大変革するかもしれない。

 それを実行する時に迷惑をかけるかもしれないと、なんワタシごときに頭を下げられた。


 嗚呼、慈愛深きナポリタン様。

 あなたはきっと、何があっても国の為に動きましょう。逃げられても逃げずに最後まで戦い抜きましょう。

 ワタシは煉獄でも、深淵でも、何処までもお供いたしましょう。

 

伝令官の名前はミズールです。

ナポリタンさん、見た目以上に慕われていますよ。

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